04:フレンド
次の日の日曜日、俺は携帯電話の着信音で目が覚めた。手探りで携帯を探し当てると目を閉じたまま、通話ボタンを押す。
「おう。寝てるか?」
通話の相手は高島伸行だったらしい。
「なんだこんな時間に・・・」
「こんなって、もう昼過ぎてるけどな。調査の件なんだが」
「調査・・・ああ、アイツについてか・・・」
「そうだ。その件もうちょっと待ってもらっていいか?」
「手こずってるのか?」
「調査事態は大分進んではいるんだがな・・・。ちょっと問題があるのと彼女が手術することになってな・・・」
「なんだ妊娠でもしたのか。」
「ちげーよ。まあ、俺も話してなかったからな。彼女の病気が悪化して、来月手術することが決まったんだが、不安そうにしてたから、なるべく傍にいてやりたくてな。」
「それは仕方ないな。」
「彼女がさぁ、『手術まで毎日来てくれる?』とか聞かれたら行くし・・・」
「惚気は他所でやれ。」
そう言って俺は携帯電話を切った。しかし、伸行はまだ用件があるらしく携帯を鳴らす。俺は仕方ないので通話ボタンを押す。
「ちょ、お前切ることはねーだろうが。」
「惚気は聞かんっと高島伸行惚気禁止委員会で決まってんだよ。」
「ちょ、あれ、お前もかよブルータス・・・って切るなよ!。」
なかなか察しのいい奴だと思いながら俺は終話ボタンから手を離した。
「でまだ用件があるのか?」
「ああ、そうだ。霧島の苦手なモノが分かったぜ。報告が遅くなりそうだから先に言っとく。」
「もったいぶらずさっさと言え。俺は眠いんだ。」
「そう怒るなよ。結構苦労したんだぜ。ただでさえガードが固いんだから・・」まあ、ずばり言うとだな。タイヤキだ。」
「タイヤキ?あの駅前とかで売ってるあんこの入った奴か?」
「そう。そのタイヤキだ。」
「お前・・・テンション妙に高くないか?」
「ああ、分かるか?これから彼女と車椅子で公園デー・・・・」
最後の言葉が紡がれる前に俺は携帯の終話ボタンを全力で押した。携帯を放り投げ、二度寝する体制に入ったところで再び携帯が鳴った。
「ったく!まだ用件があるのかよ!」
俺は携帯の通話キーを押し不機嫌な声でそう言うと
「誰かと間違えていないか?」
「ん?誰だ?」
「天体観測部の舞浜乱舞だ。今朝、電話したらご家族が出られて、出かけるから携帯に直接電話してくれと言われてな。それで、さっきの言葉は私に向けてか?」
「ああ、すまん。人違いだ。悪い。」
「そうか、まあいい。用件を手短に伝える。エリアウォーの次の対戦が決まった。今夜9時、同じ公園に集合だそうだ。」
俺は脱力し言葉を失う。それにかまわず乱舞は用件は伝えたぞ。と言って電話を切った。
『オカミさんへ、お元気ですか?私は元気です。最近は忙しくて、会いにいけません。ザンネンです。私は最近、部活をはじめました。もちろん部長です。オカミさんのシュジュツ代ですが、少しでも協力できるようがんばっています。
では、また連絡します。』
彼女は手紙を読み終えるとそっと白い封筒に仕舞う。
「誰から?」
車椅子を押す彼が聞いてくる。
「気になる?」
「とーっても気になる。」
「じゃ、教えない。」
「なんだよー。」
彼女は彼のしぐさにクスリと笑って
「冗談よ。」
「それで誰?」
「私唯一の同年代の文通友達。」
「男?女?」
「気になる?」
「とーっても気になる。」
「じゃ、教えない。」
「なんだよー。」
「冗談よ。」
「それで男?女?」
「お・ん・な・の・こ。安心した?」
「とーっても安心した。」
二人とも笑い合って噴水前で車椅子を止め、彼もベンチへ座り、彼女の手を取る。
「手術上手くいくといいね。」
彼女がそう言った。
「絶対、上手くいくって!って俺の台詞をとらないで!」
「ごめんね。でも自信ないんだ・・・。」
彼は押し黙り下を向く。彼女の病気はかなり重度の心臓病でこのままの状態では余命一年と宣告を受けている。その告白を紳士に受け止め、高島伸行 十六歳 特技は情報収集 職業高校生は足しげく彼女の元に通っている。
「じゃ・・・約束しようぜ?」
「ん?どんな約束?」
「もし、しるくの心臓病が治ったら・・・・・結婚しよう!しるく。」
一陣の風が吹きぬけ御神しるく 十五歳(遅生まれ)特技 御手使い 趣味 観察 現在心臓病で闘病中は
「ぷっ。それって死亡フラグ?」
「いや、俺は真剣だぜ!真剣と書いてマジって読むんだぜ!」
「うーん。考えとく。」
その時、しるくの膝に一匹の蝶が息も絶え絶えに舞い落ちる。彼女は目を閉じ蝶を両手で包む。
「しるく。」
高島は彼女を気遣い声をかける。彼女はごめんね。と言って手を除けると蝶は元気良く飛び立っていく。
「なんで他者は治せて自分は治せないんだろうね。」
彼女は独り言のようにそう言って、空を見上げる。高島は何も言わず彼女の手を再び強く握り締めるだけだった。