08:真実と想いと重なる日常
俺が目を覚ますとそこにはなぜか高島伸行がいた。俺は目をこすりながら、思考しある結論に至る。
「俺の部屋に勝手に入るなよ。」
高島は苦笑しながら、
「泊めてやったのに第一声がそれかよ。つか、お前の部屋じゃないぞ。俺の部屋だ。」
「あれ?本当だ。なんで俺は高島の家に泊まってるんだ?」
「昨日のことどこまで覚えてるんだ?」
「えっと・・・・Aria War に参戦して、相手チームがルールを守らず攻めてきたから公園外周沿いに逃げて・・・ああ、そうだ。アロハシャツに捕まって酒を強引に飲まされたんだったな。」
「そっから先は?」
「まったく覚えてない。」
「まあ・・・酒が入ったんなら仕方ないか。お前は酒飲むと大はしゃぎして暴れまわるからな。」
「そうだったか?俺はまったく覚えてないが・・・」
「お前は覚えていなくとも、毎年、祭りの時期になると、ありとあらゆる所で酒を飲み、神輿担ぎと言う名の神輿破壊を繰り返し、各地で喧嘩を勃発させ、家には帰らないし、眠らない『空色の髪の鬼神』と称されるぐらい、お前の酒癖は悪いんだよ。マジで。」
「俺ってそんなにやんちゃしてるのか。」
「やんちゃなんてレベルじゃねーぞ。お前が初日に酒を飲んだら一週間は学校来ないなんてざらだぞ。だから毎年、お前には飲まないように忠告してやってるんだろうが。」
「それでか。みんな、俺を酒の席に呼ばないのは。」
「今頃気づいたのかよ。遅すぎだろ。」
「それで・・・話は戻すが何で俺は高島の家に泊まってるんだ?」
「うちの副部長・・漆原先輩が連れてきたんだ。友人なら看病してやれってな。」
「そうだったのか・・・ってなんで漆原先輩!?」
「偶然、駅前の本屋に寄った帰りに通りかかったんだと。俺も詳しいことは聞いてない。」
俺は体を起こそうとして体全体に激痛が走る。
「いってぇぇ!」
「ああ、安静にしとけよ。漆原先輩お前を起こそうとヘッドロックと地獄卍固めをかけたらしいから。今日中痛いはずだ。」
「なんでそんなプロレス技を・・・・」
俺は起きるのを諦め、再び高島に問う。
「ところで・・・今日学校は?」
「それなら心配するな。生牡蠣にあたって病欠ってことにしてある。もちろん俺もな!」
「なんかかっこ悪い病欠だな。」
「無断欠席よりマシだろうが。」
「まあ、助かった。ありがとうな。」
「おう。とっとと良くなれよ。それじゃ俺は調査行くわ。」
「何の調査だ?」
「最近、彼女につきっきりでな・・・・調査が全然進んでないからその穴埋めだな。後、彼女の手術費用を寄付するって意味もあるけどな。」
「そうか・・・そっちも色々大変だな。ところでだな・・・調べることを追加してもいいか?」
「ん?今は立て込んでるから結構高くつくぜ。」
「それでもいい。Aria War について調べてもらいたい。」
「何で今更?」
「Aria War なんだが、どうも最初に比べて危険になってる。それに・・・美樹がなにか隠しているみたいなんだ。」
「わかった。なるべく早く調べる。」
「おう。頼むぜ。」
「それじゃーな。」
そう言って高島は自分の部屋を出て行った。俺は再び目を閉じると深い暗闇に吸い込まれていった。
俺が学校に顔を出したのはそれから二日後の金曜日であった。なんで二日も休んでいたのかと言うと、怠けたかったと言う以外に理由はない。週末には学校に顔を出しておかないと、阿呆の代弁者たる美樹がどんな事件を発生させているのか不安であったのも事実である。そんな訳で俺は二日ぶりに登校するとまだ美樹も乱舞も来ておらず、二人が着ていない事に対し不安を覚えたが、ホームルームのチャイムが鳴ると同時に乱舞と美樹が滑り込んできたので、それが杞憂であったことを知る。二人が席に着いたのを見計らうように伊予野が入室しホームルームが始まった。
「諸君。おはよう。朝のホームルームをはじめる。」
そう言って、伊予野は伝達事項を黒板に書き始めたので俺は乱舞と美樹に話しかけた。
「二人共、怪我は大丈夫だったのか?」
「私は平気。こんな怪我はしょっちゅうだし。それにしおりんも甚五郎も怪我はないよ。」
