10:エピローグ
「南無阿弥陀仏・・・・・」
俺は祭壇を見つめながらなぜこんな事態になってしまったのか必死で考えた。ここは葬式を行なう為の民間施設『ルミエール朝霧』棺の前で号泣しているのは美樹で参列者には天体観測部の面々に、歴史研究調査部の月夜姉妹である。大人達は別室でなにやら込み入った話をしている。俺は肩を叩かれて振り返ると、天が美樹を指している。見苦しいので止めて来いという事であろう。俺は溜息と共に美樹の傍に腰を落とし美樹をなだめる。
「まあ・・・・仕方なかったんだよ・・・俺達にはこれ以上どうすることも出来なかった・・だからさ、せめて笑顔で見送ってやろうぜ?」
美樹は涙を流し、死者の名前を叫ぶ。
「好美ィーーーーー!うわーーーん。」
俺は溜息を付き遺影を見る。雄雄しく俺の指先に噛み付いて放そうとしないハムスター『好美』の姿があった。俺の家でペットとして飼われていた『好美』は野性味あふれる獰猛なメスのハムスターで、俺の家に来てから五年になる。ハムスターでいえば、長寿な部類に入るらしいが俺との相性は最悪で、噛まれた以外の記憶はほとんどない。それに今年に入ってから『好美』はあまり巣から出てこなくなっており、それを高島から聞いた美樹は俺の家に上がりこみ、元気ずけようと戯れていたのだが、生命の最後の煌きか美樹と遊んだ次の日に、死んでしまったのである。そこで美樹が葬式をする!と言い張り雑務部に依頼し、この様な事態に発展しているのである。まったくもって阿呆である。
美樹が泣きながら、俺に抱きつき顔をうずめる。後ろからは不謹慎な天が
ピュー
などと口笛を吹いてからかっている。そこへ、意外な人物が登場する。
「まだ、やってるか?」
車椅子に座った彼女を押しながら高島が部屋に入ってくる。
「こんにちは。」
高島の彼女はあの時より元気を取り戻しているが、髪は白髪に染まったままである。
「もういいのか?」
俺が高島に聞くと高島は美樹と俺を交互に見てニヤニヤしながら
「ああ、おかげさまでな。お前達の治癒のおかげで、二週間手術がずれたが・・・まあ、次の学期からはうちの学校に通えるそうだ。」
Aria War Sの戦いからすでに一ヶ月が経過しており、学校はすでに夏休みムード真っ只中である。
「あ、あの・・・」
高島の彼女が俺に視線を向ける。
「挨拶が遅れましたが・・・私は御神しるくと言います。」
そう言って俺に手を差し出す。俺はその手を握りながら自己紹介をしようとすると美樹が俺から離れ、
「オカミさん!好美がぁぁ」
そう言ってしなだれかかる。しるくはテキパキと美樹の鼻水を拭き、抱擁する。そして、俺の胸には美樹の涙の後と鼻水が残された。そんな俺の肩を天が叩く。
「よっ!色男。飽きたから先に帰るわ。」
そう言ってさっさと帰って行く。それと入れ違いに雑賀が入室し、喪主である俺に挨拶した後、説明をしたいので皆さん集まってくださいと発言する。天体観測部+高島としるくが雑賀の周囲に集まると雑賀は説明を始めた。
「今回、1000万円を稼ごう計画達成、おめでとうございます。お金は全てしるくさんの手術代に寄付致しましたが、しるくさんの希望により、心臓病で苦しむ子供を救う会に変更致しました。」
しるくが頷き、
「その節は、ありがとうございます。私の手術代は保険と救う会の義援金によってすでに賄われましたので・・・今後のお金は自分でなんとかしたいと思います。」
その発言に俺は慌てた。そもそも何の為にAria War Sなどをやっていたのか・・・
「ちょ、ちょっと待って・・・じゃあ・・・しるくさんのお金は・・・Aria War Sの時には揃っていた?」
「ええ・・・まあ、なんと言いますかそうなります。」
俺は呆れて脱力し、近くにあったパイプ椅子に腰掛ける。
「でも・・お金の目処がついたのが、手術の四日前ですし・・・それまではローンで何回かに分けて支払う程度の事しか決められていませんでしたから。」
「まあ、霧島の勘違いって事だな。」
高島も苦笑するが、そもそも、その情報を高島が俺に伝えていればこんな事態には発展しなかったのである。
「説明を続けますね。雑務部の1000万円を稼ごう計画には特別な料金が発生しない限り、純利益として1000万円が残るはずでした。」
「でした・・・・?」
俺のキョトンとした顔を見ながら雑賀は続ける。
「ええ、『でした。』です。現在の天体観測部の部費はマイナス800万円です。」
衝撃の告白に全員の顔から血の気がひく、
「ま、マイナス・・!?」
俺は驚き、美樹がまたいらん事をしでかしたのではと美樹を見る。それに釣られて全員の視線が美樹に集中する。
「えっ!?わ、私じゃないよ!」
美樹の挙動不審が一層怪しく見えたが雑賀がそれを肯定する。
「ええ、その通りです。」
