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ルルソン村に到着

 既に5月を過ぎ、森を離れてから数日が経っていた。

 

 これまでの道中で出会った人々の中に、金髪や水色の瞳の者はいなかった。もしかしたら、この国では珍しい色なのかもしれない。目立つことは避けたい。そう考えた私とリオは、髪を茶色に染めることにした。だけど目の色だけはどうしようもなかったので、そのままにしておく。

 

 先日、あの奴隷商人から貰ったブローチには、少しだけ「認識阻害」の効果があるらしいとマッドが教えてくれた。私はそのブローチを身に着け、自作した帽子の中に髪をしまい込む。その上から、使い古したような風合いに染色したマントを羽織る。最初、三人のマントは白で統一されていたが、今では私のマントはカーキ、マッドは落ち着いたグレー、そしてリオは明るいキャメル色に変わっていた。私のこの格好は、一見すると男の子に見えるだろう。

 

 ここからは、人や馬車も通るはずだ。周囲に気を配りながら、マッドを先頭に、私たちは進んだ。ミシェランへ立ち寄ることも考えたが、まずは小さな村の方が、何かあった際に対処しやすいだろうという結論に至り、そのままルルソン村へと向かっていた。

 

「ルルソン村の門がもう見えるね。まずは僕が対応するね」

 

 リオは穏やかな声でそう言った。彼は、どんな相手とも円滑に話を進められる性格だ。スキルとかではないが、こういう場面はリオが得意としている。

 

 ルルソン村の門番は、初老の男性と、18歳くらいの若い青年の二人だった。私たちが門に近づくと、若い男性が話しかけてきて、手のひらに乗るほどの水晶を差し出してきた。

 

「まずは順番に水晶に軽く触れてもらえるかな?」

 

 リオは、知らないことを質問するために自然なふうに装った。

 

「僕たちはここよりずっと小さな村から来たんだ。何も知らないから教えてほしい。これで何が分かるの?」

 

 若い男は、丁寧に答えてくれた。

 

「犯罪歴が分かるんだよ。小さな村だと調べないこともあるけど、ここはミシェラン領から近いから、犯罪者が紛れ込むことを想定して、必ず確認させてもらっているんだ」

 

 なるほど、そんな仕組みになっているのね。私たちに犯罪歴はない。マッド、リオ、私の順で水晶に触れていった。水晶が特別な反応を放つこともなく、門番たちはすぐに顔を上げた。

 

「三人とも問題ないね。協力してくれてどうもありがとう」

 

 初老の男性が、横の箱を指差し、入村料を入れるように指示した。マッドが代表して、これまで狩りや採掘で得た魔石をいくつか差し出した。

 

「お金を持っていないので、こちらの魔石で三人分払うことはできませんか?」

 

 初老の門番は、訝しむこともなく、おおらかに頷いた。

 

「ああ、いいだろう。他の村や街では難しいかもしれないから、これからは気をつけるんだよ。それにしても、これは少し多いから一つ返すよ。それで、この村には何しに来たんだい? 知り合いでもいるのかい?」

 

「僕たちはいきなり大きな街に行くのは少し怖かったので、この村に来ました。知り合いはいません。換金できる所と、安い宿があれば教えてもらえると嬉しいです」

 

 リオがそう言うと、若い門番が申し訳なさそうに言った。

 

「この村には宿は一軒しかないんだよ。でも宿屋の女将さんの娘さんがもうすぐ出産予定で、ミシェラン領に世話に行っていて、今、休業中なんだ」

 

「そうなんですか……。とりあえず換金だけでもできる所を教えてもらってもいいですか?」

 

「換金なら、市場やギルドでできるよ。簡単なもので悪いが、地図を書いてあげるからちょっと待ってくれ」

 

 門番のお爺さんは、そう言って親切に地図を書いて説明してくれた。その優しい対応に、心が温かくなる。とても良い人だと感じた。

 

「ギルドに行けば、何か住み込みの仕事を紹介してくれるかもしれないから、聞いてみるといいよ」

 

「親切にありがとうございます。まずは市場に行ってみます!」

 

 私たちはお礼を言って、地図に書いてくれた市場の方へと向かった。

 

 ギルドの場所も市場の中にあるらしい。まずはギルドで話を聞いてみることにした。市場の端の方に、ポツンと立つ小屋のような建物。どう見ても、強面の冒険者が出入りするような雰囲気ではない。本当にここがギルドなのだろうか?

 

「マッド、ここで合っている?」

 

 リオも同じように思ったようで、マッドに確認している。

 

「ああ、イメージは随分違うけど、間違いなくここだよ。入ってみよう」

 

 マッドがギルドのドアを開けて入って行ったので、私たちも後に続いた。中に入ると、外観からは想像できないほど、綺麗に整えられた清潔感のある事務所が広がっていた。受付には笑顔の素敵なお姉さんと、30代半ばくらいの男性が一人いるだけだ。

 

「ここは冒険者ギルドで間違いありませんか?」

 

 マッドが尋ねると、受付のお姉さんがにっこり笑って答えてくれた。

 

「ええ、ここが冒険者ギルドで間違いありませんよ。本日はどのようなご用件でしょうか?」

 

「薬草とか魔石とかの換金はここでできますか?」

 

「もちろんできますよ。こちらの机に置いていただいても宜しいですか? それと、冒険者登録をされていればプレートを拝見させていただけますか?」

 

「僕たちは冒険者登録をまだしていません」

 

 リオがそう言うと、男性のギルド職員が話しかけてきた。

 

