山賊 マッド視点
マッド視点
夕闇が辺りを覆い、森の奥深くで野営をすることになった。テントと馬車に俺たち8人が身を寄せ、俺とボンドンの2人が見張りをすることになった。ピッピが張ってくれた結界のおかげで、ひとまず侵入の心配はないはずだが、魔法の世界じゃ何が起こるかわからない。警戒は怠れない。
長時間御者を務めて疲れているジル、レティ、リオには休んでもらう必要がある。見張りは午前4時頃に父さんとキャロルが交代してくれる手はずになっていた。
俺がリオの海釣りの本を読みながら見張りをしていると、ボンドンが話しかけてきた。
「マッド様も海釣りをされるんですか?」
「いや、暇だから見てるだけだよ。ボンドンは興味があるのか?」
「最初は全く興味がなかったんです。でも先日、初めて大物を釣り上げた時に、もう震えが止まらないぐらい感動してしまって。だから海釣りも楽しみなんです」
「リオに釣り仲間ができて、俺は嬉しいよ」
そんな会話を交わしているうちに、夜中の3時を迎えた。静寂を破るように、俺の地図上に10人の赤とオレンジの反応が突然表示された。俺は心臓が跳ねるのを感じながら、即座にボンドンに皆を起こすよう指示した。ボンドンもただ事ではないと察したのか、素早く行動に移った。リオはスノウに起こされたらしく、すぐに俺の元へ駆け寄ってきた。反応はあっという間に20人以上に増え、まだ増え続けているようだった。
父さんが俺に尋ねた。
「相手は何人だ?」
「今は30人ほどですが、もっと増えるでしょう。結界には入れないようで、俺たちを取り囲んでいます」
父さんは少し考え、皆に指示を出した。
「わかった。二手に分かれて少しずつ倒していこう。マッドはジルと、俺はリオとボンドンと行く。ドナとレティはここを守ってくれ。キャロルは可能なら、ここの木の上から援護を頼む。ミランは近くの村か町に連絡を。それと、マーカスにも連絡を頼む」
父さんの指示で、皆が素早く動き出した。
村からも遠く離れた何もない場所に30人以上もいるということは、近くに奴らの巣があるんだろう。地図を広げると、それらしき場所がいくつか見えた。俺が父さんに伝えると、「了解した」と返事が来た。
俺とジルは父さんたちとは反対方向へ向かった。結界の外に5人のグループがいる。俺とジルはまずその5人に狙いを定め、向かっていった。相手は子供だと油断していたらしく、簡単に倒すことができた。キャロル特製の薬を飲ませてしまえば、普通の人間は丸1日起きない。すぐに次の奴らが襲ってくるが、同じことだ。俺は自分がかなり強くなっていることを改めて実感した。何より、ジルの盾スキルとは相性が良く、非常に戦いやすい。
キャロルの矢も以前より遠くまで飛ばせるらしく、さっきから俺たちの頭上を飛んでいく。
地図上には残り10人ほどで、父さんたちも問題なく倒せているようだった。
次の集団には2人の強敵がいた。1人は俺たちと同じくらいだが、もう1人はさらに強い。ジルの表情から、俺の内心を察したのか、相槌を打った。覚悟を決めて2人で向かい、ジルが強い敵の相手をしている隙に、俺は手早く周りの4人を倒した。
2対2になったが、相手の方が力は上だ。久しぶりの感覚に、俺の気持ちは高ぶっているのか、恐怖心はなかった。ジルの盾スキルは、この戦いの中でも上がっているんだろう。さっきよりも動きが速いし、攻撃まで仕掛けている。俺だってまだまだ伸びるはずだ、負けてたまるか。
同等の力を持つ敵がよろめき始めた。スタミナ切れか?向こうから敵の仲間が走って応戦しようとするが、キャロルの矢がそれを食い止める。俺たちのスタミナは全く問題ない。相手の顔には焦りが見えてきているが、さすがに簡単には倒せない。
なぜかドナが勢いよくこちらに走ってきた。
「早く倒さないから、キャロル様が心配して私をよこしたんですよ」
そう俺たちに言いながら、ドナはあっという間にスタミナ切れの敵を倒してしまった。
えっ、俺たちの立場はどうなるんだ?ドナは一人の敵をあっという間に倒すと、その隙のなさに俺は息をのんだ。彼女は倒した相手の口を無理やりこじ開け、素早く薬を飲ませる。その一連の動作は、迷いなく、そして驚くほど速かった。もしかして、ドナこそが最強なのではないか、と俺は戦慄した。
「キャロルは大丈夫なのか?」
「モドキとピッピが守っていますから大丈夫です。それより、その大きいの私が倒してもいいですか?」
俺が頷くと、ドナは目を輝かせ、まるで獲物を狩る大型魔獣のようだった。3対1になり、相手の顔は青ざめている。既にドナには敵わないと悟ったのか、両手を上げて降参してきた。
「えーー、これから面白くなるのに!」
ドナが不満そうに叫ぶと、相手は自ら薬を要求し、ためらうことなく口にした。
その後もドナは俺たちと共に戦った。ドナはあっという間に向かってくる敵を簡単に倒していく。俺は戦いながら風魔法を試してみたりした。
辺りが明るくなってきた頃には、賊の姿はどこにもなかった。俺は馬車で山賊たちを運ぶため、1台の馬車を用意し、眠っている43人の山賊たちを乗せた。馬車に馬車を繋ぐことになるので、軽減魔法でかなり軽くしたつもりだ。母さんが、一番近くのギルドのある町には既に連絡済みだと教えてくれた。
マーカスさんにも連絡したので、王宮にも連絡が行くだろうとのことだった。この辺りには3箇所の山賊の巣があることも既に連絡をしたと父さんが言っていたので、冒険者が全てを掃除してくれるだろう。
今回は御者の腕を必要とするため、一番上手いドナにお願いをした。キャロルはもう1台の御者を自ら進んでやると言うのでお願いすることにした。正直言って、他の奴らはかなり疲弊していたからな。マリアとレティも父さんたちの方へ応戦に行き、共に戦っていたようだった。
キャロルに問題ないかを聞くと、「マッド、お疲れ様、私はまだまだ元気よ」と言って、俺にクリーン魔法を使ってくれた。俺にとって、キャロルが笑ってくれることが、何よりも心を癒してくれる。俺は優しく彼女の頭を撫で、いつものようにそっと額にキスをした。彼女の温かさが、この戦いの疲労を忘れさせてくれた。
43人のうち、キャロルが弓で倒したのは13人もいたようだ。
もしかしたら、ドナの主人であるキャロルが一番最強なのではないかと、俺は思わずにはいられなかった。




