第1話:『封印の外側に広がるもの』
夜の街は、雨粒のカーテンでぼやけて見えた。
高校帰りの主人公――結城シンは、濡れたアスファルトの匂いを吸い込みながら、心の奥でずっと続いている鈍い痛みに顔をしかめる。
> 「……今日で、ちょうど一年か」
一年前。
シンは“すべての力”を失った。
失った――いや、正確には封印された。
どれほど深い絶望の底に落ちても、どんな攻撃を受けても、身体の奥に眠る“あの力”は起きてこない。
……自分が「世界最強」だったことを知る人間も、もうほとんどいない。
雨音だけが、記憶の残滓を優しく叩き消してくれる。
■路地裏の悲鳴
その時、耳に刺さるような叫びが聞こえた。
「や、やめろ!!」
シンは反射的に駆け出した。
細い路地の奥、三人の不良に囲まれている少年がいた。
「あ? なに、ヒーロー気取りかよ」
不良の一人がナイフを抜く。
シンの心臓が嫌な跳ね方をした。
――いけない。
自分はもう強くない。
能力は封じられ、筋力も反射神経も普通人並み。
勝てるわけがない。
それでも、足は止まらなかった。
> 「やめろ。子供相手に刃物とか、見てられない」
不良たちはニヤリと笑い、シンに一歩ずつ近づく。
シンの鼓動が早まり、手足は震え始める。
逃げるべきだと脳が叫んでいるのに――身体は動かなかった。
そして。
不良のナイフが、シンの腹に向かって振り下ろされた瞬間。
■「領域」が勝手に目を覚ます
パァンッ!!
雨の音すら弾き飛ばす衝撃が、空気を裂いた。
世界が――変わった。
路地裏が、真っ白な床と黒い空を持つ
“異質な空間に書き換わっていた”。
不良たちは驚愕し、少年は声を失い、
シンはただ、その中心に立ちつくした。
> 「ま、た……勝手に……!」
自分の意思じゃない。
封印されたはずの力ではない。
これは“別の何か”だ。
シンの頭上に、淡い光のリングが浮かぶ。
その瞬間、不良たちの身体が強制的に固定された。
> 【領域《審判の円環》展開】
【参加者:結城シン/対象者:3名】
【課題:10秒以内に“謎”を解け。失敗者にはペナルティ】
電子音のような声が空間に響く。
不良たちは動揺し、叫び、足掻く。
> 「な、なんだよこれ!? 動けねぇ!」
「ふざけんな! 誰だお前!!」
シンもまた、理解できていなかった。
――なぜ“能力封印状態”の自分が、領域の中心に立っているのか。
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■10秒の審判
足元の床に、淡い光で文字が浮かぶ。
> 【Q:三つの数字のうち、“最も軽いもの”を選べ】
【1:百】
【2:千】
【3:十】
あまりにも簡単すぎる――と思った瞬間、空間が低く唸った。
> 「うぉっ!? なんだこれ!?」
「時間がねぇぞ!!」
「十! 十だ!!」
不良の一人が叫んだ瞬間、
彼の体から光の鎖がほどける。
正解した。
次の瞬間、シンの胸に冷たい感覚が走った。
> 【主人公より先に解答が出たため、ペナルティを付与します】
「っ……!」
シンの視界が一瞬ぐらつく。
足の力が抜け、その場に膝をついた。
> 「なんで……俺が、ペナルティ……?」
不良たちは解放され、パニックのまま空間を走り回る。
シンは、ただ苦しげに息をついた。
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■謎が解かれ、空間が終わる
10秒が経過した瞬間、
“審判の円環”は霧のようにほどけて消えた。
世界は元の路地裏へ戻り、
不良たちは、さっきまでの出来事を理解できず震えながら逃げていった。
残されたのは、膝をつくシンと、
助けられた少年だけだった。
少年は震える声で言った。
> 「お兄ちゃん……い、今の……なに……?」
シンは答えられない。
自分でもわからないからだ。
ただ一つだけ確かだった。
封印された“力”とは別に、何かが自分にくっついている。
自分を守るために、勝手に、世界を書き換えてしまう何かが。
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少年が泣きながら続ける。
> 「助けてくれて……ありがとう……!」
シンは苦笑した。
助けたのは、きっと自分じゃない。
反射的に動いただけで、本当はただの無力な人間だ。
しかし、あの領域は――
自分の命を必ず守る。
まるで、“封印をかけた誰か”が、まだ自分を見ているように。
シンは雨の空を見上げ、静かに息をついた。
> 「……やっぱり、終わってないんだな。
あの日から全部、まだ続いてるんだ」
――これは、
封印された最強が、二度目の運命に触れる物語。




