水晶の記憶
こんにちわ。
連載中の小説をほっぽって(自覚あり)
正月企画として打ち込みした小説を投稿してみます。
意味のない小説ですのでみたくない、というひとはまわれ右をおねがいいたします。
それでもまあみてみようかな?という人のみどうぞですv
御正月企画!(まて)
といいつつも、打ち込みがおくれて元旦には絶対にまにあわない自覚あり(確信
題名と内容があっていないのは毎回のことなのでご容赦をば。
ともあれ、いっきまーす♪
…私(薫)のかくものなので期待しないほうがいいですよ?
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「もろいな……」
誰にともなくつぶやいてしまう。
どれだけの年月が経過したのかもはや計りしれない。
今回もまたあるいみ自滅、といっても過言でなかったが。
「次なるはどのように先をすすんでゆくのか……」
再び同じ過ちを繰り返すのか、それとも……
願わくば、母なる鼓動とその願いにそったものであることを――
水晶の記憶~ミステリーハンター・トール~
「さすがですね。トールさん。…は~……」
目の前に置かれた報告書の数々は文句のつけようがない。
おもわずため息がでてしまうのは彼女でなくても関係者ならば誰しも仕方のないところ。
「そもそも。なんで他の人達はこうしてこまかな報告をあげてくるのをおざなりにするのやら。
皆が皆、トールさんみたいにこう丁寧にしてくれればどれだけ私たちが…
いえ、ギルドといわず皆がたすかるかっ!」
だんっ!
目の前の机をおもいっきり叩く木で…どうみてもくりぬいてつくられたであろうそれに座っている、
髪を肩のあたりまでのばし、ゆったりとした服装に包んでいる見た目二十代そこそこの女性。
この場には二人以外の姿はみあたらない。
部屋の外のほうからは様々な声がきこえてきているものの、今はこの場に二人だけ。
奥まった部屋にて報告を行っているのはトール、と呼ばれている青年。
「……ソラさん。まあまあ、おちついておちついて。
まあ、私はしがないフリーライターですからね~」
かつてこの惑星をわがもの顔であるいみ支配していた種族が使用していたとある言語。
しかしそれらの原語はいつしか今ではギルド限定の特殊なる仕事内容を指し示すものとなっている。
かつて、この惑星をもほろぼしかねない人類がいた、という。
それらの遺跡はごくごくたまにみつかるものの、今の技術力ではおいつかず。
さらにいえばかろうじてのこっている伝承に彼らが放棄しまくっていた彼らのつくった【様々な道具】
によって世界が…否、惑星の生命という生命が存続の危機にさらされた。
正確にいうならば宇宙空間に放っていた彼らが使用していた様々な道具が、
磁場が乱れたことにより一斉に惑星上に降り注いだがゆえにおこったあるいみ人災。
だがそこまで詳しいことは伝承ですらのこっていない。
それによっておこった大規模な世界規模の災害に加え、
惑星そのものの自らの自己治癒力が発揮され今にいたる。
それは今から一万年前とも二万年前ともいわれている。
それでも人類などが生き残れたのは、自己治癒能力が発揮されている最中、
一部の人類に自らの【力】を操れるものがでてきたからに他ならない。
もっともそれは彼らが古に忘れ去られていただけの【力】なのではあるが。
大自然の力を借りた技を扱う存在達。
通称、彼らを魔道士、と人はよぶ。
特殊な力をもつものたちが集まり、そしてそれらを束ね、また監視する目的でつくられた組織。
それがギルド協会、という代物。
ギルドには様々な部署があり、大概の知的生命体はそこに身をおいているといっても過言ではない。
「しかし。あいかわらずトールさんのこの転写絵はすばらしいです。
普通、転写絵をすることすら、またその姿をおさめることすら難しいんですけどねぇ」
特に自然界の数多なる精霊等という存在に属するものたちに関しては。
そうぽつり、とつぶやきつつも、ヒートアップしていた気持ちが少しは収まったのか、
目の前におかれている紙?らしきものにうつっているのもにと目を通すソラ、といわれた女性。
「あはは。なんでか私がやるとよくうつりこむんですよ。
だからこんな私でも仕事になってるんじゃないですか」
トール、と呼ばれた人物はにこやかな笑みを崩さずにと言い放つ。
黒き上着に黒きズボン。
上半身にはマント?らしきローブを羽織っており、その下には腰にさげている剣?らしきものがみてとれる。
もっとも彼の容姿をみて十人が十人とも絶対に戦闘向きではない。
というかあなた戦えるの?
といったようないかにもどこにでもいるようなごくごく普通の好青年、というよりは少年に近い。
年のころはおそらく見た目二十歳にすらとどいていない、という程度か。
「それにこの依頼ってたしか難易度がたかいあの迷いの森でですよね。
よくもまあ……というか毎回おもいますけど。よく狂暴な生物などにおそわれませんよね?」
「運がいいんでしょ。というか狂暴といわれるそれらの類にはまず出会いませんからね~」
その言葉には嘘はない。
「運はいいですよね。ほんと……
とりあえずこのたびの依頼はこれで文句なしの完了です。次なる依頼なんですが……」
「はやいですね。いつもなら報告と同時に依頼なんてないでしょうに」
というか彼のもとに依頼が舞い込んでくることが滅多とない、といっても過言でない。
そういったときは自分で勝手に様々な場所にでむいていき、
そこそこの状況を書き記し、それらの情報を売っているのだが。
「ええ。実は首都からとある人物が霧の山にむかいたい、と連絡があったらしく。
最近首都で占い師として名をしられている人らしいんですけど。
首都の企画で【世界の不思議を占いで暴く】みたいなものをやるらしく……」
「・・・・・・・・・・・・・・・・首都って暇なんですか?」
「暇でないですよ。ですがなんでかのりのりでこの企画が通ったらしく……
うちのギルド長も頭をかかえてましたよ。本当に……」
「「・・・・・・・・・・・・・」」
そもそも、不思議、といわれている場所、それすなわち危険地帯、といっても過言でない。
この世界にはいまだに知られざる知的生命体やその他の生態系をもっている生体がいる。
事実、そのために新種発見などに携わるギルドすらできているのもまた事実。
「ユニバーサル・ガーディアンが企画したらしく。うちとしても口をはさめないらしくて……」
「ああ。それはむりですね。というか大口の出資先ですし」
それだけで納得できてしまう。
ユニバーサル・カーディアン。
かつて滅んだ文明の通信機器などといった遺跡を発掘、分析し、
この時代でもつかえる使用にと開発したとある組織。
曰く、情報に勝るものはなし、という概念のもと様々な品物を開発、販売している。
別にそこに勤めていなくても会費なるものを払い、
その額によってその時折にでた利益が還元される、という仕組みをとっている。
ギルドとて無料で組織が運営できるはずもなく。
出資者とよばれる善意の存在達により組織がまわっている、といっても過言でない。
ゆえに無理難題をあるいみおしつけられても断れるという手段が残っていない。
「というわけなんですよ。よろしくおねがいします」
「……まあいいですけどね。しかし霧の山の伝承の沼地とかにもいくんですかねぇ?
