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Aria War  作者: シアドナ
7/10

07:Aria War A

 俺は駅前の『大王烏賊』にて軽く腹ごしらえした後、いつもの公園に向かう。現在は午後7時だが季節的に辺りはまだそれなりに明るく、街頭も明かりを灯してはいない。そんな中、天体観測ができるのか?と聞かれれば出来ると答えるしかあるまい。なんといっても今日は初観測日でもあり、見つけやすい夕方に『金星』『木星』『一等星 アンタレス』を観測することになっていた。全員が同じモノを観測するのはいいのだろうか?と言う疑問があったが、その疑問は伊予野の方から提案という形で打ち消された。その提案とは慣れるまでは全員同じものを観測すること、記録用紙の3枚目以上は自由観測とすることとなった。

 俺が公園に入ると本を片手に星を探している森本と美樹、甚五郎を見つけた。

「星はあったか?」

 俺は二人に近寄りながら声を掛ける。

「あったよ。ほら、あそこ。」

 美樹が指し示した方向には一つの星があった。

「『宵の明星』つ・・・つまり金星ですね。じ・・じっくり眺めるのは学校の授業以来です。」

 森本はメガネの位置を直しながら金星を見つめている。そんな二人を尻目に俺はベンチに腰掛けるとレポートの作成に取り掛かる。前回みたく気絶して起きたら次の日でレポートを書く暇がなく、天体観測のレポートが出来ていないというお叱りを受けた上に、伊予野送りなる強制労働などさせられるのは御免こうむりたかったのである。しかもその可能性が非常に高かいとなれば、それを未然に防ぐのはやぶさかではない。

「えっと・・・・あの星がアンタレス?」

「えっ・・・・あれは・・・木星?ですかね。」

「あ、あれが木星か・・・もうちょっと暗くならないとアンタレスは見えないかな?」

「そ・そうかもしれませんね。」

 などと二人の会話を聞きながら俺は全力で仕上げていく。もちろん大半の内容は適当な観測事項を記入している訳だが、俺にとっては天体観測など、どうでもよく今の現状をどう切り抜けるかが重要であった。


 乱舞は集合より五十分ほど遅れてきたが、事前に連絡していたのか。

「悪い。やはり遅れてしまった。ちょっと受け渡しに時間がかかってな。」

 などと言いながら自分の扇子を見せる。前回の扇子は三十センチほどだったが今回の扇子はその三倍の大きさがあった。つまり全長九十センチの巨大な扇子である。

「うわー。大きいね!こんな扇子はじめて見た。」

 などと美樹が騒いでいたが、ボランティア部と対戦相手が到着し、真剣な眼差しに戻った。その頃になってようやく俺はレポートから解放され三人と一匹に合流した。


「こんばんは、審判を勤めます。ボランティア部(雑務部) 雑賀瞬子 と申します。」

 いつもの雑賀の口上聞きつつ、各部員達は装備のチェックに余念がない。装備は最初から変らず、美樹はサブマシンにリボルバー拳銃、森本がスナいパーライフル、乱舞は扇子に俺はオートマチック銃、甚五郎は肉体がすでに武器である。を確認し対戦相手を確認する。

 対戦相手はどうやら全員強面の男達でやたらと金色のネックレスが目立った。

まあ、見た目の印象を一言で言ってしまえば”ヤクザ”や”チンピラ”である。

決して”座薬”や”キンピラ”でないことは間違いない。

「なんだか・・・やばそうな連中が出てきたな。」

「そうか?それほど強くは見えないが。」

 乱舞は眉間に皺を寄せて相手を凝視している。

「そういう意味ではないような気がするが・・・まあ、乱舞がいれば近接戦は大丈夫か。」

「装備の確認が済みましたら、ルールの確認を始めます。宜しいですね?」

「私は大丈夫よ。皆は?」

「私は問題ない。いつ始めても大丈夫だ。」

 俺と森本もそれに頷く。

「では説明を始めさせて頂きます。Aria War エリア制圧形式戦です。参加・不参加が自由となっておりますが、人数割れによる不参加は認められません。ご了承ください。また、リタイア・途中離脱を行なった場合チームが敗北となります。人数は定員上限10人最低参加人数1人、制限時間は開始コールより二時間、私物の道具は持込可能です。ただし、殺傷性の極めて高いモノの使用は不可とします。エリア領域はこの公園一帯半径100メートル程度とします。公園の二箇所の入り口がスタート地点となり各双方の拠点とします。被弾した際は一度、拠点に戻り、設置してあるペイント落とし用のスプレーで、ペイントを落とせた時点で再出撃可能となります。しかし、ペイントを落としきる前に全員が被弾しますと、その時点でゲーム終了となります。次に今回の勝利条件ですがあなた方の実績を考慮し、相手方が不利と判断致しました。よって今回の勝利条件の決定権は向こう側に委ねられます。宜しいですね?」

