公園の待ち人8
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「ここ、いいかな?」
桜の木の下で足を伸ばしきって、風と戯れていた時だった。ひとりの見知らぬ老人が私に声をかけてきたのは。
弘前市立第一中学校から歩いて三分の所に、公園はあった。その公園の中央に、樹齢千年と言われている立派な桜の木はある。
桃色の花弁は小さな公園を彩り、時に強く舞い上がったり、静かになったり、まるで私の心と呼応しているかのように踊っている。
今から十年前、ここで私はひとりの少年と約束を交わした。
少年の名前は、大庭真咲。
当時、中学の卒業式。あのバカ……真咲は私に、告白を通り越してプロポーズしてきた。この身がちぎれるほど強く抱きしめられ――正直迷惑で、どうせくだらない遊びでも思い立ったのだろうと本気にしなかったけど……彼の目を見ると、真剣そのものの様子だった。
あまりに唐突で、そして邪心の欠片も見せない瞳に、私はとっさに「はい」と答えてしまった。
すぐさま考えなおして条件をつける。これから先、本当に私への想いが変わらないのなら、十年後またこの公園で告白してほしいと。
あれから指折り数えた結果、あと二日で十年になる。
言い寄ってくる男には無言の圧力をもれなくプレゼント。高校で貰ったラブレターは読まずに全て焼却炉行き。財閥御曹司とのお見合い話を断り、それでもしつこいアイドルスカウトマンの股間を蹴り上げ今に至る。
どれもこれもあれもそれも、バカなあいつのため。噂では、私に告白すると不幸になる上、再起不能。男たちの骸で道が出来ると揶揄されていたらしい。
どおりで最近では声が掛からないはずだ、と安堵していたのも束の間。今回はジジイからお声が掛かってしまった。どこの店? とか聞かれたらブン殴ってもいいよね。
「イヤだ、って言ったら?」
「つれないなぁ」
七十代だと思われるヨボヨボのジジイは目を細めて軽く唇を尖らせた。どことなく雰囲気があのバカに似ていて、思わず「いいよ」と口を滑らせてしまう。嬉しそうに隣に座ったおじいさんを見て、ふと疑問に思った。