學校編 第2章 初仕事
ようやく二章まで行きました。投稿スピードはゆっくりめですがよろしくお願いします。
啓人は神楽ヶ丘公園で一人煙草を吸いながらベンチに腰を掛けていた。
神楽ヶ丘公園というのは市街地のすぐ近くにある神楽ヶ丘にあり、啓人の大学もこの丘に立っている。
台地に公園が位置することから神楽山とも呼ばれるこの場所は、すぐ近くにある市街地のような忙しさは無く優雅で過ごしやすい時間が流れている。
「そろそろかな」
啓人はそう言って手元のスマートフォンを見るとデジタル時計には十時と表記されていた。
「先輩ーー」
そう言ってこちらに向かってくるのは、歩いている人が目を止めるほどのセーラー服を着た金髪の美少女、玲奈であった。
「すみません、待たせてしまって」
「気にするな、集合時間は十時だったし、よし、行こうか」
啓人はそう言うと携帯を取り出し高島に連絡を取り始めた。忙しいとか言っていたものの高島は電話を掛けた瞬間すぐに出た。
「やあやあ、これから始めるのかい?」
「ああ、そうだ。というか教授。忙しいとか言ってたわりに早く出るんですね」
「あ……ああ、たまたま早めに出られたんだ」
確実に嘘だ。この人は絶対万年暇なのである。高島の焦りのこもった返答に啓人の心の中でそう呟いた。
「とりあえず現地に行ったら正門で依頼者が待っているみたいだ。あとの方はその人から聞いてくれ」
高島はそう言うと電話を切る。全く身勝手なものだ。面倒事は人に押し付けるのをするのが教授の中での人の扱いなのだろう。
神楽が丘は神楽山と呼ばれることから結構な急坂であり、鍛えている人でも応えるものがある。
「ったく……こんな丘の上によくもまあ、高校を作ろうとしたなあ」
「……は……はい」
後ろ絵を見ると玲奈はもう息切れをしているようだった。流石に年頃の女の子には厳しいものがあるだろう。
「あんま無理するなよ」
「あ、いえ、これくらい大丈夫です」
「ほんとかよ……」
啓人と玲奈はそう言いながら登ってゆくとやっと正門までたどり着いた。
「待ってました」
正門に立っていた可愛らしい少女はそう言って啓人と玲奈を迎えた。少女の後ろにはおそらく明治中期ごろに建てられたであろう煉瓦で造られた校舎が立っていた。
この校舎がある学校こそこの地域でも歴史と伝統ある高校の一つ弁天台高校だ。
「事前に渡された資料をみてあらかた理解はできている。自殺者、木村沙織さんの幽霊を成仏させてやってくれか……」
「はい、文化祭が近いしこれ以上のことをされるとこの学校の伝統に泥を塗ってしまうので、あ、私、この学校の生徒会長している小林です。」
少女はそう言うと礼儀正しく一礼をしたが、啓人の心の中には小林に対する怒りがこみあげていた。
仮にも自分たちと同じ生徒が自殺しているというのに死人を厄介者扱いする。
いじめという事実を生徒側と学校側が隠蔽しようとしていることはこいつの態度をみたら確実だといえるだろう。
腐っている。心の中でそう啓人は思った。
「それで、怪異現象は具体的にどんなことが起こったんだ」
「三週間前から立て続けに生徒が亡くなっているんです。それも、トイレで首をつって」
「あの……どんな風に立て続けになくなったのか、教えていただけませんか」
玲奈がそう言うと小林はうっすら涙を浮かべながら答え始めた。
「トイレの個室で……首つりをして……それもゴミが死んだときみたいに」
「ゴミ?」
「あ」
小林はしまったという顔をしてからさっきまでの涙を嘘みたいに消し、笑みを浮かべながら答えた。
「ま、そんなことも言われたかなーって」
「ああ、そう」
啓人がそう言って話を切り上げた。正直、小林の態度にはうんざり来ていたのもあり無理矢理会話を終わらせた。
