表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪魔はAIのフリをしている  作者: Sig
第1章 悪魔接触編
46/51

第5話 悪魔は技術評価AIのフリをしている(八)

 それも事業側の確認としては筋が通っている。

 使われない透明性は、ただの負荷になる。

 負荷が増えれば、利用は減る。

 利用されなければ、事業の根拠にもならない。


 僕は、支援条件欄へ言葉が並ぶのを見ていた。


 代表は「ユーザーの不安」と言う。

 CVC室側は「利用率と離脱率」を支援条件欄へ足す。

 ユーザーの負担。

 事業継続。

 監査。

 ログ利用。


 どれも一つだけなら悪くない。

 表の中では、本人が後から確かめる導線が、最後の行に置かれていた。


 僕は休憩中に書いた一行の下へ、短く足した。


> 理由を表示できても、提示順を後から再現できなければ監査できない。


 弱い仮説だった。

 でも、今度は自分のメモ欄に置いてから聞いた。


「候補提示順は、後から同じ条件で再現できますか」


 代表は、すぐには答えなかった。


「再現、というのは」


「同じ利用者、同じ時点の状態で、

 どの入力特徴量を使い、どのモデル版で、

 どの候補を除外して、何を上に出したのかです。

 表示順位と理由文を、一つの監査IDで追えますか」


 会議室の空気が、少し変わった。

 使いやすさの話から、作ったものを後でたどれるかの話へ移ったからだ。


 代表は資料のページを戻し、監査ログの欄を開いた。


「推論時のモデル版と入力カテゴリは残します。

 ただ、ユーザー向け理由文は別の説明生成を通します。

 すべての特徴量をそのまま表示するわけではありません」


「理由文と、実際に順位を決めたスコアがずれた場合は」


「内部ログを正とします」


「その差分を、外部評価者が確認できますか」


 代表は一度、口を閉じた。

 悪い答えを隠した沈黙ではなかった。

 その確認を、今の資料に用意していなかった沈黙だった。


「その差分確認は、現時点の共同検証案では未定です」


 僕はメモ欄に、仮説の横へ小さく丸をつけた。

 正解の丸ではない。

 次に確認する項目が見えた、というだけの丸だった。


 CVC室側も、手元の支援条件欄へ一行足した。


「導入条件に入れましょう。

 共同検証に進むなら、提示順の再現ログ、

 理由文と内部スコアの差分、

 未選択候補を除外した条件を確認できること」


 代表は、反論しなかった。

 むしろ、少しだけ顔つきが技術の方へ戻った。


「そこは、技術チームと詰めます」


 そこで初めて、僕はもう一度手を挙げた。


「詳細理由画面を標準では閉じる設定は、誰が決めますか」


 代表は答えようとして、事業開発側の担当者を見た。

 担当者は資料のページを一つ戻す。


「法人契約では、管理者設定です」


「個人契約では」


「現時点では、標準表示は簡易理由画面です。詳細理由画面は設定から開く想定です」


「設定にたどり着けない人ほど、提示順の影響を受けませんか」


 代表の眉が寄った。

 反論の声は出なかった。

 代表は資料の初期設定欄へ目を戻した。


「初期設定は、検討します」


 担当者は、さっきの支援条件欄に追記した。


「詳細理由画面への到達性も、導入条件に入れます。

 標準設定のまま、利用者が迷わず確認できること。

 そこが曖昧なままでは、利用率だけを見ても判断できません」


 僕はうなずいた。

 何かを止めた感触はなかった。

 支援条件の表に項目が二つ増えただけだ。


 不正な相手を止めたのではない。

 普通の支援が、候補の出し方まで扱う。


 木曜深夜の閉じた評価環境。

 金曜から土曜の業務支援。

 土曜の生活用AI。

 日曜の十円玉の接触面。


 全部が同じではない。

 でも、どれも人が選ぶ前に、最初に見る画面や確認する順番を変えうる。


 僕は、その一点だけをメモ欄に残した。


 質疑が終わると、会議室前の案内表示が終了に切り替わった。

 切り替わったことは、壁の表示で分かる。

 胸のざわつきまで消えたわけではない。


 カナメの作業欄に残るのは、外部評価として必要な範囲だけだった。


> 本日外部評価ログ:質問、回答要旨

> 事前共有デモ概要:参照のみ


 カナメは、許可された範囲を処理して終える。

 アゼルは、そこから僕にだけ次の問いを渡してくる。


 代表は帰り際、僕に礼を言った。


「厳しい質問でしたが、必要な観点でした」


 代表は一瞬だけ口元を結んだ。

 それでも反論はせず、資料の余白へ短く書き込んだ。

 その場で丸め込むより、持ち帰る項目にした。


「本人開示は、後回しにしない方がいいと思います」


 僕は言った。


 代表はかすかに笑った。


「はい。今日の質問は持ち帰ります」


 持ち帰る、という言葉だけが耳に残った。

 代表のメモに入った時点で、僕の質問は改善項目か支援条件になる。

 評価者の言葉も、次の画面を変える材料になりうる。


 CVC室の担当者は、会議室を出る前、僕と牧野へ向き直った。

 古賀マネージャーのメールで名前は見た。

 顔を合わせるのは今日が初めてだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