第6話 人質ゲーム
廃遊園地。夜。
錆びた観覧車が、月明かりに黒く浮かび上がっている。
風が吹くたび、メリーゴーランドの馬たちが、かすかに軋む音を立てた。
結城シンは、一人で正門をくぐった。
「遅かったね」
声は上から降ってきた。
観覧車の最上部ゴンドラ。
アヤが立っている。
その足元に、タクミが縄で縛られ、ぐったりと横たわっていた。
シンは歯を食いしばった。
「……無事か?」
アヤが微笑んだ。
「まだ生きてるよ。
でも、いつまでかは、あなた次第」
その瞬間、地面から円環が広がった。
しかし、いつもと違う。
【領域《審判の円環》連環展開】
【参加者:結城シン/アヤ/他8名】
【範囲:半径30メートル(連鎖中)】
遊園地の地面が白く塗り替えられ、
周囲にいた審判者のメンバー8人が、一斉に動きを止めた。
アヤが説明するように言った。
「今日は特別ルール。
連環って言うの。
半径が重なると、複数の円環が繋がって、同じ問題を共有する」
地面に、巨大なパズルが浮かび上がる。
三つの知恵の輪が、複雑に絡まり合った構造。
それぞれに、数字のピンが刺さっている。
【課題:90秒以内に“三連知恵の輪”を完全に外せ】
【注意:ピンを抜く順番を間違えると、即座に爆発】
審判者の8人が、訓練された動きで輪に群がる。
アヤも、観覧車の上から手を翳した。
「私たち9人で解けば、あなた一人じゃ絶対に勝てない」
シンは静かに輪を見据えた。
――確かに、速い。
8人が役割分担して、絡まりを解き始める。
アヤは上から全体を指揮している。
【残り65秒】
タクミが、かすれた声で叫んだ。
「先輩……!」
シンはタクミを見上げた。
タクミの目が、必死に何かを伝えようとしている。
――ヒントだ。
タクミは、縛られた手で、地面を指差した。
いや、違う。
自分の足元に落ちている、小さな紙片を。
シンは瞬時に理解した。
タクミは、拉致される前に、何かを準備していた。
シンは輪に近づきながら、わざと大声で言った。
「ピンは、1から順番か?」
審判者の一人が嘲笑う。
「馬鹿が。順番なんてない。力ずくで外すんだよ」
シンは内心で笑った。
――逆だ。
タクミが残した紙片には、こう書かれていたはずだ。
『ピンは逆順。0から抜け』
【残り42秒】
審判者たちが、絡まりをほぼ解き終えた。
あと少しで、ピンに手が届く。
シンは静かに手を伸ばした。
そして、最も奥のピン――数字「0」のピンを、引いた。
ガキン。
輪全体が、震えた。
審判者たちが驚愕する。
「なっ……!?」
次の瞬間、輪がバラバラに崩れ落ちた。
【正解確認】
【結城シンが最速解答】
【連環により、全参加者解放】
熱が、爆発的に広がる。
封印が、これまでで最も大きく剥がれた。
風が渦を巻き、遊園地の地面がひび割れる。
シンは、一歩踏み出した。
審判者の8人が、同時に吹き飛ばされた。
観覧車のゴンドラが、激しく揺れる。
アヤが、初めて本気の焦りを浮かべた。
「……どうして……?」
シンは静かに答えた。
「タクミが、教えてくれた」
タクミが、弱々しく笑った。
「約束……したもん……」
アヤは唇を噛んだ。
それから、観覧車のゴンドラを蹴った。
ゴンドラが落下し始める。
「!?」
シンが駆け寄る。
しかし、アヤはタクミを抱えたまま、落下の勢いで地面に着地。
そして、すぐに闇の中へ消えようとした。
シンは追う。
だが、アヤが振り返って叫んだ。
「次は、もう逃がさない!
あなたを、絶対に殺すから!!」
その声に、震えが混じっていた。
怒りか。
それとも、悲しみか。
二人の姿が、完全に消えた。
シンは立ち止まり、拳を握りしめた。
廃遊園地の観覧車が、ゆっくりと回り始める。
誰も乗っていないのに。
シンは空を見上げた。
「……次は、俺が終わらせる」
風が、冷たく吹き抜けた。
封印は、まだ半分残っている。
でも、もう、引き返す気はない。
──第6話 終──
(第7話へ続く)