あそこ、淀みがたまりまくってますけど?」
「あちらがいうにはその人、ですか?そういったものを払えるので問題ない、というのですが」
「自称でそういう人にかぎって力が偽物だったり、だまされてたりするんですけど…
……今までの経験上」
あからさまに力がある、と周囲がおもっていても実は低級な自然霊などがちょっかいをかけていたり。
あげくは動物などの霊格がちょっかいをかけていたり、と
当人がそういった力をもっているものはまず自らを売り込んだりはまずしない。
周囲に知られる、ということはそれなりのリスクを伴う、ということを自覚しているがゆえ。
そういったものを自覚していないものは、大概何かに利用されている存在達。
そういう存在達ほど自覚がないだけにタチがわるい。
強き感情などはある一定の力を超えたものには視覚にて確認できる。
そしてまた、不思議云々、といわれている場所は、
その場にとどまる力がつよいがゆえに、力なきものですら視覚化できる、という厄介な場所が多い。
そんな場所の案内依頼が彼、トールにまわされてきたのは何のことはない。
彼はよくそういった場所をめぐってはそこの内情などを情報として各地に売っているからに他ならない。
迷いの森などといった場所は格好のあるいみ資金源、といってもさしつかえがないほどに、
情報をほしがる輩は山といる。
暮らしてゆく上で必要なもの、というのもはどうしても必要。
ゆえにトールにとってはあるいみそういった場にいく、というのに危機感はあまりない。
「出発日は明後日になりますので」
「ってむちゃくちゃはやいじゃないですかぁ!」
「……情報がはいったのが今朝なんです……」
『・・・・・・・・・』
この場合、誰を攻めればいいのであろう。
彼女をせめたとしても彼女とて所詮、ギルドの情報部の従業員の一人にすぎない。
しいていうならばむちゃな企画をおこした当事者、になるのであろうが。
当然ながらこの場にいる彼にそのようなすべをしる方法はまずありえない。
ゆえに思わず二人して無言になってしまうのは間違っていない。
絶対に。
「……は~。わかりました。それで、集合場所は?」
「あ。はい。えっとですね……」
彼女をせめてもどうにもならず、ゆえにため息まじりに詳しい情報を聞き出すトールの姿が、
部屋の一室においてしばしみうけられてゆく……
「あなたが案内人?ずいぶんとたよりないのね。
というか、この地区のギルドにはもっといい人材いないのかしら?」
あからさまに見下したようにといってくる目の前の恰幅のいい女性。
どうでもいいが、自称、占い師といっているのにその身につけているのは、
どうみてもきつねの襟巻、ついでにいえば贓物のみを処理してつくっている代物。
「せ、先生。彼は霧の山に詳しい、ということでギルドから推薦があった人物ですよ?」
「そもそも、案内なんていらないのよ。私の占いで道なんかわかるんだから」
どうみても地方には…否、権力者関係ならばあからさまにいるであろうが。
ともあれどうみても太りすぎでは?としかいえない女性にぺこぺこ頭をさげている同行者達。
霧の山にとでむくのは、問題の【占師】とそして首都よりやってきているガーディアンの関係者と、
そしてまた、首都のギルド関係者。
「すいません。先生も悪気があるわけでは。しかしあなたがあの有名な
ミステリーハンター、トール。ですか。ずいぶんと年若いんですね」
「あはは。よくいわれます。まあかなり童顔なので……」
通している年齢をいわなければまちがいなく十代中ほど、またはそれより前。
と確実にとらえられる。
「とりあえず、今からむかいます山はかなり入り組んでますので。
また霧も深く下手にうごいたりしたら崖なども多々とありますので。
勝手な行動だけは慎んでくださいね?」
かの山は道がつづいているようにみえてさくっと切り立った崖になっている。
という箇所が多々とある。
もしくは道の先、しかもまっすぐ、とおもっていたらいきなり沼にいきあたったり。
さらに発生する霧は方向感覚を狂わす成分が含まれているらしく、
当人はまっすぐあるいているつもりでもいつのまにかかなり道からそれている、ということもざら。
腕試し、もしくは度胸だめしとして山にはいり行方不明になる存在は年間かるく三ケタは超えている。
待ち合わせの場所はこの町のとある宿屋の一室。
この町の中では一番の高級な宿であり、
一般人が一泊するだけでかるく一年の生活費がとんでゆく、というような高級宿。
ふんだんに材質のいい木材や石材、さらにはレンガなどを惜しみなく使い、
なおかつ内装にもかなり力をいれていおり、置いてある内装品なども超一流の品々。
その一階にある待合室…いわゆる、ロビー、と呼ばれている場所で顔見世している彼ら達。
ホテルだのロビーだの、というのはかつて滅んだかなり進んでいたといわれている文明の、
それらの名残、というかそれらの資料?というか遺跡から解読したものたちが、
誰ともなくいいだしたがゆえにほとんど一般的な総称となっている。
「ふん。この私に指示なんて、あなた何さまのつもりなのかしら?」
「せ、先生。と、ともあれ本日はよろしくおねがいしますね。トールさん」
完全に見下したように言い放ってくる先生、と呼ばれた女性にたいし、
その横にいる二人の表情はあからさまにあせっているのがみてとれる。
「では、いきましょうか。ギルドより『浮卵』が用意されてますし」
この時代においてあるいみ一般的な乗り物でありながら、
その金銭面の高さからあまり一般的には普及していないとある乗り物。
大きさは一人用から大人数…といっても二、三十人程度ではあるが。
それらを運ぶ地面より浮かんで移動するとある乗り物。
地面より浮かばせるために特殊なる物体を使用しており、
それらがなかなか手にはいらないがために乗合的にもけっこう金銭面がかかったりする。
かつてはそういったものが安い金額で庶民の足になっていた、という学者達もいるにはいるが。
いまだにそれらの遺物がみつかった、という話しはきいたことすらない。
大概は、飛竜などを調教し、それら足と化している。
もしくは馬車、それが今のこの世界の常識。
そんな中で『浮卵』を利用できる、というのはかなりの身分のもの、もしくはお金もち。
このどちらかにあてはまったりするのだが……
しかし、この浮卵』にも問題はある。
きちんとした運転免許、というものを国公認の場にてとらなければ扱えない。
「あら。あなた、免許をもってるの?」
「ええ。まあ」
心底以外、というような表情をして言い放ちつつも、興味はないとばかりに
目の前にだされている飲み物を飲み干す様がみてとれる。
完全に社交辞令、というか一応きくだけきいてみました、という態度があたらさま。
「すごいですね。トールさん。あれってかなり難問とききますが」
「いやぁ。一応とっといたほうが何かと便利かとおもいまして」
彼のようにフリー…すなわち、一人で…何の後ろ盾もないままに活動するものにとって、
そういった資格云々はけっこうひびく。
資格のありなし、で依頼内容がごそっとかわったりするのは日常茶飯事。
まったく興味がありません、とばかりの態度をとる女性にかわり、
首都よりやってきていたギルド員の一人がそんなことをいってくる。
「ともあれ。よろしくおねがいしますね」
「まあ、あまりここで時間をつぶしていても何ですし。いきますか」
事実、ここから山まではかなりの時間を要する。
かるくみつもっても一時間以上。
関係ないことではあるがこの時間、という概念。
