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 日をまたいで、わたしがこの町に来てなな月めになった。

昨日ちょうど夕飯のころに帰ってきた駐在さんは優しく笑おうとしていたけれど、少しだけ怖い顔だった。あれはなにか悩んでいるのかもしれない。悩みがあるなら聞いてあげたいけれど、わたしなんかが駐在さんの力になれる自信はない。わたしにできることといったら朝食に駐在さんの大好物である黒ゴマ豆腐をそっと出すぐらいだった。



「…心配かけてるみたいだな、すまない」

「い、いいえ、わたしにできることといったらこれくらいですから」

「ああ、ありがとう」


 わたしの気遣いはすぐに駐在さんにばれた。差し出された黒ゴマ豆腐を見て駐在さんは少し表情をやわらかくしてくれた。よかった、少しは駐在さんの力になれたのかもしれない。



 その日は掃除代行の予約も無かったのでカウンターに座って予約に訪れる人を待っていた。けれどその日最初の訪問者はお客様ではなかった。



「よう掃除屋」


 黒いローブに紅葉色の髪の毛をした訪問者、それはセラさんだった。いつになく晴れやかな顔だ、目つきは怖いけど。ところでセラさんはわたしを掃除屋と呼ぶ。間違ってはいないけど、なんだかむずがゆい。



「セラさんこんにちは、どうされたんですか?」

「お前時間あるか?」

「はい、今日は予約が無いですから時間はあります」


 セラさんはやはり目つきは怖いけど晴れやかな顔でわたしの予定を聞いた。なんだろう、また洗濯機と乾燥機についての相談だろうか。セラさんはひと月前のあの日から、たまに魔法製品を洗う用の洗濯機と乾燥機の開発についてわたしに意見を求めに来ることがあった。今日もそれなのかなと思ったんだけれど。



「よし、じゃあ俺んとこ来い、見せたいものがある」

「見せたいものですか?」


 見せたいものというと、なんだろう。セラさんのこの晴れやかな顔、見せたいもの、うーん。



「もしかして、完成したんですか?」

「ふふん気づいたか、まあ試作品段階だがな」


 セラさんは自慢げに鼻をならして、お前の意見を聞こうと思ってと言ってくれた。すごいなあ、ひと月で試作品を作ったんだ。それにセラさん製作過程は見せてくれなかったから楽しみ。



「そういうわけでちょっとこいつ借り…うお!?なんて顔してんだマーリン!」

「あ?あ、ああ、すまない」


 セラさんが驚いた声をあげたのでわたしも思わず駐在さんを見たけれど、すでにうつむいて眉間に手を当てていたのでどんな顔をしていたのかわからなかった。セラさんは相当驚いたのか、鋭い目をまんまるにして心臓のあたりに手を当て、ああびっくりしたとかつぶやいている。



「いや、ほんとすまない、少し神経質になってるみたいだ…」

「何があったのかは聞かねーけどさ…気を付けろよ、お前顔怖いんだから」

「お前が言うなと言いたいが今のは完全に俺が悪い、すまなかった…」


 2人だけのやりとりが行われているのを、事情のわからないわたしはただ見ているしかできなかった。


「とにかくこいつ借りていくからな、試作品見てもらいてーし」

「ああ、わかった」


 セラさんがそう言うと駐在さんはようやく顔をあげた。眉間にしわがよっていていつもより怖い顔をしている。


「じゃあ駐在さん、行ってきます」

「ああ、気を付けてな」


 怖い顔にひるまず声をかけると、駐在さんはすこしだけ眉間のしわをのばしてくれた。

 表に出ると、これはなんだろう、原付のようなものがとまっていた。セラさんが当然のようにそれに近づいてエンジンをふかしたからセラさんの乗り物なんだろうということはわかった。



「ほら、後ろ乗れ」

「えっ」

「俺んちは丘の上だからな、歩いていくのはきついんだよ」


 セラさんはそう言って、ほらと急かす。セラさんが急かすので後ろに乗らないわけにはいかない。後ろの座席に座ると、セラさんは腰を掴めと言う。そんな、駐在さんの腰にだってしがみついたことないのに、と思ったけど駐在さんの胸にすがりついて泣いたこともあったっけと思い出して大人しくセラさんの腰にしがみつくことにした。

 動き出した原付はどんどん周りの景色を追い越していく。あっいま干物屋さんのおばあちゃんを追い越した。そうだ帰りにタラの干したのを買おう、駐在さんの好物だから。









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