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奴隷商との出会い マッド視点

マッド視点

 

 その日、俺たちは川のほとりにいた。

 リオは慣れた手つきで釣りをし、キャロルは楽しそうに蜘蛛の巣を集めている。俺は、先日オークを狩った時に手に入れた両手剣の修理に没頭していた。その剣は、使い込まれてはいるものの、かなりの上物だ。しばらくはこれで十分だろう。

 

 それぞれが好きなことをしているように見えるかもしれないが、そうではない。ここでスキルを磨くことは、何よりも大切な、仲間のためになるからだ。俺は、本当に良い仲間に恵まれたと、心からそう思っている。

 

 この世界に来た時、俺は多くのスキルと恵まれた能力を持っていた。だから、一人でも生きていけると思っていたんだ。街まで一緒に行ったら、その後は別れるつもりでいた。煩わしい人間関係は苦手だったし、やたらと頼り過ぎてくる奴らは好きになれないと考えていたからだ。

 

 だが、キャロルやリオと一緒に過ごす日々は、本当に充実していて、楽しくて仕方がない。二人に頼りにされるのは、むしろ嬉しくて、張り切ってしまうほどだ。もしかしたら、あの天界の待合室での居心地の良さも、影響しているのかもしれない。

 

 あの時、心細そうにしている小さくて可愛らしい魂を見た時、俺は、何故だか強く「守ってあげたい」と思ったんだ。側に寄ると、その魂は俺に寄り添うようにして、白く輝き出した。あの瞬間、俺の心も温かい気持ちになったのを覚えている。その直後、リオの魂が隣に飛んできて、俺たち三人が集まったんだ。リオの魂は少し疲れていて不安定だったが、しばらくすると、少しずつ白い光を放ち、安らいだように見えた。

 

 俺はもう、一人では生きていきたくない。もし一人になったら、きっとおかしくなってしまうだろう。キャロルとリオ、この二人だけは、命に変えても必ず守ってみせる。そうすることこそが、俺自身の命を守ることに繋がるだろうから。

 

 そんなことを考えていると、地図に人の気配があるのが見えた。この場所は馬車が通れる街道から比較的近いから、人がいること自体は不思議ではない。だが、その気配が停止しているのが気になった。念のため、俺はすぐにキャロルを連れて、リオのいる川へと急いだ。

 

「リオ、俺は様子を見てくる。キャロルとここで待っていてくれ」

 

 事情を説明して一人で行こうとすると、二人は「自分たちも行く」と言って聞かない。仕方なく、三人で様子を見に行くことにした。近くの茂みに身を潜め、用心深く眺めて見ると、二台の馬車がぬかるみにはまって動けなくなっているようだった。護衛と見られる三人の屈強な男たちも一緒になって馬車を押しているが、びくともしない。

 

 俺は、二人をここに残して助けに行こうとした。だが、キャロルが俺をじっと見つめて言った。

 

「マッド、すぐに一人で何とかしようとしないで。待つ方だって、気が気じゃないんだからね」

 

 リオも頷く。

 

「キャロルの言う通りだよ。僕だってそこそこ戦えるんだし……あっ、でもキャロルはここにいた方がいいかな」

 

「なんでよ! 私だって少しは戦えるわよ!」

 

 キャロルが不満そうに口を尖らせた。

 

「分かったよ。分かった。戦いに行くわけではないけど、俺とリオで行くことにする。キャロルはここにいて、何かあったらここから弓で応戦してくれると助かる。それと、あの護衛三人は俺たちよりもかなり強いことは頭に入れておいてくれ」

 

 俺はそう言って、リオを連れて馬車の方へ向かった。

 

「何かお困りですか? お手伝いできることはありますか?」

 

 俺が声をかけると、一行の主人らしき男が馬車から顔を出した。鑑定スキルでその男を見ると、「奴隷商人」と表示された。瞬間、俺は立ち去ろうと思った。だが、その時、一人の女性が馬車から顔を出した。

 

