表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
クロノス・キャリアー~最強個体《クロノス》の器となった傭兵、銀河の闇から世界を救う~  作者: マルゲリータ鈴木


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

4/9

episode:04

「アビスの発生源には、何があるかわからない。気をつけろ。

 背後に急にアビスが“湧く”可能性もある」


 アシドは前を見たまま、カリナに釘を刺す。


 そのカリナは、なぜかじっとこちらを無言で見つめていた。


「どうした」


「ねぇねぇ。本当のあんたって、どっちなの?」


「……は?」


「最初はさ、突き放すっていうか……淡々とした仕事人って感じだったじゃん? でも今は、違うなーって」


(娘よ。こやつは自分の正体を知られまいとして、あえて他人を遠ざける振る舞いをしておるのだ)


「つまり、クールなキャラ作ってたってこと?」


(古い知識で言うなら……“中二病”という類の病に近い)


「え、アシドって病気なの?」


「違う。……誰も近寄らせたくなかっただけだ」


「ふーん。でも、今はなんか――温かい感じがする」


 思わず足が止まりかける。


 振り返ると、カリナが目を細めて微笑んでいた。


 妙に照れくさくて、それ以上言葉が出ない。

 カリナといるとペースを乱される。なのに、いつの間にか“素”が滲んでいるのが不思議だった。


「あれ見て。誰かいる」


 カリナの指す先。

 木々が途切れ、ぽっかりと開けた空間があった。


 その中央に――人影がひとつ。


 アシドは反射で、カリナの前に出る。


「この辺りだけ、アビスの濃度が高い。その中心にいるヤツがおそらく原因だろう」


「え? どういうこと――」


 警戒しながら一歩、また一歩。


 すると、人影がゆっくり振り返った。


「人種にも、聡いものがいるようだな」


 エコーのかかった声。

 耳ではなく、頭の奥へ直接ノイズとして流し込まれる感覚。


「……なに、あいつ」


 それには――“顔”がなかった。

 黒い球体の中心に、赤いレンズのようなものがひとつ。

 そこだけが、こちらを“見て”いる。


「アビスだ」


「あれもアビスなの……?」


 カリナが戸惑い、声が少し震える。


「ああ。俺も見るのは二度目だ。……報告例も、ほとんどないはずだ」


「二度目……?」


 カリナが引っかかる。


 アシドは短く吐息を落とした。


「人型のアビスは、通常個体よりも桁違いに強い。

 情報を持ち帰れなきゃ、存在の確認すら残らない」


「……ッ」


 意味は十分すぎるほど伝わった。

 “見た者は死ぬ”。だから記録に残らない。


「お前たちは、いったい何者だ?」


 人型のアビスが問いかける。


「何者って……ただの人よ」


 カリナの返事に、アシドは思わず笑みが漏れた。


 自分の正体を知ってなお「ただの人」と言える胆力。

 大したものだ。


「ただの人から、なぜ我らと同じ“存在”を感じる?」


「ほう。わかるのか」


 アシドは目を細める。


「だが、だからといって教えてやる義理はない」


「ならば――身体を引き裂き、中身を見てみるとしよう」


 ぞっとする言葉。


 表情などないはずのレンズの奥が、醜悪に笑ったように錯覚した。


「やれるものなら、やってみろ」


 アシドが先に動く。


――《クイックバースト・エッジ》アクティブ――


 双剣が赤い閃光を引き、凄まじい連撃が叩き込まれる。


 だが。


 アビスは“軽く”受け流した。まるで稽古相手でも捌くように。


(クロノスワップ)


 アシドは距離を取りながら、今までより速く武装を切り替える。


 杖を握り直し、真っ直ぐに向けた。


(クロノキャスト)


――《エクスプロージョン》アクティブ――


 爆炎が柱となって突き上がる。

 視界が白く焼け、熱が皮膚を刺した。


 ……やがて炎が収まる。


 そこに立っていたのは――


 ほとんど傷ひとつ負っていないアビスだった。


「……嘘」


「やはり、この程度では通らないか」


 驚きよりも、納得が先に来る。


「終わりか? 今度はこちらの番だ」


 アビスが手を振るう。


 地面が軋み、アシドの足元から漆黒の“刺”が生えた。

 一瞬遅れて、次、次、次――逃げ道を潰すように連続して襲いかかる。


 かわす。

 かわす。

 かわす――


 だが、終わらない。


 ひとつ、足を抉られた。


(くっ――まずい)


 次は避けきれない。そう思った瞬間、


 攻撃が――ふっと止んだ。


 気づけば、アシドは後退してカリナの近くにいる。


「アシド! すぐ回復するから!」


 カリナが即座に術式を走らせる。


――《ヒール》アクティブ――


 熱が皮膚の内側を駆け、傷口がみるみる塞がっていく。


 (……速い。精度も高い)


 さっきの致命傷級は例外としても、これは並の使い手じゃない。


「ふむ……数は“五十”か」


 人型のアビスが淡々と告げた。


「次は、その倍でいこう。お前を壊すには足りるか」


 今の倍。

 同じ密度の攻撃が来れば、避けきれない。


(アシドよ。我の力をもっと使え)


「……だが」


 脳裏に、過去の光景がよぎる。

 以前、人型と戦った時。壊れた町並みと、倒れ伏す人々。あれは力を使った代償による“歪み”が生んだ地獄だった


(この娘がおる。ならば、代償は要らぬ。歪みも生じぬ)


 アシドはちらりとカリナを見る。


「……確かに。このままじゃ勝てない」


 息を吐き、覚悟を固める。


 カリナを巻き込まない距離まで離れ、アビスへ向き直った。


 アビスが両手を振るう。


 先ほどよりも多い刺。密度。殺意。


(クロノ・アクセル)


 世界が鈍る。

 刺の伸びる速度が落ちる――いや、違った。


 “アシドだけが”加速していた。


 刺の隙間を縫い、難なくかわし切る。


「速くなっただと!?」


(……よし。歪みは、ない)


 かわし切った瞬間、アシドは踏み込む。


――《グランドスレイブ》アクティブ――


(クロノドライブ)


 アーツの発動に合わせて、攻撃が加速する。


 防ごうとしたアビスの片腕が、抵抗なく宙を舞った。


「ば……バカな!」


 無機質な声が、初めて揺らいだ。


 畳みかけるなら。今だ。


 アシドは、究極の魔法系アーツの起動へ入る。


――《…………》アクティブ――


「これで終わりだ」


 勝利を確信して、アビスへと告げる。


「ぐ、ぐおおお――!」


 アビスが苦し紛れに残る腕を振るう。


 漆黒の刺が、再び――


(クロノゼロ――)


 ……遅い。

 本来なら、そうなるはずだった。


 だが。


 アシドの周囲の空間に、嫌な“歪み”が走った。


(――なに?)


 反射で、クロノスの力を行使することを止めてしまう。


 その一瞬。


 無防備なアシドへ、刺が迫る――!


「アシド!!」


 カリナの叫びが、裂けるように響いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