「じゃあ、俺らは怪奇現象について調査をする。何かあったら連絡する。もし万一のことがあればこっちに連絡してくれ」
「はい、ありがとうございます」
小林はそう言うと校舎へ向かって行った。
正門前には啓人と玲奈の二人が残された。玲奈の方を見ると苦しそうに胸を押さえており、息切れが激しい。どうやら過呼吸の様だ。
「大丈夫か……?」
「す……すみません、昔の記憶と混在してしまって」
「昔の記憶?」
「私、過去にいじめられていたんです。だから今回の依頼も精神的に苦痛なものがあって」
「そうか……」
啓人はそう言うと玲奈の背中をさすり始めた。しばらくすると玲奈は立ち上がり啓人に一礼した。
「ありがとうございます。楽になりました」
「それはよかった」
啓人がそう言うと玲奈は左の手のひらを地面につけると目を瞑り始めた。しばらくすると玲奈は目を開いた。
「さっき、木村さんはトイレで首を吊ったって小林さんが言ってましたよね?」
「ああ、そうだな」
「三階のトイレから凄い霊気を感じます。恐らくそこで亡くなられたのでしょうね」
玲奈がそう言うと二人は校舎の中へと入っていった。
校舎の中は文化祭近くということもあり様々な装飾がなされている。それらの装飾や文化祭準備などをしている彼らを見ると、いじめなどなかったかのように見えてしまうのだが、そう言う雰囲気こそ最も恐ろしいものであると啓人は感じていた。
無論、玲奈に関しては一度いじめを受けている身だ。啓人が思っているよりも胸糞悪く感じるのは当然だろう。
三階に着くと学校関係者は誰も居なかった。教室などはいつも使っているのだろうが装飾や文化祭関連の物がないことから文化祭の準備期間が始まった頃からは、ほぼ使っていないのだろう。
「トイレよりも最初に見ておきたい場所があるのですが先輩、いいですか?」
「ああ、構わないよ」
玲奈はトイレの隣にある教室へと入っていった。その教室は3年A組、木村沙織が在籍していた教室である。
入ってからすぐに木村の席は分かった。倒されて花瓶から水が垂れ流しになっており、目を瞑りたくなるような罵倒の言葉が机や椅子いっぱいに書かれている窓側の席こそ彼女が学校生活を過ごした席なのである。
「これは酷ぇな」
「私も過去にされたことがありますから分かります。やられている方の気持ちなんてやってる方にはわからないものなんですよね」
玲奈がそう言った瞬間、教室の中がいきなり暗くなった。外を見て見るとさっきまで晴れていた天気は曇りに代わり教室の中はまるで夕方のように暗くなっている。
「暗くなったな……」
啓人が窓を向きながらそう言い木村の席に視線をやるとそこには息をのむ光景が広がっていた。
そこには事前に見た資料に載っていた木村が席に一人座っていた。そして周りを見渡すと授業の休み時間であろうか、先生のいない教室で生徒はそれぞれのグループに固まりながらはしゃいでいた。
「幻影……」
玲奈はそう声を発した。見て見ると周りにいる人はどうやら啓人や玲奈の存在には気が付いていないようだ。
「これは……一体」
「木村さんの記憶を再現しているんです。恐らく霊力によるものでしょうね」
「なるほどな……」
そこで見る木村への仕打ちは酷いものだった。
浴びせられる罵倒の数々、傷つけられる私物や机。そしてさっきまで二人と一緒にいた小林が大きなハサミで木村の髪を――。
「う……」
その場に玲奈は蹲った。過去にいじめられる経験のあった玲奈には厳しいものがあったのだろう啓人はまた背中をさすった。
「すみません……」
「無理するな」
「今度は屋上の方から霊力を感じます。行ってみましょう」
啓人と玲奈は教室を出ると屋上へと繋がる階段へ向かった。