とある遺跡より発見された『時を刻む道具』が発見され、
それにより時刻、というものが世界中に普及していたりする。
それまでは大概、日時計など太陽の動きなどで大まかに時間を把握していた人類達。
この【時計】というものが発見、また開発され人々の活動はより大きく向上した、といってもよい。
閑話。
いまだにあまり納得していない、というような様の占い師だという女性。
彼女曰く、本名を名乗ることは占いに響くというのでいつも偽名を名乗っている、らしい。
まあたしかに、この世界には『言霊』というものも普及しているのでわからなくはない。
ないが、普通『力』をもつものはそういったものに縛られないはず、というのが常識。
もっとも、それは【力】があるからこそわかることであり、一般人はそこまで詳しいことはしりはしない。
浮卵』は自在にスピードを操れる。
それらの移動速度をきめるのもまた運転者の腕による、といって過言でない。
また、浮遊する距離…すなわち、地面との距離をも決めることができる。
もっとも、あまり高い位置にまで浮遊することはできないのではあるが。
できてもよくて二階建建物の少し上程度。
近年、二階建よりも高い建物などが建設されたりしたものの、
度重なる自然災害でなかなか地に根付かない、というのもまた事実。
とある大工がそれらの自然災害…近年までは精霊の仕業、と考えられていた、
地面が揺れる災害…今でもほとんどのものが大地の精霊の仕業、と考えている…のだが。
ともあれその災害に強い建物を設計、建設し、それらは今や観光名所となっている。
そんな『浮卵』をあやつりつつも、地面からの距離はさほどとらず、
地面からすこし浮いた程度に設定し、そのまま街道を進ますトール。
トール曰く、下手に高い位置に浮かぶと不測の事態のときに回避などがしにくくなる、というのが理由らしい。
実際、高い位置を進んでいるフランに鳥などがぶつかっただの、
もしくは【術】があたっただの、という話しはいまだにならくならない。
『浮卵』の設計上、使用する材質がかたよっており、
そういった外部からの衝撃に完全に安全です、といえるまでの安全性はいまだにみえていない。
何しろ下手な材質をつかえば浮かぶために必要な材料…【フルート】とよばれている物質。
見た目、鈍く黒くそれでいて光にあたれば銀にみえる、という鉱石のような物質。
それらを特殊な技術で加工すると、地面と反発するようになり、
そしてまたそれらに特殊な文様を刻むことにより、地面からの距離なども決めることが可能となる。
欠点は、普通の金銀銅、といった材質をつかった場合、
それらの材質の性質と反作用を起こすのか、浮遊する、という性質が失われてしまう、という所。
ゆえに大概、『浮卵』は木製と相場がきまっている。
高級品では水晶でできているものもあるが、それらは一部のものが使用しているにすぎない。
簡単に説明するならば、空を浮かんでいる無防備なる乗り物は、
害意、もしくは敵意をもっているのもにとっては恰好の獲物、といっても過言でない。
それらの欠点もあり、ほとんどの操縦者は普通の街道を普通の馬車のようにと移動する。
そのほうが何かと都合がよいし、何か攻撃してくるものがいればスピードをあげてふりきればよい。
街道は主流が馬車ゆえにけっこうゆとりをもってつくられており、
また町から一歩でればほとんど道という道になっていないのだからそのほうが何かと無難。
彼らが乗るのは五人乗り。
ちなみに運転席とよばれし前の部分には一人しかのれず、
その後ろに設置してある座席にと残りがすわる、という仕組みとなっている。
前部分の運転席と後ろ部分の後部座席は木の柵にてくぎられている。
正確にいうならば、運転手の気をちらさないがために完全に区切っている、といってもよい。
何しろ初動期などは運転者が同行者などにきをとられ、事故を起こす確率がこれでもか。
というほどに多発した。
それゆえの配慮。
区切っている木には特殊な紋が記入されており、
それらが防音効果をおりなし、後頭部席の会話は運転席には聞こえない。
それでも聞きたい場合は、運転席と後部座席の間に設置されてある、
【伝道管】と一般的によばれているものの蓋をはずせばよい。
最も、大概のものは運転者に話しかけ、事故を起こされたりしたらたまらない。
というので話しかけるようなつわものは滅多といない。
…大概、話しを聞き流すために蓋を解放するものはいるにしろ。
「う~ん。平和平和」
あるいみ平和といえない現状ではあるが、考えてみれば平和、といっても過言でない。
何しろギルドのほうで運転手が確保できなかったとかで彼が運転者として移動することになった。
それもギルドにむかってからそういわれ、二つ返事でその依頼を引き受けた。
何しろ依頼料を二倍にする、といわれうなづかないほうがどうかしている。
暮らしてゆくにはそれなりに先立つものは必要なのである。
運転席と後部座席は完全にあるいみ切り離されているようなものなので、
後ろにのっている三人がどんな会話をしているのかなんてまったくもって興味がない。
そもそも彼の今回の役目は彼らをとある山にと案内すること。
すなわち道案内。
誰に文句をいわれるわけでもないがゆえに、
彼の耳にはちいさな紐?のようなものがくっついていたりする。
そこからかすかに音?らしきものが聴こえているが、よくよく耳をすまさなければわからない。
それほどまでに小さな音。
「これって普通、あまり人のいるところできけないからな~」
間違いなくとある筋のものたちに見つかれば、没収という名の接収されかねない。
何しろ彼が今、きいているのは古代文明の遺物…の一つ。
小さな箱のようなものから音楽がながれる、という代物。
「そもそも、貨幣の価値も以前とはがらっとかわってるし……」
今では遺跡より過去の遺物?がみつかり、それらの時代に普及していた。
とおもわれし貨幣などがみつかっても、その細かな細工に皆がどのようにしてつくっていたのか。
といまだに議論はつきていない。
もっとも、大概、そういった遺跡からみつかる品々は水中に沈んでいる遺跡から、
なので紙幣、などといった代物みつからない。
あるいみ化石状態になっている品物がみつかることは時折あるらしいが。
それはほんとうにごくごくわずか。
かつての大異変はそれほどまでに突発であったのであろう、というのが研究者達の総意。
もっとも、精霊の声をきけるものたちが真意を問いただしてもにたようなことをいったらしい。
人に邪魔されずのんびりと自分が気にいった音楽をききながら旅をする。
一番、彼が何よりも望んでいる旅のスタイルに他ならない。
ゆえにこそ今のこの状況…うしろにやっかいな客というか依頼者がのっていても、
この目的地にいくまではあるいみ彼にとっては至福の時間、といってよい。
「今と昔、どちらがよかった…とは誰にも正確なところはわからない…んだろうな。きっと」
時折、かつての記憶をもったまま転生しているものもいるという。
それは彼らにとってよいことなのか、それとも悪いことなのか。
それは当事者達でなければわからないこと……
彼自身からしてみれば、どれも似たようなもの、といわざるをえないのだがそれはそれ。
音楽をききつつものんびり運転することしばし。
やがて視界の先にと目的の場所がみえてくる。
今まで何もないひたすらただッ広い草原を進んでいたその先にみえてくるは、
生い茂る山々。
そこが有名な【霧の山】と通称呼ばれている場所であり、
