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回光返照 〜近いうちに魂を乗っ取られるので、その前に世界に貢献します〜  作者: 実直な凡きつね


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第一話 『平凡な日に、星の叫びを』

第一話だけちょっと長めです、お好きなペースで読んでいただけたら幸いです。

 ___長く、苦しい夢を見ていたような気がする。



『ジェミニ区23番通りに【星霊(マレフィック)】が出現しました、この警報を聞いた一般市民は全員、速やかに避難してください。

 まもなく【星導師(せいどうし)】が到着します。

 繰り返します___』


 喧しいサイレンと聞き飽きた警報音声が鳴り、俺は目を覚ました。


 下校中に居眠りをこいてしまっていたビル一階のファストフード店の店内では、

 こんなにもうるさい警報が鳴り響いているというのに誰も逃げ惑う様子もなく、窓際から警報指定区域の様子を一目見ようと女子高生がパンダでも見るみたいに数名群がっていた。


 俺は食べ終わったバーガーセットのゴミを捨て、寝癖を直しながら外へ出る。

 一つ隣の通りで化け物が暴れてるっていうのに、通行人はスマホを見て、男女は睦まじく手を繋ぎ、スーツ姿のおじさんは電話片手に急ぎ足。皆日常に夢中だ。


 まぁここ数年は、マレフィックによる被害などたかが知れているし、無理もない。


 マレフィックというのは、この都市ステリオに存在する『星素(せいそ)』によって生まれる怪物。

 

 この都市の主要エネルギーであり、インフラのすべての根幹を担う『星素』というエネルギーから『自然発生』する生命体であり、ステリオという世界一の超発展都市における、最大の欠落である。


 排気ガスを侮るわけではないが、星素というエネルギーはそんなものよりメリットとデメリットのバランスが極端すぎる。


 エネルギーの代謝として怪物が生まれるという最悪な交換条件。

 そのせいでステリオの外から人は全く入ってこなくなった。


「ォ゛オオオオオオオオオオオオオオオ!」


 サイレンに負けず劣らずの咆哮が、ビル風に乗って響く。

 向こうの通りをのぞいてみると、二足歩行で真っ黒な岩肌を持つ頭部のない人型の生き物が、無人の軽自動車を踏み潰しながら己の誕生を歓喜していた。拳の代わりに刃のようなものがくっついた両腕を振り上げ、車を切り刻む。


 とっくに避難が完了した二十三番通りから、約二百メートルほどの距離しかない俺の現在地から見るマレフィックは、やけにポツンとしていて、今からヤツに訪れる結末を知らないようで不憫とすら感じてしまう。


「お、今日は早いな__【星導師】」


 通行人のつぶやきの後、一人の男がどこからともなく降ってきた。

 星導師だ。彼らにとってビルからビルをアスレチックのように跳んで渡って来ることなど造作もないのだろう。

 彼らは星素を己自身のエネルギーとして運用することができる、卓越した人類なのだ。

 

 軍服のような制服を(まと)い、深く被った帽子で顔が見えない。

 腰に据えた鞘から刀を抜き放ちながら、マレフィック相手に怯みもせず歩いて行く。

 マレフィックは星導師に気づくと、彼に向かい、真似するように歩いて行った。


 歩幅、速度、歩き方の意図的にトレースしているのだろうか。

 頭がないくせに、見て真似ているように。

 彼らがおよそ三十メートルほどの距離になった瞬間、マレフィックの方が先に走った。


 両腕の刃を振り回しがら、およそ人間には出せないトップスピードで星導師に飛びかかる。

 しかし星導師はさらに早く、マレフィックの背後に着地した。

 通り過ぎ様に、刀が振られたのはほんの一瞬。

 俺たち一般人ではおよそ目が追いつかない速度で、星導師はマレフィクを横一文字に一刀両断したのだ。


 地面にスライスされた状態で伸びるマレフィックは、やがて緑色の粒子となって消えて行った。


「____皆さん!マレフィックは対処しました!警報を解除させていただきます!」

 