美樹は笑顔でそう答えたので、俺は森本さんが無事なのには安堵したが、美樹が平気そうなのに少しがっかりし、乱舞に視線を走らせ発言を促す。
「私も大丈夫だ。多少負傷したが・・・明日には完治するだろう。それよりも今の伊予野先生の罰の方がよっぽど手痛い。」
「罰?なんでだ?もしかして・・・・Aria War のことがばれたのか!?」
「いや、違うんだ。私はAria War の後に天体観測をしようと思っていたからな。あの後、漆原先輩が強制的に解散させたので、私は天体観測が行なえなかったのだ。」
「家に帰ってからやらなかったのか?理由なんていくらでも作れるだろうに。」
「私としたことが疲弊していた為に家に帰ったらすぐに寝むってしまった。」
「それで次の日、記録カードの回収を宣言されたのか?」
「その通りだ。私が失敗をするのも罰を受けるのも久々だった所為もあるが、これは今までで一番きつい罰だな。」
「美樹は大丈夫だったのか?」
「私は提出したんだけど、全部書き直し。そのついでに間違えた漢字の書き取りを乱舞ちゃんと同じ時間に来てやってるの。」
とりあえあず二人共、”伊予野送り”になってしまったと言うことを俺は理解し背中に冷たいものが伝う。俺は即座にポケットを探り、内ポケットに紙が入っていることを確認し安堵した。その時、丁度、伊予野がクラスへの報告を終え、俺を呼んだ。
「なんですか?」
「天体観測部の天体観測記録用紙を提出してもらいたい。もしすぐに提出、出来なければ色々やってもらわなければ、ならない事が山ほどある。」
俺は得意顔でブレザーの内ポケットから紙を取り出し、伊予野に渡す。伊予野はその紙を受け取り、眉に皺を寄せる。
「・・・お前はふざけているのか?」
「へ?」
伊予野から紙を受け取り俺は愕然とした。紙にはこう書かれていた。
『ショウちゃんへ。 帰りにスーパーへ寄って牛乳買ってきて。 ママより』
と書いてあった。俺は目を白黒させ交互に伊予野先生の顔を見ると彼女は優しく微笑み。”昼休みの時間を利用した前庭の草むしり”と”放課後の裏庭の草むしり”を言い渡して教室を出て行った。残された俺は文字通り真っ白になり気づいた時にはすでに放課後であった。
俺は裏庭の草むしりをしながら校舎の時計を30秒置きにチェックしていると背後から声を掛けられ俺はビクリと肩を震わせた。
「おいおい。驚きすぎだろ。」
「なんだ高島か。」
「なんだ高島か。はないだろう。せっかく調査の件を伝えに来てやったのに。」
高島があまりにも笑いを堪えているので俺は無性に腹が立ったが、仕方ないので報告を聞いてやる。
「でどうだったんだ?」
「それより、ママのお使いは大丈夫か?」
「おまっ・・・!その件はもう言うな。」
「悪い。悪い。こんな抱腹絶倒な話題はそうそうないからな。」
「・・・・」
「そう落ち込むなって。これからもっと衝撃的な資料を読むんだからな。」
そう言って高島は俺に黄色のファイルを手渡し、周辺に視線を走らせる。
「手早く読め。あまり長く読んでると色々とまずい。」
俺は土の付いた手でファイルを受け取り内容を確認する。
『調査対象 《名前》霧島美樹《年齢》16歳(現在)《好きなもの》タイヤキ《嫌いなもの》死《略歴》出生:ネパールでの紛争鎮圧作戦中に野戦病で生まれる。5歳:東アフリカでの紛争に参戦。8歳:南アフリカの政府要人救出作戦に参加、ここでの功績が称えられ南アフリカ某国の政府より勲章授与。11歳:中東諸国にてテロ撲滅共同作戦に参加、この作戦でテロ組織の壊滅18、半壊29、大打撃42、これにより作戦主導国から勲章を授与。13歳:帰国後過去の経歴から日本政府より自衛隊軍事演習参加要請を受諾しレンジャー部隊二個小隊を一人で撃退。14歳:学業専念の為、全ての要請をキャンセルしている。16歳 現在、高校で学業に専念。』
俺はファイルを閉じ短く息を吐く。
「どこの三流小説の引用だ?子供だましにも程があるぞ。」
「バレた!?」
「当たり前だ。こんなことがあってたまるか。」
「だよなぁ。『16歳 現在、高校で学業に専念。』ってのはやっぱ嘘だよな。どう見ても”在学”が正しいと俺も思ったんだよ。」