またその山を筆頭に山脈がいくつかつらなっている。
別名、迷いの山、もしくは死の山、ともよばれているのだが。
「さて。と。目的地に到着しましたよ。これからは歩きとなります」
いいつつも、『浮卵』をとめ、
そのまま後頭部席にとまわりこみ、
こんこんとその窓の部分をたたき後部座席にいる同行者達にと話しかけるトール。
しばらくして何やら不機嫌そうな占い師と疲労したような二人の人物が降りてくる。
まあ、何かあったんだろうなぁ、とはおもうがそれは口にはださない。
…誰しも厄介なことには巻き込まれたくない、というのが本音なのだから彼の判断を怒れはしない。
むしろそんな彼らをみて、運転者でよかった。
としみじみおもうトールもおそらく間違っていない。
貴重品でもある乗り物を紛失してもいけない、というので近年開発された、という、
『浮卵』用の入れ物。
正確にいえば対象物を小さくさせる【術】のかかった品。
それを『浮卵』のとある部分にと全員が降りたのをみはからいおしつける。
それと同時、またたくまに先ほどまでのっていたそれは小さくなり、
ちょっとした懐にしまえるくらい、正確にいえばポケットにはいるくらいの大きさにまで変化する。
ちなみにこの【鍵】は一つの『浮卵』に対としてつくられており。
別の【鍵】では大きさを変化させることはできはしない。
…まあ今のところ、といわざるをえないのかもしれないが。
何においても予想外、もしくはそれを打ち破ろう、とするあるいみ冒険心をもったものは
どの時代においてもいない、といいきれないのが世の真理。
いずれはそういった輩が生み出したものに対抗する品々もまた開発されるのかもしれないが。
「まったく。この私ともあろうものがどうしてこう無能なものと同行しないといけないのかしら。
それも長時間……」
何やらぶつぶつといまだに文句をたれている一応今回の依頼のメイン?ともおもえし人物。
そんな彼女の台詞をさくっとながし、
「ここよりは危険な場所となりますので、みなさんきをつけてくださいね。
霧が発生していますがその霧にまどわされないように。
ここの霧は人の方向感覚を狂わす、ともいわれていますから」
正確にいうならばこの霧は多少なりともの【瘴気】を伴っている。
ゆえにとあるものたちはこの付近の山々をこう呼び称す。
すなわち、【瘴気の聖山】と。
「いやぁ。噂にきいていましたけどすごい霧ですねぇ」
かろうじて道らしき周囲には霧はあまり立ち込めていない。
正確にいうならば道を挟んで霧が立ち込めている、というか、
まるで霧が道をさけているというか。
しかも大人一人分くらいの高さより上には霧はたちこめており、空すらみえないありさま。
最も太陽の光は霧に反射され拡散されるように降り注いでいるので薄暗くはない。
しかしさらに山の奥に入り込むと鬱蒼とした暗さにととってかわる。
山に入る前までは何でもない光景なのに、足を踏み入れた途端、ひんやりとした空気がまとわりつく。
「カズラさんはここに来られるのは初めてなんですか?」
首都のギルドに勤めている、というのだからこういったところには慣れている。
とばかり思っていたがゆえに首をかしげて問いかける。
そんなトールの言葉に対し、
「お恥ずかしいながら。私はギルド職員でも広報部が担当でして。
このたびも先生の活躍を大きくとりあげろ、との上からのお達しで……
戦力になる他のギルド員をあてたほうがいい、という意見が多数あったのですが。
肝心の先生が身元もよくわからない傭兵もどきにたよりたくない、と仰せられまして……」
いいつつ盛大にため息をつく。
そもそも身元がわからない云々、というのはありえない。
町や村ごとにきちんと生誕したと同時に登録する義務があり、
悪質なる理由で登録をしない場合罰金、もしくは実刑がかせられる。
また定期的にギルドより辺境の地などをめぐる調査もおこなわれており、
実質的に今現在の人工の変化などある程度は把握できている。
「…それって、ほとんどの人達を敵にまわす発言ですよね?よく許してますね……」
あきれる、とはまさにこのこと。
「先生の顧客には上層部のお偉いさんもいるらしくて。逆らえないんですよ……」
「…まあ、いつの時代も腐った考えのものはいますからねぇ……」
「トールさん。事実でもおおっぴらにそうはっきりというのは……」
下手したら難癖をつけられて冤罪をおしつけられることもありえる。
「ここには誰もいませんし。それより勝手な行動をしないように。
といったのにあの人達…いうこときいてませんね……」
勝手に行動しないように、と散々いったにもかかわらず、
ずんずんと先をあるいているのがみてとれる。
「…リアトリス先生ですからね……」
偽名というか活動するのにリアトリス、という名を用いているらしい占い師。
一部では精霊の力をも行使できる、とすらいわれている。
それが嘘か本当かはわからないが。
「道から外れてそのまま崖からおちてもしりませんよ。まったく……」
道なりにすすんでいればさほど問題はない。
が、どうみても道からはずれて茂みのほうにいこうとしているのをもう一人の人物。
すなわち首都よりやってきている会社の従業員…確か名前をシャスタといったか。
ともあれシャスタが必死でどうにか押しとどめているのが視界の先にと映り込む。
「あ~。すいません。そちらのほうは崖になってますよ。
たしかに道があるようにみえますけど、それ自然現象ですから」
俗にいうけもの道、というわけでもない。
そのまま道とおもってすすんでゆくと突如として切り立った崖にと突き当たる。
すでに山の中腹あたりまでやってきており、崖からおちればただではすまない。
しかし普通の道には霧がたちこめていないのに、
うっすらとではあるが立ち込めている道を進む、というのはいかばかりか。
リアトリスが進もうとしている道は霧がたちこめて道のようにみえているものであり、
そのまま普通の道、と信じてすすめばまちがいなく崖からおちて転落死してしまう。
この山にての死亡率の上位にはいっているその死に方は知る人ぞしるいわば山の罠。
「ふん。そんなことはわかっているわよ。こちらのほうから気配がしたからみにいくだけよ」
「…いやあの。すぐに崖になってるのでやめたほうがいいですよ?」
というかそちらのほうに気配は何も感じないのだが。
そうはおもうが口にはださずさしさわりのないいい方でやんわりととめつつも、
「そういえば、頂上の社への案内はきいていますけど。他にはどこにいく予定なんですか?」
詳しい日程というか過程は聞かされていない。
何でもリアトリス曰く、その場に行かなければ決められない、らしい。
こういう場所は確実にどのような行動をするか前もってきめておかなければ不測の事態がおこりえる。
とくに山はなめてかかると大変なことになる。
それでなくてもこの山は瘴気に満ちている山としても有名なのにいきあたりばったり、
というのは完全にいただけない。
ないが一応彼らを案内するのがトールの仕事。
そもそもこの依頼をうけるにあたりそのあたりの愚痴は散々ギルドでいいつくしている。
最も、ギルド側としても同じ意見であったらしいが……
何やらつかえないだの、案内などいらなかっただの散々文句をいっている女性をさくっと無視しといかける。
「とりあえず。頂上の社にいったあとは、先生が気になった場所を重点に調べる予定です。
…でしたよね?先生?」
「ふん。瘴気がすごいときいていたけど大したことないわね。
そもそも案内なんていらなかったんじゃないのかしら?
