第5話 協力者と裏切り者
放課後、屋上。
夕陽がオレンジに街を染めている。
シンとタクミは、フェンス越しに並んで座っていた。
「……で、結論から言うと」
タクミがスマホを掲げた。画面には、暗号めいた掲示板のスクリーンショット。
『結城シンは怪物だ』
『審判の円環は封印の枷』
『奴を完全に殺すまで、俺たちは止まらない』
タクミが真剣な顔で言った。
「“審判者”って組織が、先輩を本気で狙ってる。
昨日倒した三人組も、その末端らしい」
シンは黙って空を見ていた。
「……俺のせいで、お前まで巻き込むことになる」
「だから言ったじゃん。俺はもう巻き込まれてる」
タクミが笑った。
「それにさ、昨日気づいたんだ。
先輩一人じゃ、あの円環は絶対に勝てない」
シンが顔を向ける。
「どういうことだ?
「だって、先輩はいつも“自分が解かなきゃ”って思ってるでしょ?
でもルール上、誰が先に解いても領域は終了する。
つまり――」
タクミがにやりと笑った。
「俺が先に解けば、先輩にペナルティは来ない」
その瞬間、屋上の扉が爆音とともに吹き飛んだ。
黒い装備の男が五人。
全員が銃口をシンに向けている。
「結城シン。抵抗は無意味だ」
リーダー格の男が冷たく告げた。
「組織の決定だ。お前はここで死ぬ」
シンが立ち上がるより早く、円環が広がった。
【領域《審判の円環》強制展開】
【参加者:結城シン/他6名】
【範囲:半径10メートル】
【課題:60秒以内に“9×9のスドク”を完成させろ】
屋上の床に、巨大なスドク盤が浮かび上がる。
しかし、すでに半分以上埋まっている。しかも、明らかに間違った数字がいくつも。
残りマスは17。
普通なら3分はかかる難易度だ。
敵のリーダーが嘲笑う。
「俺たちは毎日これを解いている。
お前らに勝ち目はない」
五人が同時に盤に手を翳し、数字を埋め始める。
速い。明らかに訓練された手順だ。
タクミが小声で言った。
「先輩、俺に任せて」
「だが……」
「いいから!」
タクミが叫んだ。
「3の列の6行目、4が入る!」
敵の一人が顔を歪めた。
「くそ、邪魔するな!」
しかしタクミは止まらない。
「次、7の列の2行目、9!
8のブロックの左上、1!」
タクミの声が響くたびに、盤のマスが光って埋まっていく。
敵たちは焦り始めた。
「黙れガキ! 間違えたらどうする!」
「間違えないよ」
タクミが静かに微笑んだ。
「だって俺、昨日からこの盤面、丸暗記してたもん」
【残り18秒】
敵のリーダーが叫ぶ。
「阻止しろ!」
二人がタクミに飛びかかる。
しかし、領域内では物理攻撃は無効化されるルール。拳は空を切った。
タクミが最後の数字を叫ぶ。
「中央の5!」
ガキン。
盤が完全に光り輝いた。
【正解確認】
【解答者:タクミ】
【結城シンへのペナルティ:なし】
熱が爆発的に広がる。
封印が、また一枚、大きく剥がれた。
シンの瞳が金色に光り、風が渦を巻く。
敵のリーダーが絶望的な声を上げた。
「ま、待て……!」
シンは一歩踏み出した。
次の瞬間、五人全員が同時に吹き飛ばされ、屋上のフェンスに叩きつけられた。
ドン、ドン、ドン、ドン、ドン。
五つの鈍い音が重なる。
誰も動かない。
タクミが息を吐いた。
「……やった」
シンは静かに呟いた。
「……ありがとう」
タクミが照れくさそうに笑った。
「礼なら後で! 今は――」
そのときだった。
屋上の端から、拍手が響いた。
パチ、パチ、パチ。
アヤが立っていた。
白いワンピースが夕陽に透ける。
「すごいすごい。初めて見たよ、ペナルティゼロの開放」
シンが鋭く睨む。
「……お前、最初から見てたのか」
「うん。だって、面白そうだったから」
アヤが近づいてくる。
タクミが身構える。
「来るな!」
しかしアヤは、タクミの前で立ち止まった。
そして、突然、タクミの首に手を回した。
「え……?」
アヤの指先に、細い針が光る。
「ごめんね、タクミくん」
針がタクミの首に刺さる。
タクミの身体がぐらりと揺れて、崩れ落ちた。
シンが叫ぶ。
「タクミ!!」
アヤがタクミを抱きかかえるようにして、後ずさる。
「次は、この子を人質にするね」
「やめろ!」
「だって、そうしないとあなた本気出さないでしょ?」
アヤが微笑んだ。
「3日後に、廃遊園地に来て。
一人でね」
そして、少女はタクミを抱えたまま、屋上から飛び降りた。
シンは駆け寄る。
が、すでに二人の姿はない。
残ったのは、倒れた敵五人と、
シンが見下ろす夕陽だけ。
シンは拳を握りしめた。
「……絶対に、取り戻す」
風が、強く吹いた。
封印は、まだ厚い。
でも、もう、逃げない。
──第5話 終──
(第6話へ続く)