雑賀の言葉に美樹の疑惑が晴れ俺は雑賀と視線が重なる。
「マイナス800万円の原因はあなたです。」
雑賀は俺を指差したので、俺は後ろに誰かいたかな?などと思い振り返るがそこには誰もいない。視線を雑賀に戻すと全員からの視線が突き刺さる。雑賀は数枚の紙を取り出すと俺に渡す。
「せ、請求書!?通信ターミナル全損30万、テント全壊・5つ・50万、定点観測装置・15基・75万・・・・って!?これなんですか!?」
「見ての通り、諜報部、雑務部、科学部からの請求書です。あなたが発生させた竜巻は敵味方問わず、周囲一体に大打撃を与えました。」
『銃で撃たれそうになった時か!』
「よってその本人に請求すべきか、との議論もありましたが、あくまで天体観測部が主導であり、その副部長の貴方なら・・・」
「副部長!?俺はそんなのになった覚えはないぞ。」
「でも申請が出ていますよ。部長さんから。」
俺は美樹を睨むと美樹は苦笑しながら、
「ごめんね。言い忘れてた。乱舞ちゃんは稽古が忙しいし、しおりんは図書委員だって聞いてたから・・・そのーついね、それに最初来なかったから私の独断で決めちゃった。」
「そういう訳で続けます。副部長の貴方なら十分に責任を問えると考え請求先を天体観測部にさせて頂きました。これにより天体観測部の本来の純利益はプラス200万ですが、最初に交わした霧島さんとの約束がありましたので、利益の全てを寄付し、マイナス800万円は現在雑務部が肩代わりしております。」
俺は恐る恐る雑賀に問う。
「そ、それで・・・俺はどうすればいいんですか?」
「はい、そちらの処遇に関しましては、雑務部、諜報部、科学部の合意の上、必要な時に手助けして欲しい。と言うことでした。」
俺は眩暈がして、椅子から落ちそうになる。『はい』と言ってしまうのは大変に楽であるが、科学部に人体実験まがいの研究に付き合い、諜報部の使い走りや、雑務部のボランティアの名を借りた強制労働もはっきり言って真っ平御免である。それならいっその事、外国にでも亡命しようかと考えて、美樹が声を上げる。その鶴の一声はまさに俺の高校生活の破滅を告げたのだった。
「いいよ。天観部は引き受けると伝えてください。」
雑賀は意外そうに美樹を見て、乱舞と森本、後ろで控えたいた甚五郎が続く。
「私も問題ない。ようやく慣れてきた頃だ。」
「わ、私も出来る限りお手伝いしたいです!」
「バウバウ」
雑賀は優しく微笑み俺を見る。
「それで宜しいですか?」
俺は仕方なく溜息をつき
「本当にいいのか?今なら請求を俺だけに切り替える事だって出来るんだぜ?」
「なに言ってるの!天観の仲間であり友達でしょ!友達は助けるのが当然って自分で言ってたでしょ。」
俺は苦笑いしながら雑賀に向き直り
「すみませんが、そう言う事でお願いします。」
「分かりました。それでは失礼します。」
雑賀が退出しようとドアを開けると、
「まってください!」
しるくが雑賀を呼び止め、雑賀に紙切れを渡す。
「今、渡すか迷ったんですが・・・でも・・・」
「・・・入部届け?今、貴方は学校の生徒ではありませんが・・・」
「9月から通う予定なんです。だから・・・」
「・・・分かりました。本日付で貴方は本校の生徒で天体観測部員、でも病気により休学の為、9月から登校、それで宜しいですね?」
「は、はい!ありがとうございます。」
「この件はサービスとして承ります。今後も宜しくお願いします。」
そう言って雑賀は去っていく。
その後はどうなったかと言えば言うまでもなく、好美を笑顔で送り出す為とは名ばかりの大宴会、ドンチャン騒ぎで他の客からはヒンシュクを買い、『ルミエール朝霧』の職員からは『迷惑だ!』と叩き出され大変な目に会ってしまったのは言うまでもないが・・・・俺はこんな部活も悪くないななんて思ってしまった。
そして・・・最後に言わせてくれ!天観部員達よ!絶対俺の名前覚えてないだろ!
読了お疲れ様です。
この作品は2010年頃書き上げて、あるサイトで公開していたのですが、
諸般の事情により、サイトを閉鎖し封印していた作品であります。
このたび、電撃の軍師様を執筆中にHDDがご臨終され、データがLOSTしてしまいました・・・・。
バックアップはあったので問題はなかったのですが、モチベーションが大分落ちてしまいましたorz
気分直しにフォルダを漁っているとこの作品を見つけ少し懐かしくなり手直ししたので、
公開してみることにしました(笑)
まあ、一番苦労したのは主人公の無双箇所なんですが、当初は主人公が自力でどうにかするプロットだったのですが、何度か読み直してみて、全体的に主人公が目立たなくて面白くなかったので無双シーンが誕生したんですが、個人的にはもう少し地味なほうがよかったかなぁと思いつつ・・・。