この程度ならば私の力でもってどうにでもなるものなのに」
「とりあえず、危険、とおもわれる場所には近づかないでいてくれれば助かります。
ここには普通の水たまりにみえて実は底なし沼、という箇所も多々とありますからね。
あとは小さなだたのくぼみ、とおもっていたら瘴気のたまり場だったりとか」
入り込んだだけで幻覚をともない、そのまま死亡にいたる、という箇所もある。
最もこれに関しては瘴気ではなく、とある物質の影響なのだが。
そのあたりの詳しいことはこの世界ではいまだに解明されていないのもまた事実。
一酸化炭素だのと説明しても意味が通じないのだから説明してもしかたがない。
ゆえにまとめて簡単に【瘴気】と説明しているこのトール。
この世界、大概不可思議なことなどがおこると…特に害をなす現象がおこったときなど。
大概この言葉でひとくくりにてすまされる。
しかし、とおもう。
この女性、本当に自分に力がある、と思い込んでいるのだからたちがわるい。
こういった自称能力者は一番扱いにこまる。
とくに権力者と結び付いて伊達に名声をふるっていればなおさらに。
いまだに何やらぶつぶつと文句をいっている女性をさらっとながし、
そのまま三人を引き連れ、山の道…なぜかきちんと石がひかれているその道をすすんでゆく一行。
かつてはこの山はきちんと聖域として扱われており、ゆえに社に向かうまでの道のりは、
石畳が簡単に敷かれており、一応参拝するものたちに配慮した形となってはいる。
もっとも、この山が瘴気と霧に覆われてからは滅多と参拝するものはいないのだが。
それでも数年に一度、完全に霧が晴れる時期があり、
参拝者達はその時期をみはからって社にお参りする、という習慣があったりする。
石畳みを管理するものがいないにもかかわらず、雑草などで石畳みがみえなくならないのは、
一重に立ちこめる霧に瘴気などが含まれており、
雑草など生えるまえにあっというまに枯れ果てるからに他ならない。
もっとも根性のある草木などは石畳みの左右にしっかりと生え育っているのだが。
そんなたわいのないやりとりをしながらも一行は山の頂上付近に向けて進んでゆく。
彼らが立ち去った後、その背後の道は完全に霧につつまれ一寸先すらみえなくなっていたりする。
それこそ足元の石畳みの道すらみえないほどに……
「……ふわ~……」
おもわずアクビがでてしまう。
「トールさんも災難でしたね。すいませんね。うちの会社の上層部の我がままにつきあわされて」
視界の先ではカズラがリアトリスに何やら延々と向上らしきものをいっているのがみてとれる。
しかし自分には関係ないがゆえにこうして少し離れた場所にて
のんびりと話しがおわるのをまっているトール。
話しが平行線でおわったのか、はたまた話しがまとまったのか、
カズラを一人おいて先にもどってきたシャスタが苦笑しながらトールにと話しかけてくる。
「いえいえ。しかたないですよ。上というものはそんなものですよ」
トール自身が身にしみてよくわかっている。
もっともわかっているから、といって自重する気もないが。
「しかし。シャスタさんは何であの人のお守に選ばれたんですか?」
「お守…って、たしかにそうですね。あの先生の我がままには困ってますけど…
……私が一番忍耐力があるから、という理由でえらばれました……」
「……あ~。飴でもいかがですか?」
どこか哀愁をただよわせて諦めたようにかたるそんな彼の台詞に何となく理由を察する。
おそらく間違いなくおしつけられたのであろう。
「しかし。先生もむちゃいいます。一寸先すらみえない霧の中で勝手に行動する。などと」
「まあ、自分に自信がある、と思い込んでいる人はそんなものですよ。
とりあえずこの社の周囲、半径十メートルはさほど危ない箇所はないですし。…一応」
沼があったりくぼ地があったりはするが、それはそれ。
と。
ふわり。
突如として吹いてきた風がまるで意思をもっているかのごとくに、
そのあたりにある品物を空中へと舞い散らす。
「…あ」
シャスタ、とよばれた男性がかるく首にかけていたスカーフもまた風にまきこまれ、
そのままふわり、と舞いあがり、それはふわふわと森のほうにむかって飛んでゆく。
「ああ。あぶないですから。私がとってきますよ」
「え?でも……」
「霧もでてきましたしね。ここから動かないでくださいね」
突発的に吹いた風により首にかけていたスカーフがとばされ追いかけようとした彼をやんわりととめる。
むしろこの霧の中で免疫のない人が動き回ること、それすなわち遭難します、といっているようなもの。
だからこそシャスタもとまどった声をあげたのだが、
しかしどちらがとりにいったほうがいいか、といえば効率的にトールのほうがよほどまし。
そんな戸惑い気味な表情をうかべるシャスタをその場に残し、
「ほんと。ここの社の中から動かないでくださいね?」
念には念をいれ、そのままスカーフがとんでいった霧のたちこめる木々の中にと足をすすめてゆく。
少し進むだけであっという間に社は霧に包まれ輪郭すらうかがいしれない。
普通ならばそのあまりの霧の濃さに狼狽したりするものもいるのであろうが、
だがしかし、
「かつては大自然の力を自在に操れるものも多々といたんだけどな~」
トールの反応はまったく異なったもの。
彼が思わずつぶやいてしまうのはあるいみ仕方のないことかもしれない。
今でもいるにはいるがほんの一握り。
それこそ自力で、というよりは大自然に宿る精霊達の力、というほうが正しい。
まあ一時期、それらすら視えなくなっていた時期があったことを考えると、
今は昔より多少は改善?されているのかもしれない。
と。
……く、……ひっく……
「……ん?」
何やらしゃくりあげるような小さな声がスカーフの飛んで行った方向からきこえてくる。
進むにつれその声はだんだんと鮮明になり、
「……ひっく……おか~さん……」
「……こども?」
この場には場違いともいえる小さな子供の声。
ふわり、と風にまっていたスカーフがようやく空中よりまいおちたかとおもうと、
その少しさきの木の根元に小さな子供がうずくまるようにして泣いているのがみてとれる。
「……あ~……納得」
どうりであいつらが呼んだわけだ。
などと自分なりに納得するものの、しかしこのままほうっておくわけにもいかない。
「あ~。どうかしたのか?というか親はどうした、親は?」
びくっ。
声をかけるとあからさまに何やらおびえた様子をみせるその子供。
年のころは見た目四歳かそこら。
服装は上下セットのワンピースというかローブらしきものを身にまとっている。
栗色の髪に深い蒼き瞳が印象深い。
が、その表情はあからさまにおびえが混じっている。
びくり、とする子供を優しく諭すかのようにゆっくりとその子供の頭に手をのせて、
安心させるようにゆっくりと頭をなでつつも、
「こんな所に一人で迷い込んで、親は?家族は?」
「…ひっく………っっ!」
どうやら一人でかなり心細かったらしい。
危害がない、と本能なのか悟ったのかそのまま小さな体をトールの足元にすりつけ、
しっかりとしがみついて声にならない声をあげてなきだす子供。
「あ~。こわかったのか?こわかったんだな。ん~、ついてくるか?」
というか放りだしたりしたらあるいみ後味がわるい。
もっともついてくるか、ときかずとも子供は足に必至にしがみついている。
そのまま足元にしがみつく子供をひょいっと抱きかかえ、
そしてついでに地面におちたスカーフを拾い、もときた道を引き返す。
「…あれ?トールさん?その子供は?」
霧が深くなり、身を案じていたが無事にもどってきたトールをみてほっとするものの、
その腕に小さな子供が抱きかかえられているのをみておもわず目をまるくしといかける。
「ああ。どうもここで迷子になってたみたいですね」
「迷子って……」
どうやらいつのまにか話しあい?はおわっていたらしく、
この場にはカズラ達二人もまた戻ってきている。
「ちょっと。こんな子供が同行するなんてきいてないわよ。
というかとっととそんな得体のしれない子供はほうりだしてよね」
一人、場の空気を読まずにそんなことをいっているものもいるにはいるが……
しかしこんな場所で子供をほうりだせ、など普通ならばいわない。
絶対に。
その高飛車ないいようにシャスタとカズラの表情にあからさまに批難の相がうかびあがる。
ゆえにさくっとそんな占い師、リアトリスの台詞はさくっと無視し、
「こんな場所で迷子、ですか?」
聞かなかったことにして戸惑い気味にとといかけているカズラ。
あるいみいい判断、といってよい。
「ときどきいるんですよ。迷子って」
そんなカズラやシャスタの疑問に答えるかのようにさらっといい放つトール。
「しかしここで迷子になると生死にかかわるのでは?」
「確実に死にますね」
最も、それをみこして子供をわざとここに起きざりにする輩もいるにはいる。
子供や大人、すわなち力の弱いものが数多と行方不明になっている、
といわれているこの山の現状。
すなわちそういった用途に一部のものからここが使われている、に他ならない。
「何でこの高貴な私がどこの子供ともわからないものと一緒に行動しないといけないの?」
ぶつぶつといまだにトールが子供を保護してきたことに対していまだ文句をいっている約一名。
「まあまあ。先生。しかしこれも先生の美談になりますよ。
そうですね。リアトリス占師、霧の山にて行方不明中の子供をその能力で察知。
その方向で名目を打てば先生のこのたびの視察にもはくがつくかと」
そもそもこの山にいきたい、といいだしたのはほかならぬ彼女らしい。
ゆえに後付けではあるが子供が迷子になっているのを予知したがゆえにここにきた。
とあとづけながら理由をつけて美談にしよう、とはシャスタの談。
さすがにかの大手企業たるユニバーサル・カーディアンの社員、といえる。
いまだに子供はトールにべったりとくっついており、かたときも離れようとしない。
どうやらよほど心細かったらしい。
抱っこしていた形から地面に降ろしたものの、そのまますがりつく形のまま、
顔すらあげないこの子供。
霧が立ち込めているがゆえに空気はひんやりとしている。
ゆえに子供にはトールが羽織っていた上着をかけている今現在。
