表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
70/173

山賊の受渡し

 3時間ほど馬車を走らせた頃、ボンドンが御者と交代してくれた。

 

 今回の戦闘でボンドンもかなりの活躍をしており、疲れているだろうからと断ったのだが、彼は「御者もきちんと覚えたいから」と言って引かなかった。ボンドンは誰もが認める努力家だ。一度決めたことは必ず最後までやり遂げる。そんな彼の真摯な姿勢は、私も見習わなければいけないと、いつも感じさせられる。

 

 お父様も今日の戦闘は見事だったと褒めていた。ボンドンは自分が非力であることを理解しているからこそ、敵が真っ先に自分を狙ってくることを想定した動きをとっていたらしい。私には詳しいことはわからないが、そのおかげでお父様もリオも戦いやすかったそうだ。

 

 私の身体も相当疲れていたようで、御者を交代してもらうとすぐに眠りに落ちてしまった。

 

 目が覚めると、私はベッドの上にいた。ドナに尋ねると、既に山賊たちの引き渡しは済んでおり、そろそろ夕食の時間だと教えてくれた。ドナに「寝なくて大丈夫なの?」と聞くと、「御者をしながら寝たので問題ない」と言う。それは逆に問題では、と思ったが、黙っておくことにした。

 

 お父様とマッド、リオは、この町のギルド長や町長と山賊について話し合いがあるため、夕食の席にはいなかった。だが、皆よく眠れたし元気だとお母様が教えてくれた。明日もこの町に泊まることになっているので、ゆっくり過ごせそうだ。

 

 夕食を終える頃、マッドたちが戻ってくると、お父様は皆を集めて明日以降の予定を説明してくれた。

 

「この町では2年前から、身寄りのない子供や若い女性がたびたび誘拐されていたようだ。今回の山賊の巣窟らしき場所の探索には我々も加わり、早急に捕らえることが決まった。既に何人かの冒険者は向かっているが、明日の朝4時には我々も向かうので、ジル、ボンドン、ドナは準備をしておいてほしい」

 

 どうやら、のんびりとはいかないらしい。マッドやリオも当然行くのだろう。私はマッドやリオと離れるのが初めてだったので、得体の知れない不安と寂しさが胸に募った。こんなにも彼らがいないことが、怖いと感じるとは思わなかった。

 

 そんなことを考えていると、マッドとリオが隣にやってきて、私を挟むように座った。マッドが私の髪を優しく撫でながら言った。

 

「俺たちはこっちでやることがあるから、留守番になった。キャロルたちにも手伝ってもらうから、頼むよ」

 

 二人が残ってくれるのは安心だが、一体何をするのだろう?彼らの言葉に安堵した私は、胸をなでおろした。

 

 翌朝、私はドナたちに疲労軽減と防御力を少し高めるお守りを渡した。

 

「ドナ、無茶は絶対にしないでね、絶対だからね」

 

「キャロル様、大丈夫ですよ。私はむしろキャロル様の方が心配です。無茶しないようにしてくださいね」

 

 そう言うと、ドナは元気に駆け出していった。マッドはジルに地図を見せながら、細かく説明をしているようだった。

 

 そして朝食を終えると、マッドとリオはこの町の空き家に私とマリアを連れて行った。

 

 マッドは空き家の中に入ると、私たちに説明を始めた。

 

「ここの空き家を一時的にブライトン侯爵家が購入したんだ。山賊の人数を考えると、ただのゴロツキたちではないように思える。実際に何人かを鑑定すると、大物クラスの賞金首もいるから、きちんとミシュランで取り調べることになったんだ。父さんの視察を知っていて父さんを狙った可能性もあるし、それに人攫いも絡んでいるとなると、闇ギルドの可能性もある」

 

「どうして空き家を借りる必要があるの?」

 

「陛下の了解も得て、ここに魔法陣を描かせてもらうことにした。ブレイブス港街に描くつもりであらかじめルルソン村の俺たちの家に魔法陣を描いていたから、それを使ってルルソン村へ盗賊たちを輸送するんだ。今回は人数が多いから、魔法陣で送ることしかできない。ムッサリとジータがミシェラン侯爵であるお爺様に引き渡しをする。リオは盗賊を入れる檻を作るから、キャロルは眠り薬をたくさん作ってほしい。マリアは俺たちの食事の世話を頼む」

 

「ちなみに輸送に関しては王家の所有する魔道具ということになっているからね」

 

 マッドの説明に、リオが補足した。

 

 私たちはすぐに作業に取りかかった。お母様は職人や侍女を手配し、このタウンハウスを手早く蘇らせた。マリアも見事な采配を振るっている。さすがは元姫様だと、私は感心した。

 

 夕方には準備ができたので、盗賊たち15人ほどを2時間おきに送っていった。3回送り終えると、8時過ぎになっていた。

 

 そんな頃、お父様たちから連絡が入ったようで、お母様が伝えに来てくれた。

 

「3箇所のうち2箇所は叩き終えたそうよ。彼らは見つかるなんて思っていなかったみたいで、逃げずにそのままいたんですって。山賊30人と、攫われたと思われる者たちが5人いたので、総勢35人をドナたちが運んでくるそうよ。明日の朝にはこちらに着くと思うから、明日も大変になると思うわ。早く寝た方がいいわね」

 

「皆、無事ですか?」

 

「もちろんよ。冒険者の中には傷を負った者もいるらしいけれど、命に関わるほどではないみたいよ。カルロもジル、ボンドン、ドナもとても元気だそうよ」

 

 お母様が明るく答えてくれたので、間違いないだろう。

 

 翌朝7時には、ドナとボンドンが山賊たちを連れて帰ってきた。ドナもさすがに疲れたのだろう。到着するとすぐに眠ってしまった。ボンドンもまた、その隣でぐっすりと眠っている。

 

 お父様とジルは大丈夫だろうか? かなり疲れているはずだし、ドナたちを見てもすごく大変だったのが見て取れる。

 

 2時間後に15人を送り終えた頃、再びお父様から連絡が届いた。「戦力不足のため退避する」と綴られていた。

 

 翌朝10時過ぎに一同は戻ってきたが、かなり傷を負っている者が多く、私は心配で足の震えが止まらなかった。マッドが私を支え、「大丈夫、大丈夫」と繰り返してくれた。

 

 お父様とジルが共に歩いてくるのを見てホッとしたと思ったら、涙があふれてきた。お母様も隣で泣いていた。

 

 すると、ドナが走ってきてジルに飛びつき、泣いている?

 

 え、どうして……そうだよね、仲間だから当然だよね。

 

 そんな私を見て、「気づいていないのはキャロルだけだよ」マッドはそう言って、優しく笑った。私はその意味が分からず、ただ首を傾げることしかできなかった。リオが私の頭をポンポンと叩きながらつぶやいた。

 

「さすが、我が妹だ」

 

 えっ?

 

 よく分からないけど皆が元気に笑っているので本当に良かった。

 

 きっと明日も、忙しいだろう。それでも、こうして大切な人たちがそばにいてくれるなら、どんな困難も乗り越えられるはずだ。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