「ええ、かまわないわ」

 俺は一抹の不安を覚えながら敵をぼんやりと見る。一人、二人、三人・・・・八人、九人、十人・・・敵に欠員がいないこと確認して俺は叫んだ。

「ちょっと待て!何で向こう十人なんだよ!」

「そう説明致しましたが?」と雑賀

「いや、そうじゃなくて、美樹!なんでいつの間に十人の枠になってるんだ?」

「ああ、それね。連勝を重ねてるから上限人数が増えるって言ってなかったっけ?」

「言ってねぇぇぇぇ!」

「私は聞いたぞ。」

「わ・・私も聞いています。」

「バウ。」

「最近、伝達ミス多くないか!?」

「そ、そんなことないよ?」

「もしかして何か隠してるんじゃないだろうな?」

「そ、そんなことある分けがないじゃん!」

 俺は美樹の態度に疑念を覚えつつ

「どうしますか?棄権しますか?」

 雑賀の声で気持ちを切り替え

「まあ、しかたねーか・・・・・。」

「そうそう。こっちは準備OKよ!」

「わかりました。では勝利条件の採決について申し上げます。向こうの陣営は勝利条件を使用しなかった為、基本ルールのみとなります。宜しいですね?」

「いいよ!」

「わかりました。では準備完了の宣言を行ないます。開始の宣言で行動開始してください。」

 反対側の審判はすでに手を挙手しており同様に雑賀も手を挙げる。審判同士のお互いの確認が済むと。双方の手が振り下ろす。


「エリアウォー エリア制圧形式戦 開始!」


 開始した直後に九人の男達はゆっくりと中央を歩いてくる。俺は各部員達と顔を見合わせ、森本が狙撃する。ペイント弾は一番右の太った男の額に命中する。

「ピンク被弾!下がってください!」

 そう審判が制止するが男は他の男達同様前進する。乱舞が眉間に皺を寄せ

「こいつらはルールを理解していないのか?」

 そう言って、最後尾にいる男が車に乗り込むのを確認した乱舞は張りつめた声で叫んだ。

「クソ!やられた!全員さがるぞ!こいつらルールを守る気なんて鼻っから

ない!」

 そう叫んで下がる。それに釣られ他の三人と一匹も走り出す。男達はゆっくりと近づいてきている薄笑いを浮かべながら。

「どういうこと!?乱舞ちゃん」

 走りながら美樹が問う。

「あいつら!一人が車に乗り込んで絶対安全を確保して九人で我々を倒す気だ!」

 それでピンと来たのは俺を除く二人だけで俺は意味不明なままである。

「一人が車に乗り込んだなら一人減ったんだろう?楽になるんじゃないのか!?」

「違う!逆だ!一人の絶対的な安全が確保されたってことは、後の九人は被弾してもいいってことなんだ!」

「何で被弾していいんだ!?戦えなくなるだろう。攻撃したら減点なわけだし。」

「ああ、そうだな。我々全員が最後までリタイヤせず、判定に持ち込むまでに生きていられたらな!」

 俺はそこまで言われてやっと理解した。

「何!?ってことはあいつらは俺達を殺す気か!?」

「殺すまでは行かなくても、我々の誰かを捕まえて領域外に投げ飛ばすだけでも勝利が確定するんだ!ルールをよく思い出せ!」

「リタイア・途中離脱を行なった場合チームが敗北となります。って・・・言ってましたね・・・・雑賀さん・・・・」

「ってそんなのマジでありかよ!?」

「でなければ、あんな作戦は立てない!」

「エリア領域はこの公園一帯半径100メートル程度とします。と言っていました。ふ、噴水を中心点として公園の円周は約50メートルで公園が入ります。そこから更に50メートルと言うと・・・道路2本分・・・このエリアは公園を囲むように道路が渦を巻いているから・・・・人数的に不利な私達はすぐに包囲され追い込まれます!」

