學校編 第3章 初仕事完了
何とか書ききれました!
階段を上り屋上に出るとそこにはさっきまで曇り空だったのに、空は茜色に染まった夕焼けで満ちていた。
そして屋上に一人、学校指定のセーラー服を着た少女が立っている。
その少女には見覚えがあった。忘れるはずもない、今回の鍵となる人物で亡くなったはずの木村沙織だ。
「貴女は……木村沙織さんですか?」
玲奈がそう言うと木村は首を縦に振った。啓人にとって彼女の姿はあまりにも普通で正直驚いたが、彼女の憔悴しきった様子を見るといじめられていたという事実が痛々しく伝わってくる。
「ここんとこ、この学校では立て続けに生徒が無くなっているが、それはアンタが関係しているのか?」
「ゆるさ――」
「へ?」
「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
啓人の問いに答える様子もなく木村は発狂し始めた。叫び声は、頃の女の子の声から次第に獣の雄叫びの様になってきた。
「ゆゆゆゆゆゆゆゆゆるさない!!! わたしは! ワタシだけが何故ぇぇぇええええええええええええ!!」
「落ち着け!」
啓人はそう言ってトランスライザーの銃口を木村へと向ける。
「ダメです! 先輩! 霊を刺激しては、もっとひどくなります!」
「じゃあどうすりゃいいんだ!」
「木村さん、木村さん。私の声が聞こえますか?」
玲奈がそう言いながら近づくと自然と木村は大人しくなっていった。
「ああ……うう……」
「辛かったですよね、誰にも相談できなかったですよね、大丈夫です。私が貴女の傷を癒しますから」
玲奈がそう言い木村の胸に右手を当てると、玲奈の右手が緑色に輝き始めると視界が真っ白になった。
啓人の視界には教師らしき人物に相談している木村の姿が映っていた。
不安と恐怖を押し殺し、いじめられている旨を話している木村に対する教師の対応はざっくりと言えば適当で何とも冷たいものだった。
そして場面は変わって教室へと変わる。どうやら教師に話した翌日の様で木村が話した内容は既に生徒中に伝わっていた。
「木村さんは私たちが嫌いなんだ?」
「不安になっちゃうんだよね~? かわいそ~」
「こっちは構ってやってるんだよ」
「いい加減、態度を改めたら? ゴミ」
そうして木村の頭にゴミがかけられる。生徒はそれを見て笑いを止めなかった。多分彼らにとってそれは娯楽であったのだろう。
他にも私物を燃やされたり、無視されたりそう言った情景が走馬灯のように啓人の目の前に移り、いつのまにかトイレの個室で首を吊ろうとしている木村の姿になった。
「やめろ!! 早まるな!!」
啓人の叫びも虚しく首を輪に通した瞬間、目の前には木村のもがき苦しむ姿が映った。同行は徐々に上を向き声にもならない叫び声を上げつつ命の灯が消えていく姿に啓人は発狂していた。
「先輩!!」
涙混じりの玲奈の声に啓人はハッと我に返る。玲奈の顔は泣きはらした後が残っており彼女にとってはかなりの負担だったのだろう。
「うええ……」
玲奈はその場にうずくまって吐いた。同じような経験を持つ玲奈にとっては苦痛すぎるものだったのだろう、啓人は玲奈の背中を擦ってやった。
「も……もう大丈夫です」
しばらくして玲奈がそう言って立ち上がると右手を開いた。中には陰陽道などでよく見る人型が握られていた。
「木村さんの霊はこの中に閉じ込めました。もう怪奇現象は起こることは無いでしょう」
「そうか……よく頑張ったよ、玲奈」
啓人はそう言って玲奈を撫でようとした瞬間、玲奈は啓人に抱きついてきた。啓人の胸の中で玲奈は号泣していた。
「怖かった……! 自分がされていると途中から錯覚してしまって……」
「本当によく頑張った。辛かったな」
啓人は強く抱きしめている玲奈をそっと撫でる。撫でていくうちに玲奈は泣き止み啓人からそっと離れた。
「吐いた奴は片付けておくから」
啓人はそう言って床一面に広がったものを片付け始める。
「すみません」
「気にするな、玲奈はよく頑張った」
「木村さんは誰かに分かってもらいたかったんです。自分の苦しみを、だから何人も自分と同じ死に方をすることでそれを訴えたんでしょう」
「でも、それは理解されるどころか木村という人物を死んでもなお排除しようという動きに変わった……」
しばらくして啓人と玲奈は一階へと降りた。啓人と玲奈に気が付いたのかしばらくすると小林が二人のもとに駆け寄ってきた。
「終わりましたか?」
「ああ、終わった」
啓人がそう言うとそこにいた生徒全員が歓喜の声を上げ、啓人と玲奈を英雄扱いし始めた。その姿に啓人と玲奈は嫌悪を感じていた。
「もう、連続怪奇現象は起きなくなる!」
「文化祭が開ける!」
「ざまあみろゴミ」
口々にそういう声が上がり啓人は反吐が出そうだった。こいつらは根本的に腐っている人間の行為じゃない、こいつらこそ真の悪魔と啓人は心の中で思った。
