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聖犬アンの創世記  作者: 格有紀
13/15

愛犬は二度死ぬ その2

 タケルは倒れて口から泡を吹き、短く弱い息を、激しく繰り返している。

 目は開いているがうつろだ。


 オレは何も言えなかった。言葉が出ない。言葉にならない。

 罪悪感にひたることしかできない。


 この光景と時間は、とても耐えきれない。オレは何もできないのか。


 手が自然とタケルに伸びた。そして座ったままタケルを抱き上げた。

 前世のタケルは重かったが、霊だから軽い。

 その軽さが、無性に哀しい。


 タケルをそっとさすり始める。涙が止まらないどころか酷くなる。

 タケル、オレはどうすればいいんだ?


 タケルと目があった。オレを見ている。


「なぜ、、、オレがアンタに噛みつくようになったか、、、わかるか?」

 タケルの念話が飛んできた。


 オレは黙って首を横に振った。


「わかんないだろうな。。。そもそもアンタと元カミさんとは、、、仲がとてもよくて、、、オレが小さいとき、、、いつも一緒にとても可愛がってくれて、、、楽しかったんだぜ。。。それがあるときから、、、ケンカをするようになって、、、家の中にイヤな空気が漂い始めた。。。これは困ったな、とオレは感じて、、、わざと脱走したり、、、大声で吠えたり元カミさんに唸ったり飛びついたりして、、、アンタらの気をひいてたんだ。。。そんなオレをアンタは面倒みてくれたが、、、元カミさんは相当怖がっていたな」


 タケルは息も絶え絶えに念話を続ける。


「そのうち、、、アンタはオレを連れ出して、、、引っ越した。。。元カミさんはオレが苦手だったみたいたから、、、アンタがオレを連れていくのを黙っていたんだろう」


 前世のタケルは脱走して近所のイヌを半殺しにしたり、相当狂暴だったからな。そのころは元カミさんも、タケルに餌をやるのすら怖がっていた。でもあれは、そもそも夫婦喧嘩が原因だったのか。


「アンタと暮らすようになって、、、しばらくは楽しかったけど。。。ある日、アンタと一緒に元カミさんが棲む家に残した荷物を取りに帰ったとき、、、アンタが荷造りしている間に、、、そっと元カミさんが車の中にいるオレのところへやってきて、、、微笑んでパンをくれて首筋を撫ぜてくれたんだ。。。久しぶりのことだったから、、、うれしかったよ。。。で、昔を想い出して、、、家族で暮らすのはいいな、と思ったんだ」


 そんなことがあったのか。知らなかった。そういえば、タケルがオレに噛みつくようになったのは、あのころからだった。


「だからオレはアンタに、、、どうして元カミさんと仲良く暮らせないんだ、、、と文句を言うつもりで、、、餌の前やら散歩中に、、、唸るようになったんだ。。。オレはこんな性分だから、、、どうしても表現がきつくなるのが悪いところだけどな。。。そのうち何度訴えても伝わらないから、、、『まだわからないのか』と、、、アンタに噛みつくようになったんだよ。。。オレは狂犬になったわけじゃない。。。近所の子供を噛み殺そうなんて、、、さらさら思ったことはなかったんだぜ」


 オレはそんなタケルの心に全く気付いていなかった。なのに殺してしまった。なんということだ。


「オレはワケがわからないまま殺されたので、、、アンタの目が覚めるように、、、夢の中に出てやったんだ。。。ここのところアンタがいなくなったようだ、、、どうしたものか、と思ったら、、、偶然、ここで出くわした」


 オレは人間が嫌いでイヌに転生したからな。


「それがダメなんだよ。。。前世のアンタは、、、人間のくせに人間嫌いで、、、犬の方がかわいい、、、とか言ってたけど、、、アンタはオレよりも、、、元カミさんに愛をそそぐべきじゃなかったのか?。。オレが元カミさんの足にしがみついて腰を振っていたのを笑って見ているんじゃなくて、、、オレを叱り飛ばすべきだったろ?。。アンタと元カミさんとが幸せなら、、、オレも幸せだったんだから。。。そこがわからないから、、、アンタは人間社会でうまくやっていけなかったんだ」


 うん。タケルの言うとおりだ。根本的な間違いだった。本当にすまなかった。


「これでやっと成仏できるようになったから、、、もう、文句はない。。。アンタがイヌになって、、、そこの飼主らしいオネエサンとこれからどうするのか知らないけど、、、アンタ、他人や他のイヌを愛しろ。。。自分から敵を作っちゃダメだぜ。。。じゃあな」


 というと、タケルは成仏した。


 アンが近づいてきた。


「なかなかいいことを言うイエイヌだと思ってスキャンしてみると、びっくりしたことにカムイヌの血が濃く流れているみたい。イエイヌにはあり得ない偶然が起こったんだと思うけど。そのうちまた、出会えるかもしれないわ。そのとき彼は、ワタシ達のいい仲間になるかもよ」


 タケル、また会うまでな。

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