[どうするんだ!?部長!」

 天観部員達は公園を自陣から飛び出し、曲がり角まで来ると美樹が速度を緩め

「全員反転!後方に一斉射!」

 その声に一番早く反応した森本が公園を曲がってきた男のアロハシャツに直撃させる。

「くそ!卸したてのアロハだぞ!ぜってぇ、許さねぇ!おい、スプレーくれ。」

 そう言って男は後から来た男から天観陣営のスプレーを受け取りアロハシャツについたペイントを落とす。

 ピィーーーーーッ

「相手陣営のスプレーの持ち出しとスプレーを使うのはルール違反です!減点十点!」

 と雑賀が訴えるがアロハシャツの男は何食わぬ顔でスプレーを持ったまま天観部員達へ突撃してくる。他の八人は二手に分かれその内の四人が全速力でアロハシャツと共に天観陣営に突っ込んでくる。

「射撃やめ!後方、威嚇射撃を行ないつつ、全力後退!」

 美樹の指示が飛ぶが、俺は言葉の意味を瞬時に理解できず、一テンポ遅れて行動に入る。最後尾にいる森本がスナいパーライフルで追っ手の顔を狙って追撃を遅らせる。最前を行くのはもちろん乱舞で、分岐に来るたび別方向からの追っ手を確認している。二回、角を曲がり相手陣営の公園の入り口が見えると待ってましたと言わんばかりに他の四人が飛び出してくる。

「!前からも来たぞ!どうする!?」

「前方強行突破!敵の目を狙って!」

「了解。」

 森本が速度を緩め、ペイント弾を最後尾にいる男のまぶたに直撃させる。その衝撃で男は立ちすくみ戦列からはずれる。しかし、連射の効かないスナいパーライフルはリロード前に乱舞と男達が接触する。乱舞は前方の二人を華麗にかわすと扇子を最後尾の男の顔面に見舞う。男は弾かれたように壁に激突し、崩れ落ちる。仲間がやられたことに、気をとられていた男達は後ろから来た甚五郎と美樹に殴打され転倒する。それを確認した森本は後方最前を走るアロハシャツを狙撃する。撃たれたアロハシャツは憤怒の表情を浮かべ、今度はスプレーボトルを全力でブン投げた。もちろん森本は冷静に回避し、後ろを走っていた俺の膝関節を直撃し転倒する。

「うおぉ!」

 俺は情けない声を出しながら地面に転倒し、横を森本がすり抜けつつ、再度射撃を行なう。

「は、早く立ってください!援護します!」

 俺はすぐさま立ち上がって走り出そうとした時にはアロハシャツのタックルが決まっており、すぐに組み伏せられる。更に追いついた男達が森本に襲い掛かるが、これは引き返してきた乱舞によって蹴散らされる。

「なにをやっている!」

 乱舞の鋭い視線が俺を射すくめたが俺はどうしようもなくアロハシャツの下でもがくだけである。

「全員後退。移動できない者は置いていく。」

 美樹から再度、指示が飛び、天体観測部員達は全速力で公園北東側の角を曲がり姿を消した。


 俺は男達に捕らえられ公園中央まで連れて来られ、アロハシャツに服をピンク色でまだらに染められ、目の前で天観陣営のスプレーの液体を噴水へ破棄された。

「おめぇに二、三聞きたいことがあるんだが」

 アロハシャツは俺の目の前に来ると俺を睨みながらそう言った。

「なんすか?」

「テメェ!若になんて口の聞き方だぁ!」

 俺は後ろから男に蹴られ前のめりに倒れる所をアロハシャツに止められる。

「止めとけ。審判が睨んでやがる。」 

「す、すいやせん。」

「そんで、おめぇらは何もんだ?歴史研究調査部の奴らの仲間か?」

「ん?歴史研究調査部?なんであんた達があんな部と?」

「質問を質問で返すんじゃねぇ。質問してんのはこっちだぜ。で、仲間なのか?」

「いや、少し前に顔を会わせた程度ですよ。むしろ敵だった。」

「そいつは安心したぜ。おい、全員捕まえて始末しろ。手段は問うな。」

「な!?おい!これはただのゲームだろ!?」

「そうだな。これはゲームだ・・・命のな。」


「すみません。こちら弾切れです・・・・・・・」

「部長、どうするんだ?あいつは捕まってしまったし・・・持久戦は不利だぞ。」

「分かってる・・・・。でも現状をなんとかして変えないと!」

 そう言いつつマシンガンのトリガーを引き男達を牽制するが効果は薄い。

「前方から敵!挟撃されるぞ!」

「しおりんは乱舞ちゃんに続いて!私と甚五郎で後方を引き受ける。」

 乱舞は前方から来る男達に突っ込むと一人目を右脇を抜けながら扇子を鳩尾へ強打し、回し蹴りで吹き飛ばす。その間に乱舞の後ろに回りこんでいた二人目の攻撃をバク宙で回避しながら後ろに回り込むと首に手刀を叩き込む。二人目が崩れる落ちるが、それにかまわず三人目が乱舞に猛タックルをかけた。しかし、乱舞はタックルの衝撃をバックステップでやり過ごすと、左手で相手の肩口を掴み、投げ飛ばす。四人目は距離をとり乱舞を睨むが、睨まれた本人は一瞬で距離を詰め、扇子を顔面に叩きつけると後方に吹っ飛んで転倒する。