 完璧な武芸を披露した星導師に、見物人たちの拍手が鳴り響く。

 俺は星導師の一芸を見れたことを小吉程度に喜びつつ、ワイヤレスイヤホンを取り出して耳に押し付け、そのまま背を向けた。


 そんなことより今、俺は悩んでいるのだ。

 

 どちらにすべきかわからず、ずっと選ぶことを先延ばしにしている。

 先延ばしにすることで、自分の「選んでしまった」ことで起こる罪悪感、後悔は発生しない。

 どちらを選んでも必ず後悔はすることを、この十五年の人生でようやく学習したから。


 だから選ばないのが、一番楽だった。


 けれど、もうこの選択肢に残された猶予はない。


「レイ……お前さ、たかがゲーム一本選ぶのに何週間かけてんだよ」


 部活終わりのヒロと合流し、ふらりと立ち寄ったゲーム屋で俺は棚の前にしゃがみ込んでいると、ヒロから軽蔑の眼差しを向けられる。

 俺が二つのゲームでどちらを買うか悩んでいると伝えて早三週間、毎週のようにこのゲーム屋で呻き声をあげているからだ。


 対戦カードは、

 超高難易度アクションゲームで、何度も何度も死んでは攻略法を見つける死にゲー。


 『スターフィードソウル』。

 

 対するは、

 

 モンスター対戦&育成ゲームで、可愛くて強い、自分だけの相棒を育てる典型的育成ゲー。

 

 『パシっとモンスター』。


「たかがゲーム一本?

 このゲーム一本で、俺の人生が決まるかもしれないんだよ」

「いや、どっちかクリアしたら、次の買えばいいだろ」

「んな金あるかい」

 

 どちらも土壌の違う完全別ジャンル、だからこそ迷う。

 全く別の楽しみ、全く別の体験、全く別の苦労。

 しかし、唯一の共通点は、どちらもめちゃくちゃ時間をかけることができるゲームだということ。

 縛りプレイによる周回プレイ。

 育成厳選による対戦特化プレイ。

 どちらも千時間は軽く飛んでいくポテンシャルを有したゲームなのだ。


 それがこの選択肢の、最大のネック。


「掛けた時間とかガチ度が長いほど、別の買っときゃよかった思った時のダメージはデカい」

「んまぁ、わかるけどもだな……割り切るのも大事だぞ?」

「……それができてたら発売日に買ってるっつうの」

「初回版限定の特典も逃して、もったいねぇ」

「う、うるせぇ〜……」


 人が気にしてることを的確に突いてくる友人を睨みあげていると__ドスン!と縦に地面が揺れた。

 棚が揺れ、物こそ落ちないものの、店内が一瞬ざわつく。


「なんだろ?」

「あ〜、今日だったか。ジェミニ区の日」

「何が?」


 ピンときた様子のヒロに首をかしげると、ヒロは店外に歩き出しながら言う。


「【ステラ様】の周回日だよ」

「あぁ〜、それか」


 ヒロについて行き店外に出ると、外に見えるはずの夕日は、完全な影で覆われていた。

 それはステリオの名物___っていうと大人たちに怒られるが、

 ステリオが超発展都市として世界に存在するための『星素』を日夜供給し続ける巨神獣。


 ステラ様。


 ステラ様は、超巨大かつ四足歩行の、プラキドサクスに激似の神獣で、全長が七百メートルもある歩く電波塔だ。


 ステリオの中央区であるオリオン区の周りを半年掛けてゆっくりと周回する習性があり、アレが動くたびにステリオには星素が供給され、街も活動を続けることができるということだ。


