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ブレイブス港街8日目 マッド視点

マッド視点


 夜中に宿に戻ると、俺は半分寝ぼけながら汗を流し、そのままキャロルと同じベッドに潜り込んだ。以前から、キャロルやリオの傍で寝るのが一番熟睡できると知っていたからだ。

 

 朝目が覚めると、キャロルは既に起きていて、心配そうに俺の顔を覗き込んでいた。いつものように彼女の頭を撫でてやると、キャロルも俺の頭を撫で返してきた。

 その仕草があまりにも可愛くて、思わず抱きしめて何度もキスをしてしまった。キャロルは俺とのキスにも慣れてきたのか、以前のように戸惑うことなく受け入れてくれる。だが、あと四年もこの関係を耐えられるだろうか。少しだけ心配になってきた。

 

 昨日のうちに魔法陣は完成させたので、午前中に最終確認をすれば問題ないはずだ。だから午後からは、俺とキャロルは小型操縦を習い、もし時間があれば潜る予定にしていた。リオとボンドンたちは、今日は街を散策した後、のんびりと時間まで釣りを楽しむと言っていた。


 俺は予定通り午前中に魔法陣の確認作業を終え、特に問題もなかったので、午後にはキャロルと操縦の練習を始めた。俺はすぐにコツを掴みマスターできたが、キャロルには少し難しいようだった。

 

「思った方向にどうしても動いてくれなくて……マッド、ごめん、時間がかかりそうだわ」

 

 俺に謝りながら、彼女は何度も同じことを繰り返していた。それでも諦めずに練習を続けた結果、何とか4時には修了証書を受け取ることができ、俺も心底安心した。

 

 リオが言うには、マリアも意外に苦労したらしいので、操縦には器用さはあまり関係ないのだろうと思った。考えてみれば、ドナはとてつもない不器用だ。

 

 それから、少しでも海に潜りたかったので、俺たちは購入した家の側で潜ることにした。地上と同じで、潜る場所によって景色は大きく変わる。いつか俺は空も飛んでみたいと、この時ふと思った。

 

「マッド、気持ちいいね! またすぐに来ようね!」

 

 キャロルが満面の笑みを浮かべて言った。彼女の笑顔を見ていると、心から安らぐ。

 

「ああ、毎日でも来て潜ろうな」

 

 そうして再び潜り、キャロルは海底で何かを掘っていた。

 彼女が手にしていたのは、まるで太陽の欠片をそのまま閉じ込めたような、鮮やかな黄金色の大きな石だった。表面は滑らかに磨かれたように輝き、光を浴びるたびにキラキラと眩い光を放つ。キャロルはそれを大事そうに眺め、満足そうに微笑んでいた。

 

 名残り惜しいが、そろそろ地上に上がり、ルルソン村へ帰る準備をしないといけない。キャロルを抱きしめながら長いキスをして、俺たちは地上に戻った。

 

 家に入り着替えを済ませてから、いつものように皆で夕飯を囲んでいると、ジルとレティが新しく仲間になった四人を連れてきてくれた。それぞれが簡単に自己紹介を済ませ、四人にも食事を取ってもらった。

 

 ワオンとパオスは奴隷ではあるが、その顔には全く陰りがない。元々前向きで魔道具作りが大好きな根っからの職人だと、二人とも笑いながら皆と楽しそうに喋っている。

 

「おお、どれも美味いな。それにこの魚料理は絶品だ!」

 

「お替わりをもらってもいいか?」

 

 二人はもう既に皆に馴染んでいるようだ。彼らの明るい声が食卓に響き渡り、まるでずっと昔からそこにいたかのように自然だった。

 

 カイトとハンナは、まだ少し人生を諦めているようなところがあり、打ち解けるには時間がかかるだろう。二人は俺が想像できないほどの苦労を幼い時からしてきている。少しずつでも前向きになってくれればいいと思う。

 