「どう見ても、そこじゃねーよ。もっと前だ。」
「 『14歳 学業専念』の方か?まあ、ここは許してやろうぜ。本人もやる気があったかもしれんしな。」
「もっと前だ。前!前!前!『5歳 東アフリカでの紛争に参戦』とかありえないだろ。」
「あー・・・・。それか・・・残念ながら本当だ。」
そう言って高島が一枚の写真を取り出す。写真自体は新しいが内容はいかにもボロボロだった。ギリギリ顔が判別できる程度で、十数人の現地人の家族に混じって女の子と母親が笑顔で写っている。もし武器や装甲車が写ってなければ旅行写真に見えなくもない。
「現地で一緒だった人が持っていたモノのコピーだ。この女の子が霧島美樹だ。」
「・・・・本当なのか!?」
「本当だって言ってるだろ?ちなみにこの写真に写っている現地の人達はこれを撮った次の日にテログループの襲撃に遭い全員死亡している。生き残ったのは撮影した地方記者に美樹の母親と美樹本人だけだそうだ。」
「なっ・・・・。」
「この事件以来、彼女は仲間を一度たりとも見捨てていない。必ずどんな形であれ、帰還させている。そう・・・どんな形でもな・・・・・。」
「・・・・。」
俺は背筋が寒くなり、ふとAria War でのことを思い出す。そう言えば、美樹は常に敵に狙われる役を担ってなかったか?援護が的確に出来る位置を常に取っていた気がするが、それなら、なお更Aria War に参加させる意味が分からなかった。慢心か?とも思ったがそれなら前回と今回で懲りているはずである普通なら手を引く提案が出てもよさそうだが・・・・そこまで行き着いたのを見計らって高島がAria War の資料を渡す。今度は緑色のファイルである。
「先に言っておくが・・・・俺はお前らがこれに参加してることに背筋がぞっとしたよ。マジで」
俺はファイルを手早く開くと内容を確認する。
『Aria War についての考察、Aria War は4段階のランクに分かれており、ランク毎に賞金と参加費用が違う。Cランク・カジノ形式戦(参加費用5000円・賞金1万円)Bランク・バトルコロシアム形式戦(参加費用5万円・賞金10万円)Aランク・エリア制圧形式戦(参加費用50万円・賞金100万円)Sランク・スペシャルエリア制圧戦(参加費用500万円・賞金1000万円・エリア支配権)Aランク以降は危険度が急激に上昇し、負傷者が後を絶たず挑戦者は最近ではほとんどいない。また、Sランクは過去に多数の死者も出ておりその危険性は計り知れない。近年のエリア支配組織は田町組となっており、賞金と支配収益を自由に使える田町組は地域一帯のヤクザを傘下におさめ支配に成功。勢力を拡大させておりより危険な存在となっているのは間違いない。運営は雑務部が行なっているがその詳細は不明。金銭の流れを調べる限りでは支配権の利益の数十パーセントを取得している模様。』
「俺達は現在どこのランクなんだ?」
「お前達は現在Sランクに登録中だ。次のAria War はスペシャルエリア制圧戦だな。」
俺は眩暈を覚えながらファイルを閉じ、高島に渡す。
「なにかの悪い冗談であって欲しいな・・・・」
「悪いが事実だぜ。全てな。」
「俺達、天観部員は命の危険に晒され続けてるってことか?」
「この資料を調べた限りでは、そうだな。でも安心しろAria War 以外では危害を加えられる心配は少ない。この点はかなり安心していい。」
「なんでだ?奴らは前回ルールを無視したんだぜ?安心とは言い切れないだろ。」
「死者は全てAria War の戦闘中による負傷と明記されているし、Aria War に対する妨害行為は一度も記録されていない。変だろう?」
「どこがだ?」
「ヤクザが絡めば街中で乱闘騒ぎがあってもおかしくはないのに、それが一件もない。つまり・・・誰かが妨害行為を事前に妨害してるってことだ。」
「その妨害を妨害しているのは誰なんだ?」
「さあな、そこまでは調べていない。」
「それじゃ・・・次のAria War に参加しなければいいってことだな?」
「それはそうだが・・・・参加費用は全額没収になるぜ。」
「参加費用っていくらだっけ?」