 生まれてからずっとこの街にいるというのに、ステラ様をやっぱり見かけると「うわ、すげぇ」となるのは何故だろうか。


「やっぱ迫力やばいな、ステラ様」


 ヒロも同感らしい。

 二百年前にステラが宇宙(うちゅう)から来る前はステリオはただのド田舎だったらしいし、人間にはやはりまだ慣れないものなのだろうか。


「そういえば知ってるかレイ、最近ステラ様不調なんだってよ」

「え、なんで」

「空気中の星素が不安定でさ、マレフィックの出現がここ数週間多くなってるって」


 ニュースの類を全くみない俺は初耳だった。

 星素が不安定だからといって、俺たち一般市民に何か困ったことがあるわけではないが。

 停電とか水が止まるってことはないし。

 最低限ステラ様が生きてる限りはこの街は安泰だ。


「マレフィックが出たって、星導師がパパッと殺すでしょ」

「そうだけどさぁ……気をつけとけって話」

「ま、確かに、殺されたくはねぇな」


 ステラ様が時間をじっくりとかけて通り過ぎ、俺たちはすでに夕日が落ちていることに気づいた。

 ヒロがスマホを見て焦り出す。


「やべ、俺そろそろ帰るわ」

「おう」

「ゲーム、いいのか?」

「あー……来週、決めるわ」

「お前マジで……一生決断できなそうだな。

 ゲームはいいけどよ、進路とか、大事な場面くらいはちゃんと決めろよ?」

「わーってる、じゃあなお節介」

「じゃあな、優柔不断。また明日」


 いつものようにヒラヒラと手を振って友人と別れ、帰路につく。

 帰っても誰もいないため、ステラ様のように、じっくりと時間を掛けて歩く。イヤホンをつけて、ノイズキャンセリングは完璧。心地の良い夜道を闊歩する。

 俺の住むジェミニ区は、夜でも人通りが絶えることはなく、建物の灯りも消えるのが遅い。

 だからゆっくりと帰っても安心な道が多いのだ。


 スマホ画面を眺め、先のゲームのレビューを見比べながら歩く。


 人混みに入ったのか、いろんな人と肩がぶつけられる。

 別にいい、よくあることだ。こっちも悪い。


 ドン、ドンドン、ドンドン。


 グシャ。


 どんどんと人がぶつかるペースが早くなるどころか、足を踏まれた。

 そこで流石の俺も振り返り顔をあげる。

 何をそんなみんな急いでるんだよ、人の足思いっきり踏んでおいて、走り去っていって___


 __なんでみんな揃って、俺と逆の方向に走って行くんだ?


「マラソンでもやってんの__?」


 どうして俺と同じ方向に進む人は誰もいないんだ?


 単なる偶然?


「ん?」

 

 それとも、たった今俺を覆うようにそびえ立つ、この巨大な影が__原因……なんですかね?


 ゆっくりと首を回すと、そこには真っ黒な岩があった。

 それは、よくよく見れば二足で地面を踏みしめていて、俺の二倍はある巨体__そのてっぺんに置かれているような鬼のような岩仮面が、俺を見下ろしている。

 見慣れているようで、見慣れない、怪物。

 その巨体には、四本指の巨大な手のひらがあり、それはすでに俺の胴体を掴んでいた。


 __巨大な星霊(マレフィック)が俺を殺そうとしている。


 その現状を理解した瞬間、全身の毛穴から汗を噴出し、じわじわと涙が出て、ようやく危険信号が脳を支配した。

 すでに浮き掛けている両足をジタバタさせて、みっともなく足掻くしかできることがなかった。


「い、ひ、ひやっ__やめ__」


 そのマレフィックは俺を握り潰すのかと思いきや、その場で膝を曲げ、地面をひっくり返すほどの勢いで蹴り跳躍した。

 ビルよりも高い景色、今手を離されたら潰れたトマトになる恐怖に怯え、俺はマレフィックのゴツゴツとした手が俺を離さないことを祈った。


 そして、マレフィックは俺空中で俺の体を振りかぶり___投げた。


「な、なっ___なんでぁえええええええええ!?」


 俺の体はどこかのビルの窓に直撃、勢いのまま突き破り、暗いビルの中を転がり回り壁に激突して停止。

 意識が白黒と点滅を繰り返し、内臓が揺れて猛烈な吐き気が起き、ガラスの刺さった手の甲の痛みが立つ気力すら奪う。

 我慢できずにおげええと吐き出してしまったものは、血だった。


「う、うぇ__し、死ぬ……いでぇええっ……おぇ___」


 なんで、なんであの場で殺さずに、投げられた。

 こんな人気のなさそうな暗いビルに、どうして___


 程なくして、マレフィックは壁を堂々と突き破ってビルに入ってきた。遠慮というものを知らないようだ。


「あ__」


 暗いビル、人通りの多い通りをわざわざ離れた___その理由に察しがついた。


 星導師が、助けに来ないように___?!


