episode:11
「これが――うちのスペースシップだよ。何隻か持ってるんだけど、これは私とオリヴィアの“専用機”みたいになってるの!」
会社を出たあと、カリナは「入社するなら、見ておいた方がいい」と言って、アシドを近くの私設ドックへ案内した。
企業が保有する船艇を運用・整備・発着させるための区画――《スカイドック》と呼ばれる施設だ。
格納庫の中央。
静かに浮揚している船体を、アシドは見上げた。
滑らかな流線型の外殻。継ぎ目のほとんど見えない装甲。
余計な突起や武装の露出は抑えられているのに、放たれる存在感だけは隠しようがない。
AUR-05X――《アウローラ》。
定員は、五人。極限まで絞られている。
だが内部には、通常なら大型艦にしか積まれない級の航行制御、重装甲に匹敵する防御フィールド、冗長化された生命維持系が詰め込まれている。
人を減らし、そのぶん性能と安全へ全振りした設計思想。
その潔さが、船体の“静かな圧”になっていた。
「……これは凄いな……アウローラか」
思わず、感嘆が漏れる。
隣でカリナが、うんうんと大きくうなずいた。
「アシド、詳しいんだね。そうだよ。この船の性能なら安心だってオリヴィアがすすめてくれてさ。パパも『それでいい』って、ほとんど迷わず決めちゃった」
何気ない口調。けれど、言っている中身は重い。
このクラスの船は、価格も運用コストも桁が違う。“安心だから”の一言で即決できる代物じゃない。
これの購入を止めるどころか即決したジオニスの姿も想像できた。
(――カリナが乗る。それだけで、他の条件は全部後回し、か)
ここまで徹底されていれば、少なくとも「簡単に死ぬ船」ではない。
「中も凄いんだよ。入ってみよう」
カリナが先にハッチへ向かう。
アシドは一歩遅れて、その背を追った。
船体に触れる前に、認証音が一つ。
ハッチが滑るように開き、二人を飲み込む。
閉じた瞬間――外界の喧騒が、すっと遮断された。
耳に残るのは、船体を循環する微かな駆動音だけ。静かすぎて、逆に落ち着かないほどだ。
船内は五人乗りとは思えない広さだった。
通路は余裕をもって確保され、壁面は淡い光を帯びた素材で統一されている。継ぎ目も配線も徹底的に隠され、視界に入るのは“必要なものだけ”。
「居住区は全部個室。長期航行も想定してるみたい」
「……高級艇の作りだな」
簡素で、しかし安っぽくない。
過剰な装飾を削いだことで、逆に“余裕”が際立っていた。
さらに、生命維持は二重――いや、三重構成。
医療区画も、五人乗りには明らかに過剰。
脱出ポッドすら、定員分に加えて予備まで積んでいる。
「万が一」に、さらに万全を重ねた設計。
過保護と言われても否定しづらい。
通路を進むと、隔壁が自動で割れ、コクピットが姿を現す。
円形に配置された五つの座席。
正面には手動操縦桿とフットペダルの装備が整っている。
だが、中央に鎮座するのは大型の立体投影装置。主役は明らかにそちらだった。
その瞬間、コクピットの照明がわずかに落ちる。
光の粒子が空間へ集まり、線を描き、輪郭を結ぶ。
現れたのは、銀色のロングヘアを揺らす少女のホログラムだった。
無表情に近い顔立ち。冷静な眼差し。
感情を抑えた“静かな存在感”が、そこに確かに立っている。
『AUR-05X 統合管理AI――起動完了。固有名』
淡々とした声。
そして次の瞬間、少女の視線がカリナへ――正確には、カリナの識別タグへ向いた。
『搭乗者:カリナ・ハーバー。権限レベル:オーナー。認証完了』
「うん、ただいま。アウラ」
カリナは慣れた調子で返し、くるりとアシドを示した。
「この人、アシド。今日からあたしの――えっと、護衛……ううんパートナー! 船に入れるようにして」
アウラの瞳が、今度はアシドへ向く。
観察するような無機質さ。だが、不思議と“冷たさ”とは違った。
『未登録搭乗者――アシドを確認。識別情報の提示を要請します』