高島はファイルを開き再度確認すると
「参加費用500万円だ。」
「500万円!?なにかの間違いじゃないのか!?天観にそんな金はないぞ!」
「だろうな。でもすでに振込み済みになっている。誰が振り込んだかについては不明だけどな。」
「なんてことだ・・・・このことを美樹は知っているのか?」
「知っている可能性は70パーセントってとこだな。」
「つまりほぼ確実に知っていてやってる確信犯ってことか?」
「そうとは言い切れないのが難しい所だ。なんせ偽装や工作がやたら多い。これを霧島美樹一人でやったとはとても思えん。」
「協力者がいるって事か?」
「いや・・・どうだろうな。どちらかといえば第三者・第三勢力って見方の方が有力だけどな・・・」
「それにしてもよく調べたな。ここまで・・・・」
「ああ、それなんだが俺一人じゃ無理だから部長に頼った。」
「おい!誰だよ。部長って。」
「あれ、言ってなかったか?俺さ情報部入ってんだよ。」
「情報部!?タイピング検定を取れるってあの部活か!」
「それ表向きだな。裏では”諜報部”って呼ばれてて情報収集に特化した部活なんだわ。」
「なんでそこに頼むんだよ!」
「いやー。正直無理だろ。国外の情報とヤクザの情報なんてそうそうないって。」
「だからってなぁ・・・・」
「まあ、そこまで心配するな。情報料クソ高いからなかなか買う奴いないって。それに部長はあのアン部長だからな。ヤバイ個人情報は伏せてくれるって。」
「それじゃ・・・この美樹の情報も一部伏せられてるのか!?」
「ん・・・・多分そうだな・・・。」
「・・・・・。」
「まあ、そう疑うなって。情報自体は正しいんだ。後はお前しだいだぜ。この情報を持ってお前がどうするかにかかってんだからな!」
「そんなこと言っても、止めるっきゃないだろう。」
「まあ、当然だな。命あっての物種だからな。」
高島は調査内容は伝えたぞ。俺は彼女の所へ行くと言って、スキップしながら去っていった。残された俺は引き抜いた草を手早く裏庭の土へばれない様に埋めると美樹を説得すべく教室を目指した。
教室に入ると美樹が手紙を書いていたので俺は美樹に悟られることなく何気なく自分の席に腰掛、本当にさりげなく声をかけた。
「お、また手紙書いてるのか?」
「うん。手術の日が迫ってるから・・・」
「そうか。上手くいくといいな。」
「うん。きっと上手くいくよ!」
「ところで・・・Aria Warの賞金はどうしてるんだ?部室に置きっぱなしとかになってないだろうな?」
「あ、それなら大丈夫!まだ引き出してないから。Aria Warの運営に預けたままになってるよ。」
「ん?それじゃ・・・参加費用の支払いは?」
「運営側で自動処理してもらってるの。自動的に相手を選出して、それを承諾すれば前回賞金から参加費用が引かれるってわけ。」
「ふーん。なんだか複雑だな。」
「そうかな?結構、簡単で便利だけど。」
「前回の対戦相手知ってたか?」
「え・・?なに?」
「ヤクザらしいぜ。あんなのとはもう金輪際やりたくないよな。」
「ああ・・・・。そうらしいね。私も漆原先輩に言われるまで知らなかったよ。」
「だよなぁ。運営も組み合わせは考えてやって欲しいよなぁ。でもまぁ、それに勝つんだから天観もすごいよな。」
「うん。みんながんばってるしね!」
「乱舞は接近戦最強だし、森本は遠距離から的確に援護するし、甚五郎はみんなのピンチに駆けつけてくれるし、美樹は天体観測部のリーダーとしてがんばってる。本当にいい部活だよな。」
「うん!私こんなに友達が出来たのは初めてだからうれしいし、みんなも部活の為にがんばってくれるし本当に感謝してる!」
「そうだよな!最高の部活だよな!」
「うん!」
「その最高の部活動Aria Warの次の参加費用5000万円だっけな?」
「なに言ってるの?次は500万円だよ。」
俺がニコニコしながら美樹を見ると美樹は笑顔から一瞬で青ざめ、俺と視線を合わせると教室を飛び出した。俺はとっさの事態に対応が遅れ、美樹の手を掴み損ねるが、美樹は教室に入ってこようとした森本と乱舞に激突し、派手に転倒する。俺は乱舞と森本にのしかかる形で転倒している美樹を助け起こすと逃げれないように手首を強く掴む。その行為に乱舞が不審がりつつ、なにかあったのか?と聞くが俺も美樹も答えず、その異様な雰囲気を察して森本が、
