待ち人
駒木凛 ヒロイン
佐原元気 主人公
いつものように部活が終わり、泣きそうになるくらいの急勾配の坂を歩いて下る
まったく
膝がわらってるぜ
「ふぅ・・・」
丁度半分、一旦荷物を下ろして背伸びをする
季節は七月
もう立派に夏だ
「・・・暑い」
鞄から団扇をだして扇ぎながら荷物を背負い、また歩く
友達や先輩は俺が片付けに手間取ってる間に先に帰った
全く、薄情な奴らだ
駅の踏み切りが近づいてきたので時間を確認
7時30分
ああ、かなり遅いな
これじゃ帰って晩飯食うにも作るのが面倒だ
よし、食って帰ろう
いつも通っている駅前のタコ焼き屋に入る
「お、おつかへぇ〜」
「・・・」
・・・おかしいな
いつもなら帰ってるはずの奴がここで呑気にタコ焼きを頬張ってやがる
「・・・なんでここにいてんの?
あ、おばちゃん、タコ焼き6つ!
全部かけでお願い!」
とりあえずタコ焼きは注文
「ふっふ〜ん
乙女の秘密なのですよ!」
語尾に♪が付きそうなノリで話すこいつは駒木 凛
俺がこの学校で初めて心を許せるようになった女友達だ
性格はお気楽満点頭爆発女だが
なんでも話せ、いつでも側にいてくれるこいつに
いつしか俺はこいつに友達とはまた違う感情を抱いていた
まあいいや、とおばちゃんが持って来てくれたタコ焼きを頬張る
「こんな時間まで自習か?」
「ん〜?
だから乙女の秘密!」
「そうかい
それよかさっさと食えよ
次の電車来るぞ」
「え?あんた、さっき受け取ってなかった?」
「食った」
皿を見せる
「ちょっ!はやっ!」
慌てて食べようとタコ焼きを口に放り込むが熱すぎてのたうちまわっている
やれやれ、電車、もう一本遅らせるか
「わかったわかった
待っててやるからゆっくり食ってくれ」
結局一本遅れた
しかしこいつはなんでこんなに遅いんだ?
・・・気になる
問い詰めてやろう、と隣を見ると真剣な顔、というか何か思い詰めたような顔で何か考えているようだ
・・・聞ける空気じゃないな
仕方ないので本でも読もう
この前買った「人類失格」というパクリな本を取り出す
「・・・ねぇ」
いざ読もうとすると凛が声をかけてきた
「どうした?」
本を開いて目を通しながら応える
・・・なんか真面目っぽい空気だ
本を閉じる
「どうした?」
もう一度目を見て応えてみる
「なんであたしがこんなに遅いかさっき聞いてきてたよね?」
「ああ、てか心配するだろ、いつもは掃除サボってでも帰るようなやつが」
「なんかあたしのイメージおかしくない?
・・・まあいいや」
「?」なんか調子が狂う
「実は、さ
あんたを待ってたんだよ」
「お?
お・・・おう
さんきゅーな
珍しいじゃんか
なんか話でもあったのか?」
「うん・・・」
「・・・」
「・・・」
二人とも黙る
無茶苦茶気まずい
なんの話だろうか
まさか・・・?
いやいや無いだろう
そんなはずはない
ってかなんの話だよ
こんなやり取りを脳内で何度も繰り返す
「あ・・・あたし、好きな人が出来たんだよね」
ドクン、と心臓が跳ね上がる
「へ、へぇ
よかったじゃんか」
なんとか平静を保ちながら返す
誰だ・・・
「うん・・・」「そいつはさ・・・」
本当に誰なんだろう・・・
「馬鹿で・・・
鈍感で・・・
面倒くさがりでさ」
・・・普通の特徴だ
俺は動揺を抑えるのに必死だった
「部活ばっかしでさ
テストのたびに人のノート写してさ
なにかあっても絶対外にださなくて、一人で抱えて・・・」
動揺する心の中で一人だけ思い当たる人物がいた
「変態で・・・
いつもは、おちゃらけてるのに何かあったら絶対私の側にいてくれて
いつも私を助けてくれた」
ああ、そうか
変態で、絶対に凛から離れなかった奴
一人だけいたよ
確信に変わった
そいつは・・・
「私は・・・あなたが好きでした」
ああ・・・俺だ
彼女が降りる駅、
「なあ、少し公園に寄ろう」
駅から少し離れた公園
俺は凛と向き合う
「凛、
実はさ、俺も好きな人、いたんだよ
そいつは馬鹿で、頭おかしい事ばっかやってて、鈍感で、
でも誰よりも優しくて
誰よりも綺麗で
誰よりも俺の側にいてくれた
凛、お前だったんだ
お前は俺に真剣に伝えてくれた
だから俺も真剣に応える
俺は凛のことが好きだ
俺の彼女になってくれ」
凛の肩が震えている
地面には何滴か水の跡が残っている
凛はしっかりと俺の顔を見る
「こんな私でよければ喜んで」
月明かりに照らされた彼女の笑顔はとても神秘的で、とても綺麗だった
頭上には満月
駅から離れた公園
そこにはよりそって歩く二人がでていった
二人しっかりと手を繋いで
絶対に離れないように
絶対に離さないように
心に決めて