虚時間(きょじかん)の滝
気が付いたら1週間、更新さぼってました。次話はもうアタマの中でできていますので、大丈夫だと思います。
タケルの体がボロボロと崩れていく。地面に落ちた花が急速に枯れていくみたいだ。
そして、ほのかな紅い光を放ち、消えた。
成仏したな、という安心感と深い哀しみ。
すると、プツ、プツ、プツ、というかすかな音が聞こえてくる。
音のする方に目を向けると、崖の斜面から汗のように小さな水玉が噴出している。
だんだんそれが増えて下に流れ出す。
滝、というよりも小さなダムのようだ。
水流は薄く細く、崖の凹凸に衝突しながらアラベスク模様のように複雑な図形を次々と描きながら落ちていく。ほのかな紅い光を放ちつつ。とてもきれいだ。
「『虚時間』の滝よ」と、アン。
『虚時間』の滝?
「虚時間は、実時間が流れる方向と、直交するように流れるの。水の流れも時間の流れのようなもの。実時間で水が上から下に流れるなら、虚時間では向こうから手前に流れるの。あの崖の内部が虚体みたいだから。水が実の世界に触れて下に落ちていくの。ここはまさしく実の世界と虚の世界のはざまで、あの崖が結界なのね」
ふーん。でも美しい景観だな。実世界と虚世界が触れると、こんなに息をのむような風景に出会えるのか。
でも水はどこへ流れていくんだろう?
近づくと、滝の前中心の地面に、直径2メートルぐらいの穴が開いている。
穴の見えない奥底に、まさしく滝のように落ちていく。
「行ってみましょうか」
アンの後について、滝の垂直な洞窟を降りていく。頭から降りようとして、ヤバイと感じて人間とおなじように前足で崖をしっかり掴んで、後ろ足から降りていく。
頭の上をふわふわと何かが飛んだ。コウモリだ。が、翼が異様に大きい。
崖にはカエルや蛇、イモリが這っている。
本当に、命綱がほしい。化け物がいそうだし。イヌの体勢としては無理があるし。
よし、空間移動を使うか。360度毎秒360回転。
ここは実時間側だから、重力の自由落下で、らせん階段を下りるようにゆっくり落ちていくはずだ。重力加速度よりも、オレの円運動加速度の方がはるかに高くて、ベクトル的には中心から真上を向いているからな。なかなかいいアイデアじゃないか!オレは上方への加速度が重力加速度の95%になるように角速度を計算した。
ヨシ、無敵のイヌになった気分だ。
じゃあ、アン、お先に!ヨシッ!気合を込めて。
洞窟に衝突しないように半径を念じて空間移動開始。いいぞ。ゆっくり落ちていく。
後ろ足に神経を集中して、着地したらすぐに円運動を止めることにする。
足に岩が触れた。今だ。
…ふう。どうやら着地に成功したようだ。はるか上から滝が流れている。
そして大きな滝壷がある。水しぶきが紅い霧となって漂っている。
そして巫女装束の若い女性が、滝に打たれている姿が。ドドドドと流れる滝の水音に合わせるように、ベーン、ベーンと津軽三味線のような音が聞こえる。
何これ?オレは津軽三味線の音を聞きながらアンを待つことにする。
コメント、評価よろしくお願いします。大歓迎です!!
ダムというか滝のモデルは、大分県竹田市の「白水ダム」(国指定重要文化財)です。https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%99%BD%E6%B0%B4%E6%BA%9C%E6%B1%A0%E5%A0%B0%E5%A0%A4
日本一美しいダム、と呼ばれています。