「いくぞ!」

 乱舞は先行し、森本がそれに続く。

「きゃ!」

 森本の悲鳴で乱舞が振り返ると倒した男達が必死で森本の足首を押さえている。

「ちぃ」

「わりーんだが、おめぇの相手は俺だぜ」

 そう言って乱舞の両脇に腕を入れ、軽々と持ち上げる。

「くっ!いつの間に・・・」

「おめーら、はそっちの嬢ちゃんを領域外に放りだして来い。」

 男達は四人がかりで森本を抱え上げると、乱舞の脇を抜けて走り去っていく。


 俺は両手両足を縛られ車に乗せられていた。

「若いのに大変だなあんちゃんよ。まあ、酒でも飲めや。」

「飲める気分じゃねーよ。」

「あんちゃんに飲んでもらわんとな。泥酔して車を盗難、事故死ってならないんでな。飲んでくれ。」

 そう言って男は俺に無理矢理、一升瓶を口にねじ込み無理矢理飲ませる。

「うめぇだろう?この酒は300年続く蔵元で作られててな。毎年神社に奉納される有名な酒よ。」

 俺は酒を大量に飲まされ意識を失った。


 「よし。この辺で投げれば領域外だ。俺達が出ないように気をつけろよ。」

 男達はそう言って森本を放り投げる準備に入るはずだったが

「アニキ、この娘やっちまってもいいですかい?」

「はぁ?おめぇなに言ってんだ?こんな時に・・・・・しかたねぇ、早く済ませろよ。」

「へぇ。」

 男は卑猥な表情を浮かべ森本を見る。森本は引き攣った表情を浮かべるが四肢は完全に男達に固められている。

「森本女史、こんな所で一体なにをやっている?」

 男達は後ろから声を掛けられそちらを向く。そこには髪の長い女子生徒とやたら背の高い女子生徒が立っていた。森本は思わず叫んでいた。

「た、助けてください・・・先輩!」

 それを聞いた瞬間、最も早く反応したのはやたらと背の高い高井で男達の間合いを詰めると持っていたバックで殴りつける。怯んだ男の急所を蹴り上げ悶絶している間に、顔面を蹴りつけ昏倒させる。

「いつもながら馬鹿力だな。」

 漆原はそう言いながら言葉をつなげる。

「そこの下衆共よ。森本女史を開放した方が身のためだぞ、そこにいる大女は空手男女無差別級のチャンピオンだからな。」

「大女って言うな!これでも気にしてるんだもん!」

 男達は森本を放すと全員で漆原に突撃する。どうやら弱そうな相手を狙っていく作戦の様だが

「私を狙うとはまた愚かな・・・」

 男が漆原に殴りかかが、漆原は悠々と回避し男の足をすくい転倒させる。

「この!」

 二人目の男がタックルを仕掛けるが漆原は紙一重で避けながら軽く足を引っ掛け転倒、三人目も同様に転倒させる。

「弱いな。これ以上抵抗するならただでは済まんぞ?」

 そう言うと男達は我先にと逃げ出していった。


「アハハハハハ、たのしぃのう。」

 男はわなわなと口を震わせ・・・そいつを見る。神々しいまでに洗練された彫刻のような顔、空色の瞳に空色の髪、そして狂喜に彩られた笑みは見る者に恐怖を与える。

「あわわわわ・・・・」

「うふふ。本当によい酒じゃ。前回飲んだのは麦酒なるジュースじゃったが・・・これは懐かしい酒じゃ。」

 そう言ってそいつは一升瓶をグビグビ飲んでいく。

「ぷはぁ。お主、我をどうすると言っておったかの?」

「あ、いえ・・・そんな・・・」

「ふむ。我に酒を飲ませ我を殺すと言っておったな。しかし、お主はこのよき酒を我にささげておる・・・よってお主に猶予をやろう。我の力が及ばない所まで逃げ切れたらお主は生きれる。逃げ切れなかったらお主は死ぬ。どうじゃ?楽しいじゃろう?」