体が小さいのでその裾が地面すれすれになっているのだがそれはそれで仕方がない。
ここにくるまでに先にトールは上着を子供にかけているのだが、
その様がその子供の小ささと愛らしさを余計に逆の意味で引き立てていたりする。
小さな体にぶかぶかの服。
普通ならば保護欲がかきたてられてもおかしくないその姿、にもかかわらず、
リアトリスはそんな子供は邪魔だの何だ、だのといまだにわめきちらしている。
「まあこの子は私が責任をもってきちんと保護しますから。
ところで。この社についての取材?はもうおわったんですよね?
次はどうします?もうこのまま山をおりますか?」
「あ。え~と。この山の伝承にある【竜神の沼】にいきたいのですが」
竜神の沼。
少し前までその沼には竜神が住んでいる、といわれており定期的に生贄がささげられていたらしい。
もっとも百年とすこしばかり前にその習慣はなくなった、といわれているが。
今でも一節によれば祭りのときに生贄が秘密裏にささげられているとかいないとか。
いろいろな意味で噂がたえない世界の不思議箇所に指定されている特殊な場。
「ああ。あの底なし沼にですか?」
舞いおちている落ち葉により水面がまったくみえないそれは、
ぱっとみため地面が続いてるよえにみえそのまま足をふみいれると同時、
腐敗した落ち葉などが水とからまり身動きがとれなくなり、そのままずぶずぶと沈んでゆく。
古はかなり奇麗な沼であったらしいが、いつのころか淀みがたまり、
今ではどんよりとした空気をまとった空間になっているという。
「かまいませんけど…しかし、日がくれるまでには山をおりないと危険ですよ?」
日がくれたこの山はあるいみいろんな意味で危険地帯と化す。
特に何の抵抗力もない存在ならば簡単に命を落とすのは確実。
何しろ大地より硫黄などがいたるところより吹き出し、いわば一酸化炭素とよばれる物質がそこいらに満ち溢れる。
ゆえにこの山に住まう動物もまたその時間帯になると安全地帯にと移動する。
兆候、というものがありその直前になると地面より蒸気が噴き出してきたりする。
「ん~。ここにのこってまっとく?それとも一緒にいく?」
ここの社はあるいみ安全地帯。
社の中でまっておくには安全は保障される、といってもよい。
もっともこんな辺鄙なところに悪意あるものがこなければ、という注釈はつくが。
かがみこみ、視線をあわせてといかけるトールの台詞にぎゅっとすがりつく子供。
どうやら一人にはなりたくないらしい。
「は~。しかたないか。危ないから離れたらだめだからね?」
こくり。
その言葉がわかったのかぎゅっとしがみついたままこくり、とうなづく子供。
「…まったく。子供なんて、足手まといでしか…」
何やらいまだにぶつぶつと文句をいっているリアトリス。
「沼はこの社のもう少し奥にあります。道はないですからはぐれないようにしてくださいね?」
それでなくてもこの社の奥はあるいみ危険地帯。
独自の進化をとげている植物などもいたりするのだからタチがわるい。
苦笑しつつも、いきたい、といわれた以上断ることもできはしない。
そもそも今回の依頼は、彼らの意見を最大限に尊重して案内するように、とのことなのだから。
目的たる【竜神の沼】は、そこが沼である、と説明されなければわからないありさま。
そもそも大地と沼の境目がしっかりしておらず、
沼にちかづくにつれ地面は落ち葉にてこれでもか、というほどにおおわれている。
あるくたびにくしゃり、というおちばのかすれるおとと、
そしてまた靴にすら落ち葉の切れ端がつくほどにそれほどまでに落ち葉がふりつもっている。
しばらく木々がつづく中、ぽっかりと開けた空間があり、
目的の沼はまさにその開けた空間である、といって過言でない。
そもそも空間が開けているのはそこが沼だからであり、
どうみてもぱっとみため、何もない空き地?にしかみえないのもまた事実。
ここに沼がある、としらなければそのまま迷うことなく足を踏み入れ、
そのまま沼に呑みこまれてしまうであろう。
そんな空間。
鳥井、とよばれるものもかつてはあったがすでに腐食し今はない。
「ここが【竜神の沼】と呼ばれている場所ですね。あ、少しでも足を踏み入れないでくださいね。
わかりにくいですけど、すぐに沼になってますから。
安全地帯は木が生えている場所まで、とおもってもらっていいです」
木々は沼の中からは生えてはいない。
ゆえに何かが生えている場所、すなわち地面、ということであり下手に進むとまちがいなく沼にとおちる。
「ここが伝説の沼ですか。何か立証できればいいんですけどね。ここまできましたし」
というかせっかくこの噂の山にきたのにあまりめぼしい出来ごとがなかった、というのもある。
むしろあの我がまま占い師を案内してきて何もなかったです、では上司になんといっていいものか。
ゆえにおもわずそんなことをつぶやいてしまうシャスタもカズラもおそらく間違っていない。
いないが……
そんな二人の言葉をうけてか、リアトリスが突如としてトールのほうにむきなおり、
その手をすっとトールの足元にしがみついている子供にとのばしてくる。
びくり、として子供がトールの足の後ろに隠れ、
おびえたような仕草をみせおもいっきり震えているのがみてとれる。
「ちょうどいいのがいたわね」
何か信じられないようなことをさらっといいのけるリアトリス。
「先生。何を……」
何をしようとしているのかは何となく想像はつくが信じたくない。
というか信じられない。
ゆえに思わずといかけているシャスタ。
「あら。身元もわからない子供を使おうとしてるだけじゃない」
そんなシャスタの問いにさも当然のように言い返すリアトリス。
その言い分が信じられない。
たしかに伝承にはこの沼には力のある何かがすんでいる、とはきいているが。
古にはこの沼に対していけにえの習慣すらあったらしい。
それを証明というか立証できないか、と冗談半分でいってみたらこの言いよう。
びくり。
足元にしがみついていた子供の力がその言葉に強まるのがみてとれる。
「またまた先生。冗談を」
「うるさいわね。そもそも今回の目的はそこの沼の主を呼びだして使役することなんだから。
つべこべいわないでちょうだい」
「先生。それは人道的にどうかと…」
子供に対し今にも沼につきおとさんばかりの口調でいいはなつ。
そんな彼女に対し口ぐちに説得しているシャスタとカズラ。
が。
「うるさいっていってるのよ!」
おもいっきり手を振り上げそのまま二人に対して平手打ち。
「っ!」
「なっ!」
その反動で一瞬バランスが崩れたのか二人がそのままよろめくが。
それと同時、二人の周囲に黒いもやのようなものが立ち込める。
それは瞬く間に二人を包み込むようにして繭のようになり、
二人の意思もろとも瞬時にからめとる。
「『まったく。たかが人風情が我の邪魔をしてからに』」
それと同時、リアトリスの口から彼女の声とかぶるように別の声が紡がれる。
そしてその視線をトールにむけ、
「『そこな貧弱なる人間よ。その子供を我によこせ。さすれば汝らの命のみはたすけよう』」
などと好き放題いってくるそれ。
リアトリスの背後に何か黒き影らしきものがまとわりつき、
それが彼女の口を借りて話している、というのは誰がみても何となく理解できる。
正確に表現するならば、彼女そのものを黒い影が覆っているのがみてとれる。
「で、あんたは何なわけ?」
そんな光景をみてもまったく動じることもなく、
そのままぽんぽんと子供の頭をなでて、大丈夫だよ、といわんばかりに、
子供をそっと自分の背後にかばいつつ、淡々とといかけるトール。
そんなトールの問いかけにたいし、
「『低俗な人間風情が、我にたいしそんな口のききかたをしてよいとおもっているのか?
我はこの地にすまう竜神なり。その子供は我のいけにえとして用意されたもの。
素直に我に引き渡すがよい』」
ふんぞりかえるように、それでいてさも当然のようにいいはなってくる。
普通ならばまき散らされる威圧感、とでもいうべきか。
それらにたいし恐怖したり畏怖の念を抱いたりするであろう。
が。
「……は~」
あまりにも身勝手というか身勝手なその言葉に思わずため息がでてしまう。
トールの反応はむしろどれでもなく、完全にあきれてものがいえない、という態度。
そんな態度であることはやれやれ、といった感じではきだされたため息からもみてとれる。
というより、トールからしてみればむしろどうしてこれまで気づかれなかったのだろう。
というほうがびっくりである。
まあ確かに低級な輩がいまだに不完全なる生物にちょっかいかける。
というのはその筋のものでなければ知らないこと、なのかもしれないが。
しかしそれにしてもあきれ果ててものがいえない、とはまさにこのこと。
そんな彼、トールの態度を自分に対して恐怖しているがゆえ、と捕らえたのか、
「『ふん。低能なる人族に我ら竜神一族の偉大さがわかるはずもない。
お前たちのようなものは我らの糧にすぎないのだからな』」
何やらふんぞりかえっていいはなつそれ。
どうでもいいが、完全に自らが選ばれたもの、もしくはそれだ、と勘違いしている。
としかいいようがない。
…実際に勘違いしまくっているのはまるわかりなのだが。
しかし、とおもう。
こいつ、本当にあほか?
そうおもってしまうトールは間違っていない。
絶対に。
なぜならば……
「……さて。ミアズマ。このアホはこういっているが、おまえの判断はいかに?」
すでに同行していた二人の意識はない。
ならばこちらがあえて隠さずとも問題はない。
というかこんな状態なのにとっととでてこい、というのが本音。
そうトールがその視線を
背後のこれでもか、とおもうくらいに落ち葉がおちている淀んだ【沼】らしき方向に視線を向けると同時、
ザッ。
風もないのに水面が揺れ、それと同時、いっきに水柱がその場に立ちあがる。
ザザザザザ。
水柱はやがて渦をまくようにとその場にとどまり、やがてその中に影らしきものがみてとれる。
ゆっくりと水の渦の勢いが衰えると同時、水柱の中よりあらわれしは一つの影。
姿形は人に近いが、その形状からしてみて普通の人ではない、というのがみてとれる。
その耳らしき場所にはひれ?らしきものがついており、
