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その日の夕食の席で、駐在さんは怖い顔して話を切り出した。
「アカネ、お前を試すような真似して本当にすまない」
駐在さんはそう言って頭を下げる。そ、そんな、駐在さんが謝ることじゃないのに。
「あ、あの、わたしが悪いんです、こうなることまで考えが及ばなくて、駐在さんはわたしが自分で気が付くようにしてくれたんですよね」
「だがそのためとはいえ、泣き虫なお前に怖い思いをさせた」
「それは」
たしかに怖い思いはした。けれどセラさんは顔が怖くて駐在さんの言うとおり、口が悪かっただけで手を出してくることはしなかった。それに内容だって、けして理不尽なものではなかった。
「たしかに怖かったですけど、わたしが受け止めなくちゃいけないことしかセラさんは言いませんでした、もうあの時のことは怖くないです」
駐在さんを安心させたくてそう言うと、駐在さんは怖い顔を少しだけほぐしてくれた。やっぱりそうだ、駐在さんが怖い顔すればわたしも怖い顔するし、今みたいに駐在さんが笑えばわたしも笑う。
「お前は成長したな」
駐在さんがかけてくれた言葉が嬉しくてもわたしは笑う。
さて、タイムリミットは3日。この間にセラさんのお仕事に生じた不利益の解決法を考えなければいけない。とはいえ、どうしたらいいんだろう?商売の素人であるわたしにはわからない。だから町のお店屋さんや自営業の人に話を聞くことから始めることにした。それで1日目が経過した。
2日目、聞いた話をもとに考えてみた。んん、別ジャンルのお話を自分の事に置き換えて考えることは難しい。
3日目、わたしは港に居た。
懐かしい場所に来れば、よく考えられると思ったからだった。へりに腰掛けて足を海へ投げ出すと海の匂いをおなかいっぱいに吸い込む。はあ、懐かしい。
「よう、何してんだ」
「あ、セイくん」
懐かしさをかみしめていると、氷水あめを持ったセイくんが声をかけてきた。セイくんはそのままわたしの隣に腰掛ける。氷水あめはセイくんの好物で、特殊な製法で細かく砕いた氷が入っているという、夏にぴったりの水あめだ。セイくんはなぜかそれを2つ持っていた。
「お前がいるの見えたから買ってきた、食うだろ」
「いいの?ありがとう」
なんとセイくんはわたしのためにもう一つ買ってきてくれたというのだ、セイくんはぶっきらぼうだけどやはり優しい。受け取った氷水あめをぐるぐると練っていると無心になれる。
「お前大変なんだってな、いろいろ聞いた」
「あーあはは、そうなんだよね、いっぱい考えて結論はひとまず出したんだけど、これでいいのかなって今悩んでるところ」
わたしはまだ氷水あめをぐるぐると練っている。やっぱりセイくんは話しやすいなあ、漁師さんだからっていうのもあるけど、きっと似ているんだ。
「駐在さんにも相談したけど、お前がそう考えたのならそうしろって言うだけだから、自分で考えなくちゃいけないことだからそう言ってくれたっていうのはわかるんだけど、やっぱり不安になっちゃう」
「ふうん、そうか」
ぶっきらぼうで正義感が強いところとか。
「マーリンさんがそう言うってことは、お前の出した結論を悪くないって思ってんじゃねーの」
「え」
「さすがにダメだと思ったら言うだろ、何も言わないってことはそれでいいってことじゃん?」
悩んでいたら相談に乗ってくれるところとか。
「うん、そうかも」
不安を吹き飛ばしてくれるところとか、そういうところ。
「ありがとう、セイくんってお兄ちゃんみたい」
「お…」
幼馴染のお兄ちゃんに似ているんだ。
「お兄ちゃん…か、いや、まあ、うん、お父さんよりマシか…」
セイくんが海に向かってなにかぶつぶつ言っているけどよく聞こえない。そうかあ、セイくんの面倒見がいいようなところ、幼馴染のお兄ちゃんに似ていたんだ。お兄ちゃんもよくお父さんとケンカしてた。それを漁師のおじさんたちがまあまあって仲介して、それが日常の風景で。あっ思い出したら泣きそう。
「なんでいきなり泣いてんだよ!」
「え、あれ泣いてた?」
わたしが泣きそうと思ったときはもう遅いらしい、いつの間にか泣いていた。
あっセイくん、その呆れたような顔もお兄ちゃんにそっくりだよ。




