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聖犬アンの創世記  作者: 格有紀
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ワタシ、死ニマスワン

アインシュタインの「第三次世界大戦はどのようなものになるかわからないが、第四次世界大戦は石と棍棒のによる戦争になるだろう」という言葉に刺激されて愛犬への愛情と感謝を込めて書き始めた作品です。

 お座りした愛犬アンの首筋を撫でていたら、オレを見上げて言う。


『ワタシ、死ニマス』


 アンは、大きくぱっちり目を開いている。


「元気じゃないか。とても死ぬように見えないけど」


『デモ、ワタシハ死ヌノデス』


 不思議なことを言うものだ。しかしアンが人間の言葉をしゃべるのははじめてだ。もちろん、オレの夢の中にアンが出てきて会話をしたことがある。

 夢ではスナックの中で隣に座っていた。アンはあーだこーだと、意味不明なことをしゃべっていた。唯一聞き取れたのは、カウンターの中の若い娘を指して、


『アノ娘ハ、胸ガ大キイケド頭ハ悪イ』


という言葉だけだった。それ以降、アンと話したことはない。


 だからアンが話すのはよほどのことなのだ。何しろオレの人生と共に10年ほど生き、今まで支えてくれた「聖犬」なのだ。死期を悟り、飼い主に告げたいのだろう。でも…


「死ぬのはダメだ。愛犬が死ぬペットロスの苦しみは、キミの前に飼っていた犬で、そりゃもう痛いほど味わったのだから。オレにとってキミは『聖犬』だからわかるだろう。死んじゃ、ダメだ!」


 オレは泣き喚いた。するとアンは、


『ワタシハ、不老不死ノ「聖犬」デス。ダカラ、何度死ンデモ、来世ニ転生スルサダメナノデス。ソレニ、引キコモリデ自閉症ノビビリ犬デアルワタシヲ、「犬ノ十戒」ソノママニカワイガッテクレタアナタニハ、ワタシト共ニ転生スル犬利(けんり)ガデキマシタ。モシ、ヨケレバ、イッショニ転生シマショウ』


「オレも一緒に転生できるの?」


『タダシ、条件ガアリマス。アナタハ犬ニ転生シテ、ワタシハアナタノ飼主ニナリマス。性別ハソノママデスケドネ』


「もちろん、大満足だ!」


 これまでのオレの人生と言えば、犬畜生以下のみじめな人生だった。それが犬として生まれ変わるなんて、素晴らしいじゃないか!


『ヨロシイノデスネ』


「逝く~」


 なにしろ「不老不死」のアンだ。1歳で飼い始めた時から10歳の今まで、体形や大きさ、顔も仕草もほとんど変わらない。散歩していると誰もが「可愛い」とほほ笑んでくれる。ふさふさした長い毛並みも魅力的だ。


 雑種だけど「何犬ですか?」と問われると「血統書付きのゴールデンミックステリアです」と答えていた。子犬と言っても通用する幼さも変わらない。ある時、引っ越しのスタッフが「こいつは『ロリ犬』だ」と言ったぐらいのもの。実に来世が楽しみだ。


『逝キマスヨ』


 アンが手を差し出した。


 オレは手を重ねて瞼をゆっくりと閉じた。


 アンは、きっと可愛い娘に転生する。オレは、今のようなふわふわしたアンのような犬に転生して、可愛い娘にモフモフされる来世が約束されているのだ。ムフフフフフフ…


 そんなことを考えていたら、だんだん意識が薄れてきた。


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…甘かった。


文中の歴史的あるいは科学的記述は全てデタラメです。

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