そしてその手にはびっしりと鱗のようなものがついており、
足はそのまま水柱に同化するかのごとくにみえてすらいない。
まとっているものも水でできているのかゆらゆらとゆらめいているものの、
ローブ?のような形状をなしている。
特徴的なのはその顔、であろう。
顔の部分らしきそこにはぽっかりとした黒き空洞のようなものがあり、
その奥底に輝く紅き光がひとつ。
『…申し訳ありません。あの、手だししてよいのか迷ってまして……』
何やらそんな【それ】から畏縮したような声のようなものが発せられる。
もしもここに第三者がいれば、どこからその声をだしている。
と突っ込むところであろう。
低く、それでいてしみわたるようなその声はその声色とは裏腹にどこか畏縮した感じをうけざるを得ない。
「手だしも何も。というかここはお前の管轄だろうに。監督不行き届きだぞ?」
あきらかにリアトリスの姿をかりている何かが驚いて固まっているのがみてとれるが、
そんな彼女をさくっと無視し、あらわれた【何か】に対しさらっといいはなっているトール。
「『な…何ものだ!?この我を竜神だとしって…!』」
そんなソレにたいしてリアトリスであったものが何やらいっているが。
「だ、そうだ。よりによって力のないものが我が眷属を名乗るとは。あきれるとしかいいようがないが」
トールからしてみれば至極もっともな意見。
というかむしろこんな程度の力しかないものがどうしてそんな大層な名乗りをあげたのやら。
『馬鹿としかいいようがないですね。それで……王。このものの処罰はどうなさいますか?』
「面倒だからまかせる」
本当に面倒きまわりない。
というかなんでこの程度のものに自分がうごく必要があるのやら。
というよりほとんど力のない眷属の一人であるミアズマ程度に固まっているような雑魚。
ほんと力を視れるものがいたならばあからさまに利用されることもなかったであろうが。
「……まあ、むりか」
人というものは見えない者に対し、変な期待をするところがある。
ましてやそれが仕組まれていたものだ、としらずに崇拝する、という傾向も高い。
「『きさまらはいったい……』
まかせる、といった刹那、周囲を圧迫するほどの威圧感が覆い尽くす。
正確にいうならば、リアトリスのみが威圧されている。
びりびりと空気が振動し、周囲には水がまるで意思をもったかのごとく渦をまき、
いたるところで小さな水の竜巻が発生していたりする。
さすがにそんな光景をまのあたりにし今さらながら驚愕に満ちた声をあげる【リアトリス】。
『愚かなるものよ。崇高なる眷属の名を名乗りしおろかものよ。
王の御前にてその姿をさらすことすらままならぬ。
我の管轄する場にて我が名をかたりしその報い、その魂魄をもってつぐなうがよい』
「『……まさ…か……』
そこまでいい、ようやく【何か】にきづいたらしくあきらかにおびえた声をもらす【リアトリス】。
ただの伝説、されど伝説。
この地を納めし伝説の竜神。
竜神ミアズマ。
ミアズマ
かつてこの惑星の文明においてその名をとある地域のものは知る存在はいなかった。
あるいみ真実に迫っていたのだが、その時の科学文明の発達により、
そんなものはありえない、と否定されたもののうちのひとつ。
その名から、着色や汚染、といった古代ギリシャ語というのが発達したのだが、
後世のものはそれを逆、ととらえていたのもまた事実。
「喰らっても別に問題はないぞ?」
『御意』
「『ひいっ!…そもそも、そちらの人間は…一体……』」
かの瘴気の主ともいわれている竜神ミアズマですら敬意を示している相手。
そんな相手が普通の人であるはずがない。
「冥土の土産に教えてやろうか?我が名はトール。トルディアースなり」
びしっ。
刹那。
周囲の空気という空気が凍りつく。
名には力がある。
ましてや力なきものがその名をきくこと、すなわちそれは死をこした消滅に至るもの。
「『な…っ!なぜ………さ……こ……に……』」
何か驚愕の声をあげているがそれはそれ。
そのまま黒い影らしきものはそのまま水にのまれ、瞬く間にととけきえてゆく。
まるで水に喰べられて吸収されてしまったかのごとく。
どさり。
あとにのこるはそのままその場に倒れ伏す、何の力をももたなくなったただの人のリアトリス。
影が消えるとどうじ、繭のようなものにつつまれていた二人もまた、
ぱりん、とした乾いた何かが割れるような音とともに解放される。
「なんか最近こんな馬鹿な輩がふえてきてるなぁ。
むしろこんな馬鹿な【念】が増えてきて自我もってるみたいだけど」
周囲を問わず、ただの悪意のみをまき散らすそれら。
時折こうして普通の肉体をもつ存在にちょっかいをかけ関係ないものを死に至らしめる。
まあ関係ない、といえばそれまでなのだが。
何ごともなかったかのようにのんびりと独り言をつぶやくトール。
そして。
「あ。ミアズマ。とりあえず、この子の親を狩ったあほの人族はどこのどいつかわかるか?」
『あ。はい。その子供は裏手の山の銀狼が人に追われているときにこちらに逃がしたものかと』
銀狼とは名のとおり、その見事なまでの銀の毛並みから人間などによく観賞用、として狩られてしまう。
毛皮目当てにしろ、剥製目当てにしろ。
個体数が少ないがゆえに、希少価値もたかく、目撃情報だけでもかなりの高値で取引がされる。
いつの時代も欲にかられた人間というか知的生命体はタチがわるい。
栗色の髪に蒼き瞳はその銀狼の幼生体の特徴でもあり、
またその物珍しさからよく人間などにおそわれるゆえに、子供のころは人の姿となっている。
この周囲を保護する立場にいるミアズマが眠っている間に襲撃者はあらわれた。
この数年、このあたりの【力】はとある事情から涸渇しており、
その【力】の回復をかねてミアズマが眠っている最中に起こった出来事。
本来ならばまだ実体化できるほどに力の回復はままならないはずなのだが、
この地に彼…トールが足を踏み入れたことでその力の補充はすでに潤っている。
「銀狼の出産には多大なる【力】が必要とはいえ…欲にかられた人とは何とおろかな……」
どちらにしろ、欲にかられて守護獣を売り飛ばすような輩に慈悲をかける必要もない。
「とりあえず、こいつらはこいつらで面倒だから先に乗せとくとするか」
そう呟くと同時。
その場に倒れている三人の姿は瞬く間に水の塊らしきものにつつまれ、
それは一瞬のうちにと小さくなり、そのままトールの手の中にとおさまってゆく。
小さな水滴の中には小さくなったそれぞれの姿がみてとれるが、それを意に介することなく
そのまま小さくしていた浮卵の中にとそれらをそのままほうりこむ。
「さて…と。それじゃ、まあ、こちらの用事をすますとしますか」
何が起こっているのか理解できないのか、子供はそのままきょとん、とした表情をうかべている。
そもそも、トールが使用していた服を着せている以上、
子供には【竜王トルディアース】の加護がついている、といって過言でない。
すなわち大概のことがあっても強固なる加護にとまもられているに他ならない。
「ミアズマ。この子をしばらくまかせたぞ」
『御意にございます』
その言葉をうけ、刹那。
その場よりトールの姿がまるで霧のごとくにかききえる。
あとには意味がわかっていない子供がきょとん、と残されるのみ……
「では、今回の調査内容の資料です」
「はい。ありがとうございます」
先日の騒動からはや数日。
もどってきた一行がトール以外気絶しているのには驚いたが。
トール曰く、何でも『竜神の沼』にて彼らが気絶したらしい。
まあ体が濡れていたのもあり、またトールが目をはなしたら危ないことをしかけていた。
と証言したこともあり、沼にはまりこみそうになったのだろう、という結論がでていたりする。
沼より小さな川…といってもちょっとした幅のある川が流れていることもあり、
トール曰く、沼の横の広場にて【浮卵】を実体化させ、
気絶している彼らを一人で後頭部座席にほうりこんだらしい。
そしてそのまま移動は川を下るかたちで川の上を浮遊しつつ山を下った、とのこと。
意識を取り戻した三人の記憶はあいまいで、余計にそれらが真実性をうたっている。
何しろかの沼に入り込み、記憶を失った、という輩は今に始まったことではない。
むしろ今まで幾度も確認されている出来事ゆえにそう結論づけられても不思議ではない。
「そういえば。今日もユーチャちゃんと一緒なんですね」
「まあ、一人にしたらなくんですよ。この子……」
山から連れ帰った身よりのない子供。
どこを照会してみてもそれらしき子供が街頭せず、
連れ帰った責任もあるので、というのでトールが保護者を名乗り出て今にいたっている。
連れもどったときはほとんどトールにべったりとくっつき一言も発しなかった子供ではあるが。
名前もいえない状態であったがゆえに名前がないのも登録上こまる、ということで、
ユーチャ、という名が子供には与えられていたりする。
そもそもトールがユーチャと話せていたのはその存在ゆえであり、
本来ならば子供の声はあの場にいた誰も実は聞いてすらいなかったりする。
言葉をかわせたのは大自然に近いものたちのみ。
すなわち、ミアズマ、そしてトールのみ。
同行していた三人は当然ながら子供が言葉を発しているところを聞いてすらいない。
いわば魂の声をトールが感じ取っていたにすぎない。
もっとも産まれて三日目の幼子にそんな言語能力が備わっているはずもない。
姿形のみは四歳かそこらの子供の姿をしているものの、実体は赤ん坊。
それもほとんど産まれたて。
子供の姿を産まれてすぐにとるのはすくなくとも邪な考えをもつ特に人などといった存在から
身を守る術として彼ら、銀狼が進化の過程でえた擬態能力の一つ。
栗色の髪に蒼い瞳はたしかに幼生体の特徴ではあるが、
この世界、栗色の髪に青い瞳の子供、というのは結構いる。
それゆえにあまり幼生体の容姿が知られていない、という実情があったりする。
当然のことながら、この場にいるギルド職員の誰もが目の前の子供、ユーチャと名付けられたその子供、
それが銀狼の子供だなどと夢にもおもっていなかったりする。
「しかし。本当、何がおこったんですかねぇ。大雨が降った直後に地滑り、でしょう?