 マレフィックは、自然発生する怪物。

 それに明瞭な知能はなく、破壊的な衝動に従い、本能的に他の生命体に敵対することだけをする脳無しだっていうのが常識だ。

 でもこのマレフィックは、明らかに行動がおかしい。


 ほかの個体より、賢い__

 

 その時、マレフィックの頭部にある鬼のような顔の岩仮面。その下顎が、落ちるように開いた。

 もしかして__俺を邪魔されずに喰うつもりなのか……?!


「い、いや、いやだいやだいやだ。

 無理無理無理無理すぎる、こんな化け物に喰われて死ぬとか絶対に嫌だ___」


 マレフィックが、歩き始めた。


 俺は壁にへばりつくことしかできない。立てないのだ。腰が抜けてる。


「いやだ!やめろ!こっち来んな!!」


 俺の人生は、あと一分にも満たずに終わるのだろう。

 死を悟ったかと言われれば違う。

 頭の中ではこんな語り口調でも、体は生きたくて生きたくてしょうがない。

 マレフィックが伸ばす手を、足で振り払う。だがその足を掴まれて、今度は腕で抵抗を試みるが、届かない。

 涙でぼやける視界、いや意識が混濁しているのか。

 そりゃあそうだ。全身が痛い。内臓が破裂しそうだ。


 口が、俺の足に近づく、マレフィックに捕食の本能があるなんて知らなかった。

 もっと勉強しておけばよかったな。

 知ったところで何か変わるわけじゃないけど。

 死に際ってものは、やたらと後悔が浮かぶものだ。


 あぁ、俺はきっと生き返ったら育成ゲームより、何度も何度も死んで攻略法を見つけるゲームを選ぶだろう。

 コンテニューのある主人公が、今は心の底から羨ましいと思う。

 

 ようやく、決めることができた___


「待ちなさい」


 刹那。聞こえた声は、見えた姿は、俺の妄想だと思った。

 その桃色の髪の少女は穿たれたビルの壁から颯爽と現れた。

 そして瞬く間にマレフィックに飛びかかり、ブーツの足裏でキックをお見舞いした。


 蹴り飛ばされたマレフィックは壁にのめり込み、俺はそのまま地面に落ちた。


「あっぶな、食われかけてたのね。もうちょい急げばよかった」


 少女はそう言いながら俺の前を興味なさげに通り過ぎて、のめり込んだ壁から抜け出したマレフィックに対しさらに一撃、痛烈な拳の一撃を与えた。

 その衝撃は、突風を生み出すの威力で、俺の髪が数秒ほど逆立ち続ける程度の風を起こした。

 華奢な見た目から出てはいけない威力のパンチである。

 マレフィックは見るからに苦しそうで、口から紫色の液体を滴らせている。あれは、マレフィックの血液なのだろうか__


「しぶと___なっ!?」

 

 動きが止まったかに見えたマレフィックは突然動き出し、目の前の少女を振り払った。

 少女が咄嗟に避け、マレフィックの裏拳はそのまま壁に穴を開けた。

 怪物と怪物の戦いを見ているようだった。

 少女は学生服姿で、あの軍服のような制服こそ着ていないが、あの身体能力とパンチ、星導師で間違いない。

 

