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紅葉色の髪の毛に見とれているとセラさんに怒鳴られた。
「あに見てんだ!」
「ひえっごめんなさい、あんまりキレイで」
「あ?ば、おいばか、何言ってんだ、ばかじゃねえの」
2回もばかって言われた。セラさんはわたしの隣で駐在さんが笑ったのに対してまた怒鳴っていた。わたしは駐在さんの目の色がイチョウ色に見えた。
「ああもう、いいから本題に入るぞ、俺はさっきこいつが言ったとおり魔法技師だ、丘の上で魔法製品の製造と販売をやってる、まあ接客は機械にやらせてるがな」
セラさんの口調はさっきよりはやわらかくなった。気を遣ってくれているのだろうかと思うとちょっと申し訳ない気になる。
「その機械に残った履歴を見ればどの顧客がいつ買いに来たかわかる、買い替えはおよそ半年だから次にいつ来るかもだいたいわかるんだ、だがこの月からその予定が狂い始めた」
「ひえっ」
「こら睨むな、お前の顔は怖いんだから」
「だからお前が言うな」
セラさんはわたしから視線を外して話の続きをしてくれる。
「変だと思ったから、客の会話を録音してみたんだ、そしたら町で魔法製品を洗うなんてことが噂になってるそうじゃねえか、よくよく話を聞けば知ってる名前が出てきたから腹がたってこうして街まで下りてきたってわけだ」
それが駐在さんの名前を叫びながら交番へ突撃してきた経緯らしい。でも、魔法製品洗いますはわたしの始めたサービスなわけで、それがセラさんの商売に迷惑をかけてしまったということ。つまりそういうことだよね?それって。
「ごめんなさい」
とても大変なことをしてしまった。半年しか使えないなんてもったいない、そんな軽率な考えで商売の均衡を崩してしまったんだ。魔法製品だって誰かが作っているのに、誰かが売っているのに。勝手に需要を減らしてしまった。それでしわよせをくらう人がいるのに。そんなこともわたしは考えられなかった。
「わたし、考えが足りなくて、ご迷惑を、かけてしまって」
わたしが悪いのに泣いてしまっては気を遣わせてしまう。だから泣いちゃだめなんだけど、泣き虫なわたしはやはり涙が止まらない。ああ、セラさんがばか泣くなと焦っているのがわかる、気を遣わせてしまっている。わたしが悪いのに。
ぽむと頭に手が置かれたのがわかった。
「実は、謝るのは俺もだ」
それは駐在さんだった。怖い顔をしている。わたしの涙は止まらなかった。
「俺はアカネが魔法製品を洗うという発想をした時から、こうなるんじゃないかとは思っていた、だが黙っていた、すまない」
「おまえっ」
セラさんがギッと駐在さんを鋭い目で睨み付けた。でも手は出ない。
「魔法製品を洗うことは、それだけ価値のあることだと思ったからだ」
駐在さんはやはりセラさんが手を出さない事をわかっているからなのか、とても落ち着きはらっている。そんな落ち着いた駐在さんのさまがわたしにもうつったのかもしれない、だんだんと落ち着いてきた。
「セラ、少し時間をくれ」
「時間?」
駐在さんはセラさんをまっすぐ見つめてそうお願いした。
「この問題をどう解決するか考える時間だ、お前の不利益になることはしない」
「お願いします!」
駐在さんの表情を見ていると、わたしもお願いしなければいけないと思って立ち上がり頭を下げた。いや、そもそもわたしがしなければいけなかったんだ。迷惑をかけてしまったのはわたしの責任なんだから。
しばらくの沈黙の後、セラさんの声が聞こえた。
「…3日待つ」
顔を上げると「ば、だからそういう顔は」とセラさんに怒られた。
それからすぐにセラさんは「じゃあな」と言い残し、その紅葉色の髪をフードに隠して交番を出て行った。




