公園の待ち人9
春の匂いがする風だというのに、真冬のような格好をしている。厚手セーターに、厚手の手袋、厚手のマフラーに厚手のニット帽。一言で言えば……ものすごく怪しい。
そして手には、草花が握られていた。近くで摘んできたのだろうか。花はまだ生き生きしている。これは冬にしか咲かないマルギッタ。今の時期には非常に珍しい。たしか花言葉は……
――来世の初恋。
「その花……」
「あぁ、これかい? この花は、君にだよ」
ボケてるの? 私じゃなくて桜の木に添えている。
以前に添えられていたマルギッタをどけて新しく添える姿は、なんというか……可哀想に見えた。私もいずれこんな風にボ──いや認知症になってしまうのかと思えば残念でならない。
そもそも見知らぬ私にプレゼントする時点でおかしくない? 身近な誰かと勘違いしているんじゃないの? そう考えたら、なんだか放っておけないんだけど。
「少しなら、お喋り付き合ってあげてもいいよ」
「それはありがたい。今日もいっぱいお話しようか、加奈子」
――ぇ、なんでこの人、私の名前を……?
「君は、毎日同じ顔をするんだね。そんなに怯えないで」
毎日……? あぁ、そうか。きっと同名の人がいるんだな。私はこのおじいさんを見た事がないし。
しわだらけの顔を緩ませ、私に向って優しく微笑んでくれる。
もう老い先短い人。私を誰かと勘違いして、このおじいさんが幸せに人生を終える事が出来るのなら、私は喜んでその役を演じよう。今まで人に優しく出来なかった分、来世に行っても覚えててもらえるように彼の心を温めよう。
「そうだ、君がなかなか僕の事を覚えてくれないのなら、ここに石を積んでいこう。僕が君に会いに来る度にね。それを見たら、僕を思い出してほしい」
まるで私の事をずいぶん昔から知っているような口ぶりなのね。
「誰と勘違いしてるの?」
「……」
悲しげな瞳で見つめてくるおじいさんに対して、私はとっさに口をつぐんだ。……やらかした。傷つけちゃったかな?
「う、ウソウソ! 今の……ナシ」
「……僕には、大好きな子がいたんだ」
おもむろに遠くを眺め、語りだす。
「ぇ?」
「もう、ずっと昔に死んでしまったけどね」
……