 __しかし助かったと安堵はできない。


 なんだか、少女はこのマレフィックが二撃で沈まなかったことに驚いている様子だったからだ。

 予想外に強かった、ということだろうか。


「ちっ、面倒__さっさと沈んで、鬼ヅラ」


 マレフィックが戦闘体勢を取り戻したと同時に、少女は両手を前に翳した。

 手には星素の粒たちが淡い光を帯びて収束しており、何かの指示を待つように手のひらの内側で所在なさげに動いている。


 「【結合星術・融合(ミキシング)】」


 彼女の一言のあと、少女の周りにある瓦礫が二つ浮いた。

 もはやなんの役割もないコンクリートであるそれらがぶつかり合い、削り合い、無理やり形状を整えられていく。


「あれが……『星術』?」


 完成したのは、コンクリートの剣が一振り。

 極限まで研がれたように鋭い瓦礫の剣が、星素の光を纏っていた。

 格好いいが、コンクリートの剣でマレフィックを倒せるのかと、不安が湧いたが、その心配は不要だった。


 コンクリ剣を手に取った少女は肉薄するマレフィックの頭上に跳躍__そのまま、俺が見えた限りでは三度の振りを入れた。


 マレフィックの両腕が落ち、頭の仮面にもヒビが入った。


 少なくとも、ただのコンクリートの剣では折れている。あれも星素による___星導師が扱うという『星術』の力?


「おしまい__」


 困惑したマレフィック。理解の余裕すら与えずに、コンクリートの刃はマレフィックの体を貫いた。

 マレフィックはそのまま膝をつき、頭部から地面に倒れ込む。


 終わった。


 倒した。

 

 俺は、生きてる。


 助けられた。


「は、ははっ__生きてる」

「あったりまえでしょ、助けたんだから」


 少女は無愛想な言葉で俺の喜びを一蹴しつつも、俺の前に来て手を差し出してくれた。


「立てる?」

「あ、う、うん」


 立てる自信はなかったが、出された手を取らないわけに行かずに立ち上がり、ガクガク震える膝をなんとか押し鎮めて起立状態を保つ努力をした。

 少女は、ぐぐっと背伸びをし、あいたビルの穴から外を眺める。


「ここ、すごい高い。ステラがよくみえる」


「い、いつもはビルが邪魔で見えないっすもんね」


 俺、星導師と会話していいのか?

 世界が違う人じゃないのか?

 なに一丁前に話しかけてるんだよ俺、生き延びたからって調子に乗りすぎだ。もっと下から行くとかさ。


「ステラ___なんか、いつもと違うような」


 少女が俺の言葉なんて聞こえていないかのように、ステラに釘付けになっている。

 ステラが最近不調だっていうのは聞いたけど、星導師もそういうのわかるんだな__


「ねぇ」


「は、はい?」


「伏せて」


「え__?」


 少女が、ポロッとこぼすような声量で言った言葉は、聞き間違いだと思った。

 危機は去った。

 この人が倒してくれた。

 だから、なんでそんなことを言うのかわからずに、俺はただ立っていた。


 しかしその直後、このビルから見えるステラが長い首を上に向けて、影だけでもわかる大きな口を大きく開けていることに気がついた。ただ歩くだけの巨大生物が、あんな挙動をすることに流石の俺でも違和感を覚える。


「あれ、何して__」


「伏せて__!」


 少女が振り返った。

 その瞬間、ステラの方向から、とてつもない轟音と、衝撃波、青緑色の粒子を含む突風が、全て同時にやってきた。

 

《ウウォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ_______________________________!!!!!》

 

 その嵐のような突風と衝撃は、約三十六秒間、絶え間なく続いた。



 【ステラの鳴動】。



 二百年間の歴史の中で、そんなことが起こった記録はない。


 乗用車は浮き、建て付けの悪い建造物を吹き飛ばしかねない準災害級の被害。

 それを約三十六秒間引き起こした。

 それと同時に発生した、街への被害なんてものよりもよっぽど最悪な影響。


 都市・ステリオ内の【星素の暴走】。


 俺は少女にずっと頭を守られていて、少女にどんな影響が及んでいるかがわからなかった。


 彼女は突風が止んだ直後、俺の上からどいて、すぐに嘔吐した。

 胃液だけを吐き出し、しばらく四つん這いになって苦しみに悶えていた。

 及んだ影響は、それだけではなかった。


 少女が倒し、体を貫いたはずのマレフィック。


 ヤツが両腕を再生し、少女のそばにいつの間にか立っていたのだ。


 明らかに様子がおかしい。

 体には赤い光る線が何本か伸びていて、頭部の鬼のような仮面の奥からもその赤い光を放っている。

 異様。異常。異変。

 何か、よくないことが起こっているのだけは確か__


「は___」

 

