2 昨日はきっといい日だった②
「無能ごときが何寝てんだよボケ!」
開けた視界には、男が3人。茶髪が1人、金髪1人、赤髪1人。そして少し洋風な教室の風景。
カラフルな頭達の間から自らを覗かせた時計は、今が13時過ぎであることを示していた。
――そうだった
今、僕は『α学園高校』の生徒で、『帝国再興委員会』の一員である。とはいえ、α学園高校は高校という名を持ちつつまともな教育は行っていないし、まして校舎もある高層ビルの一部階層である。
そのうえ 、『帝国再興委員会』と聞くと聞こえは良いが、言わば国家を転覆させんとするテロ組織である。
約200年前、ここ連邦共和国の地には、『帝国』と言われる超大国が存在していた。この『帝国』は、連邦共和国の建国者たる厚木氏によって、激しい戦の後滅ぼされた。これは教科書にも掲載されている絶対的事実であり、普遍的事実である。
ただ、小中高と学校教育を受けてきた私でさえも、この組織に入るまでは全く知らなかったことなのだが、この『帝国』が滅びる時、皇帝家の家臣が生き残っていたらしい。
厚木氏率いる連邦共和国軍による激しい掃討戦を生き延びた末、その家臣はゆっくりと、しかし着実に同志を集めていた。
それからおよそ190年、その家臣の意思を継いだ者達によりさらに組織は拡大し、今となっては1000をこえる構成員を抱える、一大反社会勢力となった。
ただ、なぜそのような組織が政府から規制されていないのかという点については、記述を差し控えたい。なぜなら、私もそれに関する確実な情報を得ているわけではないからだ。
「何ボーッとしてんだお前! しばき回すぞ!」
赤髪が怒鳴る。確か名前は前藤。前藤修也。二丁拳銃の名手で、過去には単独で飲食店の襲撃なども行った人物だ。17歳ながらここ羽島支部の中でも有数の人殺し。
少なくとも、まともな神経はしていない。
確か今日は、この赤髪達との街頭宣伝活動の日だったと思う。α学園に人を集めるためのティッシュ配り。場所は多分どこかの駅前。
「さっさと行くぞお前、足引っ張ってんじゃねぇよ!」
また怒鳴る。よくもまぁ、そんな元気があるものだ。あるいは、元気がないから怒鳴っているのかもしれない。
「まーたあいついじめられてる。」
「仕方ないでしょ、無能なんだから。」
「」
そう思いつつ、赤髮の後を追い、教室を出ていった。
翠原アーバンシティタワー。α学園羽島支部が入居するビル。地上35階建て。低層5階は店舗、高層30階はオフィス。そして支部は29階。なんと中途半端なことだろう。
未だ何やらどなっている赤髪達と共に、そんなビルヂングから離れていく。ビルヂングの右手にしばらく進んで、横断歩道を渡る。
翠原アーバンシティタワーのある地区の向かい側に、翠原駅はある。連邦鉄道の2路線と、羽島急行電鉄の3路線が乗り入れる駅。乗降者数20万人。
見上げると、私が翠原のシンボルだと言わんばかりの超高層ビル。その角張ったみてくれとは違い、駅のある下層部は曲線的なテラスが、幾重にも重なる。
それらを無視して、僕らは1階の改札を抜ける。
階段を上がって羽島急行の1番ホームに上がった瞬間、ホームに止まっていた電車が逃げていった。
電光掲示板を見た赤髮どもが舌打ちをする。貧乏揺すりもはじまった。
電光掲示板を見る。次は、準急羽島海岸行き。2分後。その羽島海岸とやらは見たことも行ったこともないが、この駅から出る電車には、いくつか種類がある。羽島本線、湾岸線、翠野山線。それぞれに普通と準急、急行がある。これから乗るのは海岸線らしい。
「おい、お前。ちょっとそこの自販機でコーラ買ってこいや」
赤髪に怒鳴りつけられる。
黙って3人分自費で購入し、手渡したあと、電車に乗り込んだ。
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