 男は恐怖に駆られ全速力で走り出す。そいつは動かず一升瓶をグビグビ飲んでいる。

「ぎゃぁぁぁぁぁ!」

 男の悲鳴が聞こえ、地面に倒れこむ、男の右足には大きな切り傷が出来ていた。

「はよう逃げんと、お主は切り刻まれてバラバラになってしまうぞ?走れ走れ」

 クックッと忍び笑いを漏らしながらそいつは必死で逃げる男を目で追う。男は公園を抜けるまでに数箇所の切り傷を作り、逃げ出していった。


 乱舞はアロハシャツの攻撃をかわしながら別方向から襲ってきた男を肘打ちで叩きのめす。アロハシャツが追撃を行なおうと攻撃を繰り出すが、それは美樹によって払われ代わりに美樹のカウンターを貰う。

「ぐはっ」

 アロハシャツが下がると入れ替わりに他の男が攻撃を仕掛けてくる。こんなことを繰り返しているので美樹の拳には血がにじみ乱舞も擦り傷や青あざがところどころに現れていた。しかし、それ以上に男達は顔面が張れ上がり、手足には数え切れないほどの青あざを作っていたが、それでも男達は引く気配を見せず果敢に向かってきていた。

「はぁはぁ。部長、悪いがそろそろ限界だな。」

「ごめん。私もやばいかも・・・」

「作戦はないのか?」

「ごめん・・・負けた時にみんなを助けに行く算段ぐらいしか思いつかない。」

「ちぃ」

 舌打ちしてアロハシャツの攻撃を受け流し、組み合う。

「小僧。いい腕してんなぁ。俺らの組に入らねぇか?お前ほどの腕なら幹部もめじゃねーぜぇ?」

「断る!」

 アロハシャツが乱舞の腹を蹴りつけ、乱舞が後退したところにアロハシャツのストレートが放たれる。

 グチャ

 という音を立てて漆原の文庫本がアロハシャツの拳を阻む。

「いってぇぇぇ!なに仕込んでやがる!というかてめぇ誰だ!?」

「下衆に名乗る名はない。それよりも勝負は決した。両者矛を収めよ。」

 アロハシャツは余裕の表情で、

「そうか。俺たちの勝ちってわけだな。」

「なにを言っている。聞いてなかったのか?審判もう一度言ってやれ。」

 雑賀が電柱の影から現れ、

「青陣営 一名離脱によりピンク陣営の勝利となります。」

「そンな馬鹿な!?」

「事実だ。下衆仲間が血まみれで領域外に倒れていた。救急車を呼んでやったから貴様も行って来るがいい。」

「ちぃ。この借りは必ず返すぜ。」

 アロハシャツは捨て台詞を吐いて、部下と共にその場を去っていった。


 天観部員達が公園に戻ってくると、そこには酒瓶を抱えて眠る俺がいて漆原先輩が木の棒で俺をつつき回した後、ヘッドロックと地獄卍固めをかけたのは後から知ったことである。漆原先輩は天体観測部員達を一列に並ばせると手持ちの文庫本で一人づつ頭を叩く。

「貴方達は奴らが何者であるか知って戦っていたのか?」

「し、知りません・・・・わ、私はサバイバルゲームの対戦相手としか・・・」

「私も知らない。そういうゲームだと思っていた。」

「霧島女史。あなたはどうなんだ?」

「・・・・・」

「沈黙ではわからないぞ。貴方にはこの部活を預かり且つ、部員達に情報を知らせる義務があるはずだ。」

「知りません・・・。」

「本当にか?」

「はい・・・。」

「まあ、いいか。奴らは田町組傘下の木町組の連中だ。血気盛んなチンピラが多い組で、あまりいい噂は聞かないし、貴方達が関わっていい連中ではない。」

「で、ですから・・・その・・ゲームの対戦相手で、し、仕方なく・・・・」

「では、そのゲームから速やかに撤退することを進言しよう。以降こういったゲームに参加しないと今ここで誓ってもらわなければ、私は不本意ながら教師どもに報告せねばならない。」

「まあまあ、漆原。彼女達も反省していることだし・・・・変かもしれないけど許してあげれば?」

「・・・少し言い過ぎたみたいだな。では各自解散。なるべく一人になるなよ。」

 そう言って天観部員達と漆原・高井は公園を出てそれぞれの家路についた。


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