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掌編

雪の空

作者: 綴 詠士
掲載日:2025/12/13

 上を見上げると、雪の空が広がっていた。

 真っ黒な空から、真っ白な雪が降り注いでいる。

 

「ああ、雪だ」

 

 私はそう呟いた。

 とても恐ろしかった。

 英雄たちはどうなったのだろう。


 ***


「みんな、もう行っちゃうのね…」


 街の広場には三人の人影。

 彼らは武器と荷物を持ち、街の人たちに祝福されていた。


「お前たちならやれるよ! 世界を救ってくれ!」

「どんな怪我するかわからないんだから、うちの薬持って行きなさい!」

「予言の英雄たちが出発するぞ!」

 

 車いすに座り、私は遠くから彼らを見る。


 私は人々の集まりの外で一人、それを眺めていた。

 手元には小さな護符を入れた毛糸のお守り。必死に作ったけど、今見ると怪物相手に紙の盾をもつみたいな頼りなさだ。


 私だけ一人、皆の騒ぎをみていると、三人が傍にやってきた。


 「レイニア。どうしてこないんだよ。俺たち待ってたぞ」


 黒髪を逆立てた青年が言う。腰に剣を佩いた真面目そうな男だった。彼はグエン。隣には魔女のような服を着たウィスカ。あと大男のドルトン。

 

「……別に」


「そんなこと言ってレイニア、何か持ってるじゃん。見せてよ、それ」


「あ、ちょっとウィスカ! やめなさいよ!」


 ウィスカがニヤニヤしながら私のお守りを奪い取る。

 皆が私の毛糸のお守りに注目する。


「何これ?」


 グエンが聞いてきて、他の二人も無言で見てくる。


「貴方たちが旅に出るっていうじゃない? たまたま家にお守りがあったから持ってきたの。要らないなら返しなさいよ!」


「あっはっは」


 ドルトンが大笑いする。グエンとウィスカもニヤニヤ笑う。何よ。


「分かったよ。レイニア。ありがたく貰っておくよ」


 グエンがお守りをしまいながらそう言った。


「せっかくレイニアがお守りをくれたんだ。絶対に帰ってこないとな」


 ドルトンが私に親指を立てた。最後にウィスカが私の手元に視線を向ける。


「あらレイニア。手、怪我してるじゃん。まさか縫物でもした?」


「うるさいわね! ほら! 早く行って! 世界救うまで帰ってこなくていいわ!」


 三人が大笑いする。私は顔を赤くして叫んでいた。


 ***

 

 英雄たちは行ってしまった。

 世界を救うため行ってしまった。

 

 私は英雄達のことをよく知っていた。

 私は彼らといつも一緒にいて、彼らの中では妹みたいに扱われていた。

 

 だけど英雄は世界を救わないといけなかった。

 

 私は歩けなかった。ずっと車いすに座らないといけなかった。

 だから私は街に残った。

 

 英雄たちは出ていく。

 別れ際に皆に抱き着いて、泣きながら見送った。


 そして今。空から雪が降っている。

 

 ああ、これはただの雪じゃない。

 世界の終わりだ。


 触れたものの力を奪う雪。私もすぐに体が動かなくなるだろう。


 これを防ぐために、彼らは戦ったのに。


 私は英雄たちの噂を何度も聞いた。何度も英雄たちからの手紙を受け取っていた。

 

 英雄たちはこの世界を滅ぼそうとする者のところに行ったはずだ。


 だけど世界は滅びようとしている。


「みんな…」


 英雄たち三人の顔が直ぐに出てくる。皆の笑顔、私は彼らと一緒に笑ってたかった。

 私に戦う力があれば、皆を助けられたのに。


 私は椅子に座り、黒い空を見上げていた。

 全てを飲み込むつもりなのに、せめて最後は美しく終わらせようというかのようだ。

 

 雪の空だ。

 ずっと振り続ける雪。すべては雪に塗れ、埋もれ、私の思い出も見えなくなってしまうのだ。


 私はこの光景をずっと見つづける。体に力が入らなくなる。もう車いすに寄りかかって、上を見上げることしかできない。

 だけど目は必死に見開いて、この雪の空を目に焼き付けた。

 






 

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