 マレフィックは足を上げ、少女を踏み潰さんとした。

 俺は咄嗟に起き上がり、少女を抱きかかえて転がるようにそれを避けた。多分それが、俺の最後の力で、もはや太腿はガクガクと震えて動かなかった。


「なんで____!? 生き返ってんだよ!」 


 少女は俺の言葉で現状を把握し、俺の腕からすぐに出て苦しそうな表情は拭えないまま、マレフィックに向かい殴りかかった。

 だが、マレフィックはその拳を軽く受け止め、そのまま少女を壁に突き飛ばす。


 轟音と同時に少女は激しく吐血し、地面にうなだれた。

 

「だ、だめだ、死んじゃ__」


 マレフィックは俺の前で止まった。

 最初の獲物である、俺を見下して、心なしか笑っているように見えた。

 悪魔の笑みだ。


 マレフィックの右腕が変形、鎌のような形になった。

 抵抗できないよう、バラバラにするつもりだ。

 そう、顔が語っている。


「あ、あぁ___」


 鎌が、振るわれる。

 俺の首を目掛けた刃が___






 

 ___……止まった?


「待ち、なさい___って最初に言ったはずでしょ? ごほッ……」


 口から大量の血を吐きながら、少女がマレフィックに向け手を伸ばし、何かをしていた。

 さっきの力か?

 でも、どうやって止めてる?!


 マレフィックはまるで立ったまま金縛りにあったように、全身を微妙に震わせて、その見えない拘束に抗っているようだった。


「なにして__どうするするつもりなんすか……」

 

「……はぁ……。


 私の星術は、二つの物体を合わせて一つにするもの__

 

 それは、供物を用意する儀式みたいなもので、用意した二つの物体を意のままに操作して、原子レベルの融合をすることができる。

 マレフィックや生物なら、一度でもその体内に私の星素が入ればその対象になるの……。

 

 これはその星術の応用よ__もう一つの融合対象を定めるまで、こいつは私の操作対象__

 あんたが逃げるまで、止めといてあげる……」


 力の理屈は、なんとなくわかった。

 マレフィックの体を操作して止めている。

 となれば、俺は逃げられるかもしれない。

 でも、この人は?

 さっきの攻撃、まるで歯が立ってなかった。

 最初に彼女が倒したマレフィックじゃない、何か別次元のものに進化してる。

 ステラが鳴いたせいか?


 今は何もわからない、わからないけれど。


「俺が逃げたら、あんたは死ぬだろ__」


「誰の心配してんのよ、パンピーが……ごほっ__ごほっ__!

 いい゛から、早く__」


 __そうか。


「俺とこいつを、融合したらどうなる___?」


 それは、単なる思いつきで。

 後先なんて、全く考えていなくて。


「は、あんた何言って__?!」


「どうなるかだけ教えてくれ___ください!」


「っ___死ぬ__か……もしかしたら__」


 この人を見捨てて逃げて、そのあと普通に生きて行くなんて御免だって。

 それしか考えられなくて。

 


 

「__マレフィックを、人として【制御】できるかも__でも確証は」


 

「__」


 

 

 だからこんな優柔不断な俺でも、即決することができたんだろう。


 

 

「やって」


「__後悔、しないのね」


「……頼む!」



 淡い光が俺を包む。

 マレフィックの恐ろしい顔が、殺意に滾る腕の鎌が、暴力的な本能が。

 人間と、混ざる。


 それは、のちに『ステラ鳴動』と呼ばれる日と同日に起こった、一つの事変。


 人間と怪物の融合体が、誕生した。

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