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クロノス・キャリアー~最強個体《クロノス》の器となった傭兵、銀河の闇から世界を救う~  作者: マルゲリータ鈴木


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8/9

episode:08

 受付で入館許可を得たあと、アシドは来客用の個室へ通された。


 外観からしてそれなりの施設だとは思っていたが――内装を見て確信する。

 応接室は無駄に豪奢ではない。だが隅々まで手入れが行き届き、警備動線も合理的だ。

 

(……カリナの所属する組織、思った以上に“ちゃんとしてる”な)


 コンコン――


「どうぞ」


 ノックに答えると、ゆっくりとドアが開いた。


「アシド! 来てくれてありがとう! さっそく入社の手続きをしよ――」


「こら、カリナ。彼はまだ何の説明も受けていない。いきなり手続きは気が早いだろう」


 カリナの背後から、黒髪の青年と黒髪ポニーテールの少女が並んで現れた。

 青年は穏やかな笑みをたたえ、少女は一歩も前に出ない。無駄のない姿勢。護衛のそれだ。


「……それもそうだね。ごめん」


 カリナはぺろっと舌を出し、悪びれなく肩をすくめた。


「はじめまして、アシドさん。私はこの子の父親であり、当社代表の――ジオニス・ハーバーです」

「そしてこちらが、カリナの護衛を務めるオリヴィア・ルーセント」


「……随分と若いんだな」


 つい本音が漏れる。父親と名乗った男は、年齢よりずっと若く見えた。


 ジオニスは柔らかな物腰で笑った。


「見た目だけですよ。こう見えて四十二です」


(四十二でこれか……人は見かけによらないな)


「さて。今回、娘を守っていただきありがとうございました」

 

 ジオニスは一度だけ頭を下げる。形だけではない、誠意の重さがあった。

 

「重ねて、お礼が遅くなったことも謝罪します」


「だからパパ! あたしもアシドを守ったんだから! お互い様なの!」


「勝手に持ち場を離れて、勝手に彼についていって、振り回した……では?」


「ぐっ……そ、そんなことないもん……!」


 カリナはバツが悪そうにぷいっと横を向く。

ジオニスは苦笑しながらも、話を本題へ戻した。


「それで――この度、入社していただけるということでよろしかったでしょうか?」


「ああ。カリナに誘われた。しばらく世話になろうと思ってる」


「それは素晴らしい」

 

 ジオニスは嬉しそうに頷く。

 

「当社は実力主義です。実力がある方なら、素性不明の傭兵であっても歓迎します」


「ジオ……社長。お待ちください」


 今まで黙っていたポニーテールの少女――オリヴィアが口を開いた。

 声は淡々としているのに、室内の空気が一段張り詰める。


「この者が本当に実力を有しているか。試す必要があるかと存じます」


「ちょっとオリヴィア! あたしがアシドは強いって言ってるのに、不満なの?」


「……カリナの言葉が不満なのではありません」

オリヴィアは一拍置き、言い直す。

「ただ、当社にふさわしい戦力かどうか。私自身の目で確かめたいのです」


「俺は構わない」


 アシドが即答すると、オリヴィアは迷いなく踵を返した。


「では社長。トレーニングルームをお借りします。――着いてきなさい」


(指示じゃなく、命令か。……まあいい)


 アシドが後に続こうとした、その瞬間。


「ね、ねえ……」


 カリナがアシドの服の裾をちょこんと掴んだ。

小声で、こっそり告げてくる。


「オリヴィア、Sランクライセンス持ってるの。うちで一番強いの。だから、気をつけてね?」


 ――Sランク。

 傭兵を生業とする者は、フリーか組織所属かに関わらず、いずれ傭兵組合への登録を義務づけられる。

 任務実績と危険度、そして本人の戦闘能力を総合して、組合基準でランクが付与される仕組みだ。


 その頂点がS。

 存在するだけで抑止力になると言われる、数えるほどしかいない化け物の席。


 アシドは、ふっと笑って見せた。

 そして同じくらい小さな声で返す。


「カリナは俺の“正体”を知ってるだろ? もし俺たちをランクで言うなら――その上だ」


 カリナの瞳が、ほんの一瞬だけ見開かれる。

 次の瞬間、オリヴィアが振り返った。


「何をしている。早く来い」


 ――試験、という名の確認作業。

 アシドは静かに一歩、部屋を出た。

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