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ブレイブス港街3日目

 翌日、私たちはジルとレティの案内で、ブレイブス港街で購入できそうな物件を三軒見に行くことになった。忙しいはずのマーカスさんも、なぜか同行している。

 

 三軒とも街から馬車で20分ほど離れた、静かで落ち着いた場所にあった。価格の安い順に案内してくれた。

 

 一軒目は海岸から一番遠かったが、敷地面積は一番広い。見た感じ悪くないと私は思った。少し古いから修繕は必要そうだけど、部屋数も多いし、なかなか良さそうだ。価格は2000万リラ。

 

 二軒目は先ほどの物件よりは海岸に近いが、敷地面積は少し狭い。見た目がゴシック調で、正直あまり好みではない。修繕すれば良くなるのだろうか?価格は2700万リラ。

 

 三軒目は海岸沿いにあり、敷地面積は一軒目の半分くらいだろうか。でも見た感じは、この辺りの建物と調和も取れていて、浮いた印象はない。古いけれどしっかりした建物で、何より落ち着いた雰囲気があって良い。価格は5000万リラ。

 

 レティが丁寧に説明してくれた。

 

「ブレイブス港街では、海岸沿いの家は、家と船を繋ぐ魔道具を役所で購入して届け出を提出すると、船を置いても構わないそうです。ここは街からも離れていますし、水深もあるので、大型操縦終了証明書を持った者がいれば大型の船も置けます。まあ大型と言っても制限はあるようですが……。そういったこともあり、海岸沿いは高値になってしまいます。今回は三軒とも中古物件なのは、良い場所に更地がなかったからです。この街は観光地ですので、貴族の別荘も多いことから空き地は少ないですね」

 

 次はジルの番らしい。

 

「今回はどの物件を購入したとしても、分割払いの予定ですので、それほどリスクはないと思います」

 

 しかし、倍以上も違うのだ。最初の物件でも十分良いと思うのだが……。それぞれが考え込んでいると、マーカスさんが口を開いた。

 

「カルロと陛下から俺は言われているんで、言わせてもらうぞ。お前らは一応侯爵令息とご令嬢だ。それにマリアは第二王女だ。それなのに価格ばかりを重要視するのは良くない」

 

「価格も重要だと思うけどね」

 

 リオが反論すると、マーカスさんはさらに話を続けた。

 

「ご令嬢が王家主催の夜会で身につけているドレス一式は、高位貴族の場合は軽く500万リラは超えるぞ。それに、ここには魔法陣を描くつもりなんだろう。トド町のような緊急事態が発生した際には、陛下は魔法陣を利用させてほしいと仰っている」

 

「それなら敷地面積が必要だろうな」

 

 マッドがそう言うと、マーカスさんが頷いた後、話を続けた。

 

「マッドの言う通りだ。それに、船が使えた方が便利だろうから、海岸沿いが好ましい。海岸沿いの家の隣は空き家のようだが、ジル、隣の空き家については調べてあるのか?」

 

 マーカスさんが尋ねると、ジルは即答した。

 

「はい、隣の空き家は長い間使われていないため、かなり腐敗していますので、更地にした上で新しく建てる必要があります。更地費用も購入者の負担になりますから、2200万リラに更地費用800万リラ、それに建築費用が必要です」

 

 そこまで聞くと、マッドは深く息を吐き出した。

 

「わかりました。マーカスさんが言うのも最もです。隣の空き家も含めて、俺とリオ名義で一軒ずつ購入します」

 

 マッドの言葉には、迷いなど微塵もなかった。侯爵令息としての重みと、未来を見据える者の揺るぎない決意に満ちたその声を聞き、私はマッドの成長を強く感じた。リオも同じように頷いている。もう冒険者だった頃の私たちではない。私たちの存在が、周囲に大きな影響を与えることを、マッドもリオも理解し始めている。それは、責任であり、同時に自分たちが果たすべき役割だ。二人の胸の内には、貴族として大切な人々や弱き者たちを守っていくという、確かな決意が燃え上がっているのが伝わってきた。

 

 購入手続きをするため、ジルとレティを役所に送った後、マーカスさんと私たちは冒険者ギルドに向かった。

 

 そういえば、随分クエストを受けていない気がする。それに、ドナたちも冒険者登録をしておいた方がいいんじゃないかな。

 

「お前たちは目立つから別室へ行くぞ。冒険者登録をしていない者はそこですればいいからな」

 

 別室のソファに全員が座ると、マーカスさんと同じくらいの年齢の男性が部屋に入ってきた。

 

「初めまして、私はここのギルド長をしているトンダと言います。伺っていた通りですね、冒険者の目が釘付けでしたよ」

 

 色変えはしているのに、なぜだろう。マリアが姫だからだろうか?