かの地はたしか伝承では銀狼の加護をうけていた土地、ときいてましたけど……」
「愚か者がその銀狼の逆鱗に触れたんじゃないですか?」
かの地は聖獣たる銀狼の加護にあり肥沃なる土地である、とあるいみ有名であった。
にもかかわらず先日の大雨につづいてその土地は完全なる地滑りと大雨により、
今では影も形もなくなっていたりする。
「まさか。聖獣の逆鱗に触れるような馬鹿なことをするとはおもえませんけど」
「でも、人、というのは欲深ですからねぇ」
実際、その欲にかられて銀狼の情報をうったのはほかならぬかの地のものたち。
聖獣が抑えていたそれまでたまっていた大地の歪みをそのままかの地に戻しただけのこと。
銀狼の毛皮を欲した欲深な権力者は原因不明の火災によりその命を落としている。
それも一家もろとも。
「そういえば。首都より連絡がありまして。
前回、主催した例の企画は発表しないことにしたらしいですよ」
「そうですか」
ぱらぱらと災害状況の実態を確認しつつふと思いだしたようにと説明してくる。
「トールさんがとった例の転写絵の影響もあったんだとおもうんですよね……」
トールがかの地でとったトール曰く、写真…今では関係者はそう呼ぶ…には、
ありえないほどの異形のもの。
黒き塊の何かがいたるところにとうつりこんでいた。
しかもリアトリスに関してはその黒き塊がまるで無数の手のように、
すがりつくように彼女をとりこもうとしていた様がうつりこんでいたりする。
トールも報告書の作成がてらそれらを現像し、一応ギルドに提出したのだが…
そのときのあるいみ阿鼻叫喚はいかばかりか。
そもそもそこには完全に原型をとどめていない人らしきものもいくつかうつりこんでいたりする。
それはこれまでリアトリスがないがしろにし、命をおとしたものたちの負の念。
俗にいう死霊などといった輩もたたとうつりこんでいたりした。
それをみて同行していた他の二人はすぐさまにそれなりの聖社にでむきお祓いをうけたとか。
まあ、企画したり携わったりしたものがことごとく原因不明の事故に襲われたり、
または原因不明の病になったり、とことごとく不幸がたったの数日の間に立て続けにおこった。
というのもかくいう理由の一つ、なのだろうが。
当然のことながら彼らはリアトリスに保護をもとめた。
が、結果は散々。
それまでおもうがままになっていたことがまったくままならなくなり、
今ではその地位すらもあやうくなっているとかいないとか。
原因を知っているトールからしてみれば当然の結果、としかいいようがないが。
何しろ力の源となっていた存在がすでに消滅している以上、
リアトリスと名乗っていた人間自体には何の力もない。
「まあ、興味本位でそういった場所にちかづいたら危険、という典型的な例ですね」
「ですね。我々もあれをみて肝にめいじましたよ。
ともあれ、おつかれさまでした。今回の依頼料になります」
「ありがとうございます」
皮袋に入っているお金をうけとる。
一応貨幣の価格は世界中で統一されており、
金、銀、銅、といった貨幣で統一されている。
金の上に水晶、というものもあるが、それらは一枚で家が一軒建つ、とすらいわれている大金。
製造方法も特殊なる一族のみが知っている、といわれているが一般には詳しく知られていない。
「それより、トールさんはこれからどうなさるんですか?」
「そうですね。とりあえずしばらくはこの子のこともありますし。
首都にいこうかと。あそこならいろいろとそろってますしね」
「…かわいそうに。言葉もしゃべれなくなってるなんて。どれだけこわい思いをしたのか……」
どの情報網にもかからない子供。
それはすなわち、そういった用途で売り払われた子供、という可能性も否めない。
いくらとりしまってもそういう非道な方法をとる輩は後をたたない。
そしてまた、それらを家業にする輩もまた然り。
ゆえに、ユーチャは人浚いにより幼いころに浚われていた子供。
という意見でまかりとおっていたりする。
事実、幼いころに浚われて言葉が話せない子供、というのは結構存在する。
そういった子供を保護し育ててゆく組織もあるにはあるが、
しかし完全に普及していないのもまた事実。
何しろ余裕のある町などでしかそのような施設は運営することすらままならない。
「そうですか。さみしくなりますね。トールさんの情報が一番信用度がたかいんですよね」
「あはは。まあここもそろそろ一年たちますし。潮時ですしねぇ」
放浪のフリーター、トール。
彼は一か所に長くても数年とどまればいいほうだ、といわれている。
彼曰くいろんな世界を視て回るためだ、とのことらしいが。
その真実をしるものはまずいない。
一体誰が真実にたどりつく、というのであろうか。
よもや完全に見た目がかわらないゆえに疑われる前に立ち去っている、などということに。
最も、それゆえにミステリーハンターだなどといわれているのだが。
彼が一か所にとどまらないのは数多にある様々な箇所を訪れるためだから、という噂が、
真実味を帯びてまかりとおっているのもまた事実。
もっとも、トールからしてみればその噂はあるいみ都合がいいので否定も肯定もしていない。
「また何かあればおねがいしますね」
「ええ。こちらこそ。ではまた」
かるく立ち上がり挨拶をかわし、そのままその部屋をあとにする。
「とりあえず今度は首都だな」
「??しゅ?」
「うん。まあゆっくりと言葉はおぼえていけばいいさ」
せっかくの暇つぶし。
たかが数十年程度、一つの種族を育ててみるのもまた一興。
トールの霊気をうけ普通よりも確実に成長速度が速まっているこの子供。
この子供がどこにむかってゆくのか、今はまだ誰にもわからない……
ミステリハンタートール。そのトールには小さな子供がいるらしい。
ゆえに彼らはこう呼び称す。
すなわち、子連れのミステリハンター、と。
――おわり♪
☆おまけ☆
「……へぇ。今回の人類は面白い方向にむかってるなぁ」
「王!いえ、竜王様!そんなことより仕事してくださいっっっっっ!
昨日はいったいどこにお出かけになっていたんですかっ!よもや地上ではないでしょうね!」
神殿の奥深く。
その執務室にて何やら大きな声が響き渡る。
「まあそういうな。リヴァ。今の地上世界は前とは違う進化してるのはしってるだろ?
すこしばかり様子みにいってもいいじゃないか。うん」
「そういって、あなた様が干渉したら地上世界がどうなるか!
以前のときも散々いいましたが!自重してくださいませ!!!!!」
黒髪のどうみてもまだ成人もしていないであろう少年?とおもえし人物に声をあらげているは、
銀の髪に青き瞳をもった腰のあたりまでその髪をのばしている人物。
ゆったりとした白と青を基調としたローブのような服をまとい、
それでもそのこめかみに青筋らしきものがたっているのはおそらく気のせいではないであろう。
「前のときはたしか転移の様子をみて面白くも【天空よりの使者】とかいわれたっけ?
その次はたしか、【黄昏の使者】とかで異端とかいわれてたっけ?
あとは【インチキ占い士】もあったな。というか警告しただけなんだけどな~」
このままでは危ない、というか地軸の影響もあり、生態系に影響が確実にでる。
それゆえに警告しただけ、なのだが。
それより前の文明はあまりに行き過ぎた文明ゆえかあるいみ自爆し滅んでしまったが。
「大概、生物の根源たる遺伝子に手をだしたあたりから狂い始めるなぁ」
「王!のんびりと回想しないで少しは真剣になってくださいませ!
あなたさまが出向くこと自体、すなわち何かしらの転機になりえるのですよ!自覚するにしろしないにしろ!」
この地…否、惑星が出来たと同時に意思をもった唯一の【生命体】といっても過言でない。
当時は精神体のみであったが時とともに体を構築し…そして現在に至る。
「そうはいうが。この惑星におけるすべての命は私の子供でもあるのだから。
気になるのはしかたないだろうが。リヴァサイアンよ」
「それとこれとは話しが別ですっ!」
原初の海より誕生せし形ある場所。
そういった意識体は何も彼だけではない。
どの【星】おいてもそのようなものは認識されずとも存在しているのもまた事実。
そし彼、王と呼ばれし彼もまたそんなうちの一角でありまた一柱といっても過言でない。
原初の生命たる【竜】。
そしてそれらをすべしは、原初より産まれいでし、この星の意思の代行者といってもよいもの。
「しかし。今回の人間というか生体系は面白くなってるな。
うん。癒しの水晶だけでなくすこしは暇つぶしにおりてみるかな?」
先日、暇つぶしに立ち寄ったとある村にて預けたとある代物。
その土地の地脈の力をもってして癒しの効果があるものの、
その土地からなんらかの手段で持ち去られた場合、
近くの一番精神力の高い生命体よりその力を吸収しその威力を発揮する。
きちんと一応注意事項として説明しておいたし、何よりも彼らが自分達の私利私欲のために
扱わなければかの地においては平穏無事にすごせる代物。
「トルディアースさま!!!!!ですから自重してくださいませぇぇぇぇぇぇぇ!」
…この惑星を覆う海が誕生せしときにたわむれで彼、トールが創りだした命。
それが目の前にいる【リヴァサリアン】。
今日も今日とてリヴァの叫びがこだまする。
……彼の懸念ともいえる王…すなわち、【竜王】による地上降臨は、
この翌日に行われることとなる。
……そして、物語はここから始まる。
ただの【人】として【竜王】たる【星の意思の代行者】の行動がどのような結末を大地に与えるか…
…それは誰にもわからない……
――Go To Next?
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あとがきもどき:
薫:
ふとおもいついた短編もどき~(自覚あり
トールの一人称もあったけどあえて客観的視点で!
何しろトールの一人称ならば確実にあるいみ上から目線(笑
あ、ちなみに、トールの設定は。
地球の意思の欠片、というかあるいみ分身ですv
おまけにあった癒しの水晶の話しも一応考えてはいますけど。
何の影響をうけているのかあれはおもいっきりまるわかりv
判る人にはわかるネタだからなぁ…あちらは(苦笑
さて、下記に一応ネタバレというか名前の一部暴露というか参考をばv
名前の裏設定。
占い師:リアトリス:花言葉:傲慢。
子供:ユーチャ(ユーチャリス,アマゾンリリー):花言葉:純粋
会社員:シャスタ(シャスターテージー):花言葉:万事は忍耐です
首都ギルド員:カズラ(フウセンカズラ):花言葉:多忙
・・・え?連載?…がんばります・・・
あ、あと2話しうちこみおわったら一気に投稿予定!
楔は今1打ち込みおわってるのであと2打ち込みしたら終わる予定なんですよ…
そうこういいつつはや一年…あう……
2013年1月14日(月)某日
本編のうしろのほうにちらっとかいてはいますけど。
これ、一応続きというか短編連載みたいな感じで続きをかんがえているにはいたりv
意味のない駄文にお付き合いいただきありがとうございましたv
ではまた・・・