「お父さん、お願いしましょう。このままではここで野宿することになってしまうわ」

 

 彼女の言葉に、奴隷商人はため息をついた。

 

「そうだな。悪いが二人共、手伝ってもらえないだろうか。ぬかるみにはまってしまい、往生しているんだよ」

 

「いいけど、おじさんたちが一旦馬車から降りれば動くんじゃないの?」

 

 リオが最もなことを口にすると、奴隷商人は大笑いした。

 

「アッハッハ! その通りだ! 私もそう思ったんだがね、護衛が『駄目だ』と聞かなくてね」

 

 そう言うと、二人が馬車から降りてきた。俺とリオ、そして奴隷商人も加わり、馬車を押すと、あっという間にぬかるみから脱出できた。続いてもう一台の馬車に向かうと、奴隷商人が中にいる者たちを順番に外に出した。どうやら奴隷と思われる者たちのようだ。この馬車も先ほどと同じように押すとすぐに動き出した。もう大丈夫そうなので、俺たちは戻ろうとすると、奴隷商人に呼び止められた。

 

「本当に助かったよ。私は王都で店を出している奴隷商人だ。もちろん、きちんと国から許可をもらい、健全な営業をしている。君たちを馬車で送ることはできないが、お礼をしたい。ここに王都の店の住所と店舗名が載っているから、王都に寄った際はぜひ店に寄ってくれ。それと、こんな物で申し訳ないが、受け取って欲しい」

 

 そう言うと、彼は認識阻害用の指輪二個と、ブローチ一個を差し出した。キャロルは隠れているようで隠れていないから、彼女の分も用意してくれたのだろう。

 

「そのブローチは、私の妹へのお土産用に買った物の一つなのよ。高価ではないけれど、とても珍しい石でできているのよ。控えめなデザインだから、使いやすいと思うわ」

 

 奴隷商人の娘が、優しい声で説明してくれた。

 

 キャロルは草むらから出てきて、深々と頭を下げた。礼を言うと、奴隷商人は別れ際に、改めて俺たちに話しかけてきた。

 

「君たちは良い子だが、世間をあまり知らないようだ。この世には悪党が多いから、十分に気をつけるんだよ。特に君たちは見目がとても良い。闇商人に目をつけられないように気をつけた方がいい。これらは少しだけだが、顔を覚えさせない効果がある物だから、君たちの役に立つだろう。後は、奴隷でもいいから、20歳くらいまでは大人が必要だろう。この国では15歳が成人だが、私からしたら子供も同然だよ」

 

 最後に奴隷商人はそう言い残し、馬車に乗って去って行った。

 

 その晩、俺たちは初めて、奴隷について話し合った。今までは、あえてこういった話題は避けてきた。

 

「奴隷商人って言っても、いろいろいるのね。奴隷っていくらぐらいするのかしら?」

 

 キャロルが不思議そうに問いかけると、リオが静かに答えた。

 

「人に値段があるって、良いことじゃないけど、それが現実なんだよね」

 

 俺は今日の出来事をきっかけに、一つの目標を立てた。二人に話すと、いつものように力強い返答が返ってきた。

 

「俺は今日の奴隷商人が言ったことは、的を射ていると思ったんだ。俺たちはこの世界を知らなさすぎるし、これからいくら経験を積んでも、足りない面があると思う。魔獣よりも、人の方が恐ろしいとも言えるかもしれない。だから、お金を貯めて、常識的な知識のある奴隷を買うのはどうだろうか? もちろん、奴隷扱いはしないつもりだし、目上の人として尊敬もするつもりだ」

 

 俺の提案に、キャロルが笑顔で頷いた。

 

「私は良いと思うわ!」

 

 リオもすぐに賛成する。

 

「僕も賛成だよ!」

 

 もらったブローチはキャロルが、白っぽい指輪はリオが、そして藍色の指輪は俺がもらった。

 

 そして翌日、俺たちはゆっくりと過ごし、そのまた翌朝から、ルルソン村へと旅を再開した。


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