「やあ、私はギルド長のカルロだ。冒険者登録はここでもできるから、ついでにしていかないかい? 登録すれば、少しだが換金の際に割増されるよ」

 

 マッドが、カルロさんの言葉に興味を示した。

 

「登録について説明してもらっても良いですか?」

 

 ギルド長のカルロさんは、とても分かりやすく説明してくれた。

 

冒険者ギルド登録概要

* 登録料は1000リラ。

* ランクはGからSまであり、最初はGから始まる。

* 買取の際の割増料は、物にもよるが3%から10%。

* 15歳未満の未成年は護衛クエストは受けられず、討伐クエストにも制限がある。(私たちはまだ未成年だ)

* ランクがC以上になると、クエストを失敗したり期間が守れなかったりした場合にペナルティが発生する。

* ランクがB以上になると、国からのクエスト依頼が発生する。

* ランクA以上になると、国からの依頼はよほどのことがない限り断れない。その代わり、一代限りの貴族席が与えられる。

 

 私たちは三人とも登録をすることにした。登録料は買取代金から精算してもらうことになったので、机の上に換金してもらう薬草や魔石を置いて計算してもらっている間に、登録を済ませる。

 

 登録は驚くほど簡単だった。耳たぶから一滴の血を取り、プレートに垂らすだけで終わったのだ。プレートをギルドにある魔道具にかざすと、名前や年齢などの情報が映し出されるが、スキルに関しては何も映っていない。

 

「スキルの登録に関しては、本人の意思に任せているんだよ。君たちはどうする?」

 

 カルロさんの問いに、マッドはすぐに答えた。

 

「俺たちは、今は良いです」

 

 リオが、宿について尋ねた。

 

「この村の宿屋が今はやっていないと聞いたんですが、どこか泊まれる所はありませんか?」

 

 カルロさんは、手を顎に持っていき、少し考え込むような仕草をした。その仕草を見た時、私は、それがマッドの癖ととても似ていることに気づき、不思議な感覚を覚えた。

 

「どのぐらいここにいる予定なんだい?」

 

「まだ決めていませんが、仕事があるなら、しばらくは住みたいと思っています」

 

 マッドがそう答えると、カルロさんは引き出しから一冊の冊子を出して、私たちに説明してくれた。

 

「ここに記載されているのは、ギルドで所有している土地だ。市場からは少し離れてはいるが、一月単位で貸し出しできる。もちろん、ずっと住みたいと思ってくれれば、後で購入もできるよ」

 

「家を建ててもいいんですか?」

 

 マッドの質問に、カルロさんは少し驚いたような顔をした。

 

「構わないが、土地代よりも家を建てる方がずっと費用がかかるよ。大体の冒険者は、頑丈なテントを張ることが多いな」

 

 安全が確保できないテント生活は、私は正直避けたいと思った。

 

「ありがとうございます。でも、テント生活は危険が伴いそうなのでやめておきます」

 

 マッドが答えると、カルロさんは感心したように言った。

 

「そうか、君たちは結構しっかりしているようで安心したよ」

 

 カルロさんは、私たちを試すように勧めてきたのかもしれない。

 

「一番安い所で一ヶ月借りると、おいくらですか?」

 

 マッドが尋ねると、カルロさんは答えた。

 

「2万リラだ。宿屋よりも安いが、どうする?」

 

「俺には建築スキルがあるので、小さな小屋を建てても良いなら、借りたいと思います」

 

 マッドの言葉に、カルロさんは目を丸くした。

 

「分かったよ。では、その間は住み込みの仕事を何か紹介するが、今日はギルドの仮眠室を使うといい。今日中に君たちは土地を見てきてくれ。ギルドでも、住み込みの仕事を明日までに探しておくよ」

 

 私たちの買取料金はなんと10万リラにもなった。ギルドカードの三人共通口座に9万リラを預け、残りの3000リラで登録料を払い、7000リラを現金で受け取った。

 

 市場の屋台で串カツを買い、ベンチに座って三人で話し込んだ。

 

「勝手に決めたけど、良かったか?」

 

 マッドが少し心配そうに私たちに尋ねた。

 

「カルロさんの話には、『真偽判定』で嘘は一切なかったから問題ないよ。それに、宿屋より自由にできるから、僕もそっちの方が良いな」

 

 リオの意見に、私も力強く同意した。

 

「ええ、私もよ!」

 

「持ってきた家をいきなり出すのは、やっぱりまずいよな……」

 

 マッドが真顔で呟いた。流石に、あの家をいきなり村の中で出して暮らすのはまずいだろう。私とリオは視線を合わせて大きく頷いた。

 

「お腹も膨れたし、土地を見に行こう」

 

 リオの言葉に、マッドは地図を取り出して広げた。

 

「人の目が少ない方がいいけど、それはそれで危険だよな。ここか、ここが安いけど、俺はここの川の近くが良いと思う」

 

 地図には、いくつかの貸し出し可能な土地が示されている。マッドが指した場所は、確かに少し値段は高いが、川に面していた。

 

「釣りができるなら、僕はそこがいいよ。毎日新鮮な魚が食べられるし、食費も安く済むからね」

 

 リオがすぐに反応する。リオにとっては、まさに理想的な場所だろう。

 

「私も薬草園を作りたいわ。売れれば生活費の足しになるし、料理にも使えるもの」

 

 私の「採集」スキルと、薬草園の計画。三人のスキルが、新たな生活の基盤を着実に作り上げていく。

 

 私たち三人が選んだのは、少し値段は高いけれど、川の近くの土地だった。そこには、新しい生活への希望と、三人の揺るぎない絆が、確かに息づいているようだった。


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