二人の世界
『ゥワォ~ン!』
玄関前に広がる見事な庭園の風景に、オレは歓喜の鳴き声を上げた。
写真で見たイングリッシュガーデンそのものだ。
まさに百花繚乱。中央に噴水もある。
見渡せば、田畑もあり、牛舎や厩舎、鶏小屋もある。
遠くの丘の草原には、ヒツジが走り回っているようだ。
ここはどこかの山の上なのかな?
「天空庭園よ」
アンはそう応えたが、天空庭園ってなんだろう?空中庭園ならわかるけど。
「ここは天空だからね」
天空って、天上界とか雲の上とか大気圏の境目とか太陽系とか宇宙とか?
「そんなものかもしれないけど、そんなものでもないわ。つまりここは『世界』の天空なの。世界って、自分の家でも国でも地球でも太陽系でも銀河系でもいいの。『世界』と認識していれば世界なの」
ま、わからないではない。オレの前世の「世界観」でもあったのだから。
でも、草花や樹木、牛、馬、鶏、ヒツジなんかもみんな生きているのかな?
それとも幻なのかな?
「幻かも知れないけど、ボクラはみんな生きているのよ。手のひらを太陽にかざしてみたら?」
前足を太陽にかざしてみる。確かに真っ赤(わからないけど赤、だろうね)な血潮が流れている。
でも、あの太陽は本物で、「この世界」は太陽の周りを周っているのかな?
「地動説と天動説ね。それもどうでもいいこと。ちなみに夜は月も星も出るわ。詳しくはこれから話すから。あちらの四阿で、ゆっくりしましょう」
もっけの幸い。これでアンから前足を踏まれる危険性がなくなる。
「何を言っているのよ。アナタはワタシの足元でお座りするの」
油断も隙もありゃしない。これからこんな日々が続くのかな?
「いいから行くわよ」
振り返ると、小さな中世の城がある。さっき中にいた建物だな。本当に小さくて、大邸宅並みだけど庭園の光景と実にマッチしている。
「ま、当面、ここはアナタとワタシの二人の『世界』よ」
歩きながらアンがそんなことを言う。当面、が気になるが。
四阿についた。
「さあ、ここにお座り」
アンが命じた。チェアに座ったアンの足元におとなしくお座りする。
しかしここは、なかなか素晴らしい天空庭園ではないか。
食うには困らないだろうし、オレの仕事といえば、ヒツジを追い回すぐらいかな?のんびり楽しく、美女のアラサーのアンと毎日暮らすなんて天国だ。
「何言ってるの、ワタシ達には使命があるのだから。天空庭園は休憩地」
え?使命?
するとアンがすくっと立ち上がり、天を指して叫んだ。
「原始イヌは太陽であった」
オイオイ。なんじゃそりゃ。
これからどんな説明が始まるの?
文中の歴史的あるいは科学的記述は全てデタラメです。