 四人とも平民ではあるが、魔力も多く質も良いから、魔法陣で一気に飛んでも問題はなさそうだ。

 

 マーカスさんを待つ間、ジルやレティは結界の確認や施錠の確認を何度も行っていた。

 

 マリアは火の元や水漏れがないかの確認を繰り返し行なっている。

 キャロルやリオはまた何かを作っているようだ。

 ボンドンはリオの横で、彼が何かを作る様子をじっと眺めている。

 ドナは暇なのか、何かを食べていた。

 俺は魔法陣の最終確認を何度もしていた。

 

 それを見ていたワオンとパオスは不思議そうな顔をした後に、何故だか大笑いをしていた。カイトとハンナは無表情だが、俺たちのことをじっと眺めているようだった。

 

「おお、待たせたな! 問題が起きて遅れてしまい申し訳ない。もう解決したから大丈夫だ、出発しようか」

 

「マーカスさん、おかえりなさい!」

 

 皆がマーカスさんに挨拶をした。

 

 最後にもう一度確認すると言って、ジルとレティは部屋を出た。5分後に戻ってきて魔法陣の中に入り、最初はゆっくりと進めて問題がなさそうなので、一気に飛んだ。あんなに遠くにいたはずなのに、一瞬でルルソン村に到着した。

 

 ムッサリとジータが出迎えてくれた。二人に本当に大変な目に合わせてしまい、申し訳なかった。俺は二人に何度も「ありがとう」とお礼を言った。リオやキャロルも同じように感謝を告げた。

 

「とんでもありません。私たちがお役に立てたなら嬉しいです」

 

 ムッサリがそう答えてくれた。ジルを見ると、少し涙目だった。彼の心には、きっと祖父母への深い感謝と安堵の気持ちが溢れていたのだろう。

 

 リビングに行くと、父さんと母さんが出迎えてくれた。キャロルは母さんに飛びつき、子供のように甘えているようだ。俺とリオは父さんに挨拶に行き、同時に楽しいひとときをくれたことに対して礼を言った。父さんは頷いて、「今日はゆっくり寝て、明日話そう」と言ってくれた。

 

 留守番をしていたクロが、リオ目掛けて勢いよく飛んできた。そういえば、クロはたくさんの山賊や自警団に対して大丈夫だったのだろうか。誰かに怪我をさせたりしなかっただろうかと、少し不安になった。

 

 リオを見ると、普段通りにしているから問題はなかったのだろうか?

 

 キャロルがクロに話しかけている。

 

「クロ、ムッサリやジータの言うことを聞いて、お利口さんにお留守番できた?」

 

「クワーー」

 

 クロが嬉しそうな鳴き声をあげた。

 

「そう、ありがとうね。お利口さんにしてたようだから、約束のピカピカの石をあげるね」

 

「クッククワーー」

 

 そう言って、キャロルはあの黄金色の石を中心に作られた首飾りを、クロの首にかけている。

 

「クワ、クワ、クーー」

 

 クロはよく分からないダンスを踊り終わると、嬉しそうに去っていった。

 

 キャロルは、さっきの首飾りの価値を知っているのだろうか?おそらくルルソン村の中で、クロが一番の金持ちかもしれないと俺は思った。いや、王城にだって、あんなにすごい物はいくつもないだろう。

 

「キャロル、サンキューな。おかげで問題はなかったようだ」

 

 リオがキャロルに礼を言っている。

 

 以前キャロルが自分で言っていたように、キャロルは動物と会話ができるのかもしれないと俺は少し思った。

 

 こういった光景は、元々ここにいる俺たちには当たり前だが、新たな仲間である四人には不思議だったようで、口を開けて呆然と立っていた。

 

「マッド様、四人は俺たちに任せてお休みください」

 

 ジルがそう言ってくれた。俺もその方が四人にとっても良いのだろうと思い、皆に頷いた。俺とリオ、キャロル、マリアはそれぞれの寝室に行き、早めに寝ることにした。

 

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