ぶ・部室へ移動しましょうか・・・と言ったので四人は天体観測部へ移動することになった。
俺が部室の扉を閉めると他の部員達は定位置になりつつ椅子に腰掛ける。俺は沈黙のまま、壁に背中を預け美樹を見る。美樹は下を向いたまま沈黙している。沈黙に耐えられなくなった乱舞が口火を切る。
「一体なにがあった?」
「俺から説明するのは筋違いだな。美樹自身に説明してもらうのが一番なんだがな・・・」
俺は視線を美樹から外し、森本と乱舞を見る。森本は不安を隠しきれない様子で全員の顔を見回しているし、乱舞も居心地が悪いのか美樹をチラリと見ては視線をすぐに外すを繰り返している。
「あ、あの・・・霧島さん・・・な、なにがあったんですか?わ、私が力になれることなら・・・・お手伝いさせてください。」
「部長。あまり沈黙を長引かせられても結果は変わらない。むしろ時間を無駄に浪費するだけだ。」
「・・・」
俺はため息を付く。
「美樹。俺が二人に俺が知った情報を伝える。だからお前はそれが事実かどうかと、簡単な質問に答えてくれ。もし、答えたくなければそれでもいい。」
美樹は小さく頷くが、顔は地面を向いたままである。俺は更に嘆息し、先程知りえた情報を森本と乱舞に伝える。
「つまりは・・・部長が我々に情報を隠蔽していたということか?」
「そ、そんな・・・い、隠蔽なんて・・・き、きっと言いにくい理由とか・・あったのではないでしょうか・・・」
森本は美樹に視線を走らせるが、美樹は地面を向いたままこちらを向こうとはしない。
「部長・・・あなたが黙秘では何も前には進まない。どうして我々に情報を伝えなかったのか、事実を伏せておく必要性があったのか納得のいく説明をお願いしたい。」
美樹はようやく顔を上げる。悲愴がにじみ出る表情からは涙が今にも零れ落ちそうなので俺は面を食らった。
「ごめん・・・・でも・・・これは私の我が侭だったし・・・皆をここまで巻き込むつもりもなかった・・・」
「部長。一体、何が目的なのだ?金か?」
「うん・・・お金が目的だったの。私はお金が必要だった。」
「な、なぜそこまで・・・・こんな・・危険な目に会ってもお金が必要だったんでしょうか・・・」
「それは・・・」
美樹が言い淀む。俺はとっさに尋ねていた。
「手紙の”オカミ”さんか?」
美樹は一瞬、顔を驚きに染める。
「うん・・・・。オカミさん・・大変な心の病なの・・それで手術費用一千万必要なの・・・」
「なぜだ?順調に心臓の手術を受けるはずじゃなかったのか?」
「手術費用がまとまってないの・・・日取りは決まったけどお金は・・・」
「用意できてないのか!?」
「うん・・・私はオカミさんが手術できるようにしてあげたかった。だから・・・」
「部長。つまりそのオカミさんとやらを助ける為に我々は危険な戦いにそうとは知らされず身を投じていたと?」
「うん・・・みんなに話さなかったのは本当は私一人でやるつもりだった。でも、みんなはどんなに危険な目に会っても、私に協力してくれて・・・ここまで来てしまった。ごめんなさい・・・」
「ふざけるな!自分一人でやるつもりだっただと!?あんな強敵達をたった一人でどうにか出来る訳がないだろう!大体5人でも負けてもおかしくはない戦いだったのだぞ!」
乱舞は怒りを露にし美樹を睨みつける。その怒りに触発され美樹の感情が爆発する。
「でも仕方なかった!私にはこれしか方法がなかった!だって私が日本に来て初めて出来た友達だった!私はもう友達が目の前で死んで逝くのはもう見たくない!だからあの事件以来友達は一人として作らなかった!でもそれは間違っているって言ってくれて友達になろうって言ってくれたのはオカミさんだった。だから・・・だから、私はもう二度と失いたくない!」
なりふりかまわず泣いていてグシャグシャになった顔を拭いながら美樹は部室を飛び出して行った。
残された俺達は呆然と美樹を見送ることしか出来なかった。