 

「マリア姫はどちらですか?」

 

 マリアが返事をすると、トンダさんはまるで雷に打たれたように、その場で驚いたことに土下座した。

 

「えっ……!?」私は思わず目を見開いた。

 

 マリアははっきりとした口調で言った。

 

「トンダさん、私にそういう挨拶は不要ですので、頭を上げて下さい」

 

 こういうのを見ると、マリアはやはり姫なんだと改めて感じる。それに、なんだか威厳があってかっこいい。私も今度やってみたいけど……でも、できるかな?

 

 私を見ながらマッドは小さく笑っているし、リオはなぜだか首を振っている。ドナが私に囁いてきた。

 

「キャロル様は今のままで素敵ですよ」

 

 えっ、もしかしてまた心を読まれている?

 

 ドナたちがここで冒険者登録を済ませた後に、本題である山賊について明らかになったことをマーカスさんが説明してくれた。

 

「大盗賊団と言われるのは、今わかっているだけでこの国に三つあると言われている。大盗賊団と言われてはいるが、小規模な盗賊や山賊が集まって大人数にしただけで、結束力なんてものは皆無な集団だ」

 

「この前の山賊たちは、大盗賊団の一つということ?」

 

 リオがそう言うと、マーカスさんは続けた。「リオの言う通りだ。だが、カルロを狙った犯行なのか、ただ単に金になりそうな者を狙ったのかはわかっていない」

 

「現時点でも分かっていないとなると、大盗賊団の幹部は捕まっていないんですね」

 

 マッドがそう言うと、マーカスさんは頷いた。結束力のない集団ならば、下の者たちは何も知らされていないだろうと私も思った。

 

「いずれにしても、一つの大盗賊団を潰したのは間違いないからな。かなりの謝礼金が出るだろう。いや、それ以上だな、爵位を賜ってもおかしくないぐらい凄い働きだ」

 

 マーカスさんがそう言うと、マッドとリオは同じような言葉で返した。

 

「俺たちが退治できたのは、町民の皆さんのおかげだと思っています」

 

「僕は町民の方たちが励ましてくれたから頑張れたんだ」

 

「ああ、それもあって、町の復興には国費が使われる。だがお前たちはトド町の英雄だ。トド町ではお前たちの銅像を建てようとしてるらしいぞ。まあ、カルロとミランが子供たちが学校を卒業するまではそっとしてほしいと断ったようだがな……」

 

 それは初耳だ。お父様とお母様が断ってくれて本当に良かった。

 

「とにかく、戻ったら王宮に挨拶に行ったりと忙しくなる。だが今後も狙われることがあるかもしれないから、肝に銘じて行動しろ。良いな」

 

「私たちギルドの者も味方になります」

 

 トンダさんが温かい言葉をくれた。

 

「トンダはこう見えてかなり強いぞ。偶然にも三ヶ月後にはヒュムスカ街のギルド長になるので、困ったことが起きたら相談するといい」

 

 マーカスさんがそう言うと、マッドが言った。

 

「ありがとうございます。何かあれば頼らせて頂きます」

 

「こちらこそ宜しくお願い致します。実は次男も魔法学院の入学が決まっているんですよ。良ければ仲良くしてやって下さい」

 

 私は貴族名鑑を頭の中で考えたが、なかなか出てこない。どちらの貴族様だったかな?

 

 マリアがにこりと微笑んで私の顔を見て小さく頷き、「ありがとうございます。ジオニール侯爵様、お世話になります」と告げた。

 

 もしかしてマリアにまで心を読まれたのかしら?でも名前が分かってちょっとスッキリしたわ。


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