「良かったら私たちの文化祭――」
「お断りさせていただく」
小林からの誘いに啓人ははっきりと断った。
「人の死を喜ぶ連中にこれ以上は関わりたくない」
「そんないい方しなくても――」
小林が何か言いかけた瞬間、小林の頬に啓人の平手打ちが食らわせられた。
平手打ちを食らわせられた小林は一瞬状況がっはくで来ていなかったが、すぐに啓人の方を睨みつけた。
「何するんですか!」
「目を覚ませ」
「はあ? カッコつけんじゃねえよ」
小林の可愛らしい顔つきからは想像もできない口調に正直驚いたが、それ以上に幻滅という感情の方が勝っていた。
啓人はため息をつくと小林に背を向け玲奈を連れてその場を離れた。その瞬間、複数の男子生徒が玲奈と啓人に殴りかかってきたが、啓人はそれを見事にかわし返り討ちにした。
「ロクな死に方死ねぇよ、あいつら」
校門前で啓人はそうつぶやきその場を後にした。
仕事を終え啓人は高島へと電話をする。電話が繋がるまでにはさほど時間をかけずに繋がった。
「おお、終わったかい? どうだい、初めての仕事は?」
「初めてにしては胸糞悪かった」
「まあ、運が悪かったと思いな」
「仕事は終わったがどうすればいい?」
「いや、まだ仕事は終わっていないよ」
「どういうことだ?」
「封印した霊をきちんとした場所へ送らないとね」
「教授、その案には賛成だが、一体どうすれば……」
「神代神明宮に向かってくれ、話は付けてある」
高島はそう言うと一方的に電話を切った。玲奈に電話の内容を説明すると啓人と玲奈は神代神明宮へと向かった。
神代神明宮は神代市で一番古い神社だ。古くから住民が際神に大して畏敬の念を持っており社殿も古建築が多く本殿、仮殿、拝殿、神楽殿、舞殿の5棟がある比較的大きな神社だ。
時間は夕方で薄暗く、光を放っている灯篭が幻想的で現実離れした空間を作り出している。
「こんばんは、啓人君、玲奈さん高島さんから話は聞いているよ」
神社の境内で掃除をしている少年が啓人と玲奈にそう言った。
少年は平安時代を思わせる束帯を着ており、中性的で可愛らしい容姿をしている。
「君は?」
「僕は、ここの祭神、天大宮千尋神。名前は千尋でいいよ」
「千尋さん、さっそくなんですが、霊の方を供養してほしいんですけど」
玲奈がそう言うと千尋はついてくるように言い境内を出た。
「近くにある神宮川へ行こう、儀式はそこで始める」
神宮川とはこの神社の横を流れる大きな川だ。毎年、お盆の終わりになると住民が川に先祖をかたどった人形を流す儀式をすることで有名だ。
河原に着くと既にそこには祭壇が用意されていた。祭壇には食べ物や酒、水、などが置いてあり地鎮祭を思わせる。
「さあ、玲奈さん、右手に持っている霊魂を込めた人型を、僕に」
「はい」
玲奈はそう言って人型を千尋に渡した。千尋は渡された人型を持ち祝詞を唱え始めた。祝詞を唱え始めしばらくすると人型からヌッと木村が飛び出してきた。
「うおッ」
突然のことに啓人は驚いたが、さっきとはまるで違う木村の穏やかな顔に少しだけホッとしていた。
「木村さん、僕が天上世界へと送るお手伝いをしますから、貴方はそのまま川の中へ入ってください」
千尋がそう言うと木村は微笑みながら千尋に一礼すると川の中へと入っていった。辺りにはいつの間にか霧が広がっており、ここがまるでさっきいた世界とは思えないほどの景色が広がっていた。
「ありがとう、本当にありがとう!」
川の中腹まで来ると木村は振り返りそう言った。そうして木村は霧が消えるとともにスッと姿を消した。
辺りには今まで通りの神宮川の風景が広がっていた。
「終わったのか……」
「ああ、これで木村さんは天上界へ行った。良くやったよ二人とも」
「といってもそんなに大したことはやってないけど」
「いいや、君たちはよくやった。人にとっては大したことではないことも、その行動は時に人を救ったりすることがある。木村さんにとって自らの過去を分かってもらえたということ自体、慰めになったということなんだろうね」
千尋はそう言うと祭壇を片付け始めた。
その瞬間啓人の右ポケットに入っていた携帯が鳴り始めた。着信を見て見ると高島からで啓人はすぐに電話に出た。
「終わったかい? 初めてにしては上出来じゃないか」
「まあね」
「お金の方は口座に振り込んでおく」
「よろしくお願いします」
「今日はもう休め、人の過去を見て精神は疲れているはずだ」
高島の指摘で疲労感を感じていることに気が付いた。仕事に集中していたこともあり気が付かなかったのだろう。
「ご配慮ありがとうございます。教授」
啓人はそう言って電話を切った。
「帰るか」
「そうですね、先輩!」
啓人と玲奈はそうして神宮川を去っていった。
その後、神楽ヶ丘高校は謎の出火によって、木村のクラスメートの他、数名が焼け死んだ。放火という線で警察は調査をしているが、無論天罰なのだろう。
二人の物語はまだ始まったばかりだ。