エドンの東へ出発
今回はめずらしくギャグなしです。考えている気分じゃなかった。
アンと「エドンの東」へ向かう。つまり日本の東北地方。
そのあたりにいるであろう「ワンキューレン」の子孫を探すのだ。
「エドンの東」っていうけど、東北じゃないの?ま、江戸の真東は海だけどね。
東北なら、エドンの鬼門なの?
「虚実道に鬼門の概念はないわ。別に呪われた方角というわけじゃないけどね。でも東北にはイタコの文化なんかが今でも生きているから、虚の世界とつながっているのかもね。だから世界儀で反応が出たの」
ということらしい。
まずは、世界儀でそれらしい場所は、秋田犬のふるさとである秋田県大館市あたりではないかと、アンと話し合って天空庭園を出発した。
アンはちゃっかりと剣士風の姿に着替えている。
武器は身に着けていないようだが、テキトーに出すのかな?
オレはそのままだが。どうせ武器使えないし。
まずは虚の世界を通じた空間移動の術で対応するか。
で、今、天空庭園から大館市の周辺の林道のあたりに降り立ったようだ。
アンによると世界儀でも「ここらあたり」しか見当がつかないようだ。
おお、はるか向こうに大文字の「大」の字の山が見える。懐かしい。
ここは生前オレが棲んでいたこともあった、小坂町との中間あたりかな?
それにしても、ヒトの気配が全くない。
イノシシでも出そうだが、その気配もない。
林道とも登山道とも呼べないような、沢の道だ。
足元には枯葉と石、流れる水しかない。
どれもオレの眼には緑の濃淡にしか見えないから、
たとえ野に花が咲いていても自然を愛でる気分じゃない。
でも樹に囲まれて、澄んだ空気は気持ちいいものだ。
ひんやりとした緑の香りに包まれて実に気持ちがいい。
まだ夕方ぐらいのはずだが、樹々に日差しが遮られて薄暗い。
ところどころ、飛び石をつたって沢を渡りながら進む。
しかし、風もないし、音のない世界だな。
夕方だから、秋の虫の鳴き声もしないのかな。
だいぶん歩いてきたはずなのに、全く疲れを感じない。
沢を渡るときも、滑って転んだりしない。
前世の時と違い、イヌに生まれたらこれほど元気なんだな。
ところでオレって今何歳なの?
アンがアラサーなら、5歳ぐらいかな?
「何言ってるの。ワタシもアナタも転生した時から不老不死なの。年齢そのものが意味がないわ」
へー、そーなんだ。だとするとこれからアンとずっと一緒だ。
そんなことを考えていると、水の音が聞こえてきた。
アンと誘われるように進んでいくと、小さな滝があった。
さらに進むと、小さな、いやそれなりの大きさの滝があった。
沢沿いを歩き、沢を渡り、時には小さな崖を上りながらどんどんと進んでいく。
どうやらこのあたりは滝だらけだ。
だんだんと陽が暮れてきたようだ。
周囲が薄暗くなる。月が出ているかどうかわからない。
ほどなくあたりが真っ暗になる。
オレは暗視能力が高いから別に困らないが。
やがて、目の前に10メートルはあるような、崖に突き当たった。
行き止まりだ。その威容でオレたちの行く先を拒絶しているように見える。
「仕方がないわね。一休みしましょうか」
アンがそう言って、岩場に腰掛ける。
オレも傍にお座りする。もう足を踏まれないから安心だ。
暇なのでアンにかまってほしいから、膝にお手をしたりクンクンするが、
アンは何やら考え事をしているようで、相手にしてくれない。
すると、だんだんと深い霧が立ち込めてきた。
崖の方向から、紅い霧が漂ってくる。あの崖は虚の世界との結界かな?
崖の上がボーッと白く光る。
白い光の玉がこちらへ飛んできて地面に就いた。
白い光が紅い燐光を放ち、「ウーッ」と唸った。
だんだん姿が見えてきた。
あれ、アイツじゃないか!
コメント、評価よろしくお願いします。大歓迎です!!
記述されている科学的・歴史的・哲学的風な根拠はデタラメです。
大館市の「大文字」は鳳凰山(実在)です。
アンと歩いているルートは、高森への登山道と、茶釜の滝(日本の滝百選のひとつで、三大難攻滝)への沢コースをリミックスした想像上の山道です。
作者は体力がないのでガイドが居ても茶釜の滝へは絶対に辿り着けない(泣)。