国からの褒賞
ミシェランのマルクさんの店に、私たち8人は来ていた。お爺さんとお婆様も店にいらしていたので挨拶をすると、優しく笑ってくれた。お爺さんは屋台で焼き鳥を買ってくれていたので、私たち8人はご馳走になった。
既製品のドレスはサイズ直しが必要なため、急いで決めなければならない。私はお母様のお勧めのドレスに決めたので、既に自分でサイズ直しを済ませていた。マリアもリオの一言で直ぐに決まり、お針子さんがドレスのサイズ直しをしてくれている。
しかし、ボンドンとドナの服はなかなか決まらなかった。二人とも「何でもいい」と言っていたが、周囲が納得しないのだ。確かに二人が着ると服だけが目立ってしまい、ちぐはぐな装いになってしまう。要するに、全く似合っていなかった。仕方ないので、ボンドンに似合いそうな服をマルクさんが他の店からいくつか持ってきてくれることになった。そしてドナのドレスは、一番シンプルなものに私が少しだけアレンジを加えているところだった。
マルクさんが三着ほど持ってきてくれて、ようやくボンドンの服が決まった。お針子さんが急いで対応してくれている。私はドナの良さを充分理解しているつもりだった。ドナは可愛らしく小柄なので、ふんわりした可愛らしいドレスが絶対に似合うはずだ。出来上がったドレスを着てもらうと、皆の顔が変わった。特にジルが口を開けて見ている顔は、少し面白かった。
「ドナ、とても素敵だわ」
私がそう言うと、ドナは嬉しそうに言った。
「キャロル様のドレスは着ていて楽ちんで最高です!」
「ドナ、似合ってるよ」
照れくさそうに言葉にしたジルの顔は赤くなっていた。
アクセサリーはお母様に貸してもらったネックレス一つだけ。マリアは、亡き母の形見のネックレスを身に着けるようだ。
準備ができたので、ミシェラン侯爵邸から一気に魔法陣で飛び、そのまま王宮に向かった。
その足で謁見室に向かうと、控えの間で待つように言われたので、待機している。
お父様とお母様は先に呼ばれたので、会場で見守ってくれるようだ。私たちが呼ばれ謁見室に入ると、ものすごい視線が集まった。ここにいるのは高位貴族の一部のはずなのに、刺すような視線が痛い。
マッドが私の手を握り、落ち着かせてくれた。
隣を見ると、マリアはさすがだ。とても堂々としている。
国王陛下と王妃様、王太子殿下が入場してきた。王妃様はとても美しく華やかな方だが、リオを目で追っているように見えるのが気になる。
順番に名前が呼ばれていく中で、マーカスさんも呼ばれて金一封を頂いたようだ。お父様とお母様も金一封と、王家預かりのルルド村の領地を頂いたようだ。最後に私たち四人が呼ばれて、全員に金一封が与えられた。さらに、マッドと私にはピピ島が、リオとマリアにはマレ島が与えられたのだ。
授与式は滞りなく終わり、私はホッとしたのもあるが、既に気持ちはピピ島にあった。マッドもリオも同じだったようだ。でもマレ島はどこにあるのだろう?
「私も詳しくは知らないけど、マレ島も国の一時預かりの領地で、東の方にある小さな島よ」
マリアが教えてくれた。
「すごいな、学院の長期休みにでも行きたいな」
リオがそう言うと、マリアが「皆で行きましょう!」と言ってくれた。
楽しみがまた一つ増えた。
控えの間に行くと、お父様とお母様とジルたち四人が待っていてくれた。
そして、陛下とミシェラン侯爵であるお爺様までいらっしゃったのだ。
陛下はマリアの側に行き、優しく抱きしめていた。
「マリア、よく頑張ったね。私の自慢の娘だ」
マリアは陛下の胸の中で静かに泣いていた。
陛下はジルたち四人にも褒賞を用意してくださっている。
「今回の働きは皆から聞いている。本当にありがとう。そこで君たちには褒賞として自由を与えようと思う。これは事前にマッド、リオ、キャロル、マリアの許可を得ている。今から奴隷契約を解除できる者が来るので、速やかに解除してもらいなさい」
ジルが前に出た。
「国王陛下、発言しても宜しいでしょうか」
陛下が頷くと、ジルが言った。
「私は奴隷契約の解除は不要です。このままマッド様の側仕えとしてお仕えさせて下さい」
同じように、全員が解除を拒んだ。
陛下は皆の意見を聞いた上で話された。
「これは君たちの主人の希望でもあるんだよ。先ずは奴隷解除をしてもらい、このまま今まで通りに仕えるんであれば、私が新たに契約を結んであげよう。もちろん君たちを害するようなものではないよ。この子たちには秘密が多いからね、君たちに変な疑いが向けられないための措置だ。私もマリアも同じ契約をした上で、この子たちのことを教えてもらったんだ」
マッドがジルに向かい頷いた。
そしてこの場で奴隷契約は解除され、改めて全員が契約を結んだ。
秘密をばらそうとすると、その事に関しての記憶が消えていくという契約だ。
「マリアの側仕えはレティだったね。娘は我儘を言えない環境で育ったので、人を頼ることが少々苦手だ。令嬢らしくはないかもしれないけど、これからも世話をしてやってほしい。これは王としてではなく、父親としての願いだ」
「陛下、ありがたいお言葉ありがとうございます。マリア様には私は感謝しても仕切れません。私はマリア様が望む限りお仕えしたいと思っております」
陛下は満足そうに頷いていた。
そして最後に陛下は、ジル、ボンドン、ドナ、レティにも金一封を与えて部屋を出て行かれた。
「ドナ、これからもよろしくね」
「キャロル様、もう私を見放したりしないで下さいね、私は……」
ドナはものすごい勢いで泣き出し、私の胸に勢いよく飛び込もうとした。その瞬間ジルがそっとドナを抱きしめた。ジルはまるで子供をあやすように「よしよし」と口ずさんでいた。
ボンドンも涙目になっていて、リオが困った顔をして慰めている。
やっぱり私たちは、家族みたいな仲間なんだと改めて思った。




