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クロノス・キャリアー~最強個体《クロノス》の器となった傭兵、銀河の闇から世界を救う~  作者: マルゲリータ鈴木


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episode:01

 見晴らしのいい草原の真ん中で、フリーの傭兵アシド・クルーガーは周囲を見渡した。


 大きな装置を中心に、同業の傭兵たちや研究員が、距離を取り合いながらまばらに立っている。


「……あんた、今から気を張りすぎじゃない?」


 目立たないよう集団からあえて離れていると、そんな彼に話しかける物好きな者がいた。

 

 アシドは声の方へ振り返り、仮面の下で目を細めた。


 視線の先には、十代後半ぐらい。アシドより三つ、四つは若い少女が立っており、蒼眼を向けていた。 


「こういうのには慣れている」


「そうじゃなくて、皆あんたに話しかけづらいっての。

一緒に仕事するんだから、コミュニケーション取っておいて。協力しやすくしとかないと」


 少女とは初対面のはずなのに、アシドは妙な懐かしさを感じていた。

 それに加え、認識阻害の仮面を着け正体を隠している自分に、警戒心もなくその馴れ馴れしさには思わず苦笑が漏れた。


「必要ない。お前には関係ないことだ」


「“お前”じゃない……って、自己紹介してなかったわね。

 あたしはカリナ・ハーバー。あんたは?」


 少女は金髪のポニーテールを風になびかせ、名乗った。

 さて、なんと名乗るか。思案した、その瞬間――

ビービー、と。耳障りなアラートが草原に響き渡った。


「緊急事態です。アビス個体の大群が、こちらへ向けて進行しています。至急、対処をお願いします」


 目の前の少女――カリナの顔に焦りが走る。

 “アビス”――この星域を蝕む厄災だ。


「アビスが形を持つなんて、それほどここの濃度が高いってとことね」


 カリナの言葉から事態の深刻さがひしひしと伝わる。


「カリナだったか、さっさと装置の近くに行け」


 アシドが指し示す方向には、装置を背に、傭兵たちが等間隔で“外周”を固めていた。

 研究員はその内側で、装置の陰に隠れている。


「なに勘違いしてんの? あたしは戦う側よ」

 

 カリナが自身の手首の装置を操作すると、小さな光が生じた。次の瞬間、その光が収束して――長杖になった。

 アシドは虚を突かれた。てっきり彼女は研究員としてこの場に来ていたと思ったが、どうやら自身と同じく護衛任務で来ていたらしい。


「なにしてんの、早くあんたも武器を出しなさいよ」

 

「ああ、わかった」


 アシドが取り出した武器は、エネルギーの刃を持つ片手剣が二振りだった。


「へー珍しいわね。でもちょうどいいわ。あんたが前衛であたしが後衛ね」

 

「好きにしろ」


 次の瞬間カリナが険しい表情で叫んだ。


「来たわよ!」


 草が、波のように揺れた。


 遠くの地平線。黒い染みが増殖するみたいに、点が膨らんでいく。

 次の瞬間、それは“群れ”になって視認できた。


 獣に似た四足。節足の群れ。翼の影。

 形はばらばらなのに、進行の角度だけが揃っている。

 それらは一直線にこちらに向かってきた。


「……速い。外周、来る!」


 誰かが叫び、傭兵たちが銃口を上げた。

 研究員が装置の陰へ身を寄せ、端末を抱えて縮こまる。


 カリナが杖を構えた。杖先の輪が淡く光り、空気がひやりと締まる。


「まずは、足を止めるわ!」


 カリナの杖から光の波紋が放出されたと同時に、辺りから一斉にアビスの群れへと光の玉、炎、雷といった物が一斉に浴びせられる。

 

「今よ!」


 カリナの声にアシドは言葉で返さない。代わりに誰よりも速く一歩、前へ出た。

 外周の線を越え、草原の風を正面から受ける。


 左手の剣を構える。

 剣に内蔵されたコードを起動すると、体内のマナが脈打った。


 剣から無機質な機械音がアーツの発動を告げる。

 ――ラウンドエッジ・アクティブ――

 それと同時にアシドは剣を振るう。


 剣の軌道上にエネルギーの刃が生まれ。アビスへと向かっていく。

 

 エネルギーの刃がアビスに触れた瞬間、黒い霧が裂け、先頭のアビス個体が砂みたいに崩れ落ちた。


「嘘……一撃で」


 カリナが驚きに声がかすれる。

 だが次の瞬間、その視線の先で、別の個体が跳びアシドに襲いかかる。


「上――!」


 カリナが警告するより早く、アシドは再びコードを起動する。

 ――スラッシュエッジ・アクティブ――

 剣を上げると、エネルギーの刃が青白く伸び、跳躍した影を真っ二つに断つ。


「アーツの起動が速すぎる……」


 カリナが驚くのも無理はない。

 アシドたちが使う武器にはコードが読み込まれており。それを起動することでマナを用いた特殊な攻撃を行える。

 だが、その出力や発動速度には使用者のマナの素養によるところが大きい。


「次が来るぞ」


 アシドが短く告げる。

 その視線の先に再びアビスの群れが迫る。


「さっきよりも多い……てかなんであたしたちのとこだけこんなにも!?」


 カリナの言う通り、アシドたちが受け持った所だけ異様にアビスが押し寄せているように見える。

 その数は二十近くはいそうだった。


「泣き言を言っていても仕方がない。他もそれどころではないようだ」


 カリナは回りを見渡すと、覚悟を決めた顔になる。


「そうみたいね……」


「面倒だ、下がっていろ」


 両手の剣を亜空間へとしまう。

 そして、今度はその両手にガトリング砲を手にする。


「はぁ? ちょ、なにそれ――」


 ――フルバースト・アクティブ――

 ウィィィン……ギュイィィン……!

 次の瞬間、ビビビビビビッ! と高周波が空気を裂いた。

 彼女は思わず目を閉じ、耳を両手で塞ぎたくなる甲高い轟音が響き渡る。


 やがて、音が止みカリナはゆっくりと目を開ける。


「終わったぞ」


 アシドの抑揚のない声に、カリナははっとして正面を見た。

 

 草は焼け、黒い霧だけが薄く漂っている――その霧が、風に逆らうように森の方へ引き寄せられていた。


 唖然とするカリナを置いて、アシドは森へと足を向ける。


「どこ行くつもり!?」


「発生源を潰す。ここで待てば、次が来る」

 



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