幽霊屋敷と店舗の購入 マッド視点
マッド視点
屋敷の浄化を終えると、ジルとボンドンはすぐに更地にする申請のため役所へ向かった。俺たち残りのメンバーで部屋を見て回ったが、どの部屋も、壁は剥がれ落ち、床板は腐りかけていた。まるで、時が加速したかのようにひどく朽ち果てており、100年間も放置された空き家のようだった。書物で読んだ「月魔法には時間を加速させるものがある」という記述を思い出し、おそらくその影響だろうと推測した。
「スタークとルートは、あの逃走資金を持ってどこへ向かったんだろうな?」
俺がふと呟くと、マリアが答えてくれた。
「私が魔法で当時の様子を再現してみましょうか?ただ、再現できるのはほんの数秒ですし、知りたい情報が再現されるとは限りませんが……」
「マリア、助かるよ。僕も二人の行方は気になるから、是非頼むよ」
リオが言うと、マリアは嬉しそうに頷き「ではやってみますね」と言い魔法を放った。
階段の近くで、二人の男が言い争っている姿が見えた。まるで事件の夜に自分たちがその場にいるかのようだ。近くまで行けば触れられそうなほどリアルだった。
「ルート、もう頼むから俺を解放してくれ」
「何を今さら言ってるの。今まで全部スタークがやったんだよ」
「お前が俺にやらせてるんだろう、俺はこんな事したくないんだ、もう嫌だ、気が狂いそうだ」
「へえ、いいよ、好きにすれば。僕は隣国に行くから、お金は全部僕がもらうね」
そこで二人の姿が急に消えるのと同時に、マリアがふらついた。リオがすぐにマリアを支え、レティも心配そうに傍に寄り添う。この魔法はかなりの魔力量を使うのだろう。マリアの魔力量は俺やリオ、キャロル程ではないが、俺が今まで鑑定した人たちの中では飛び抜けて多い方だ。
マリアが再現してくれた映像を見ると、やはり主犯格はルートの方だ。ルートは隣国へ行くと話していた。ではスタークはどうしたのだろう。あのルートという男は、見たところ戦闘向きではない。彼は、自分を守る盾としてスタークを連れて行ったに違いない、と俺は推測した。
この場所は立地はいいが、俺たちはここでの出来事をあまりにも知りすぎたから、店舗を開くのは俺たちには無理だろうな。
皆で話し合った結果、最終的に更地にした後は、ここを売ることに決めた。感謝状と金一封を受け取り、800万リラで役所に買い取ってもらえたので、良い結果だったと思う。
温泉付きの土地を購入する資金も準備できたので、ジルとボンドンには手続きに行ってもらい、残りの者で店舗用の土地を再び探すことになった。
「マッド様、さっき屋台のおばちゃんが、お店をやるのに良い場所があるって教えてくれました。行ってみませんか?」
ドナが目を輝かせながらそう言うので、俺たちは言われるがままについて行った。
ヒュムスカ街の中心からは少し離れているが、魔法学院からは近いので、俺たちにとっては好都合な場所だと思った。
「なんだかフリーマーケットみたいでワクワクするわね」
キャロルが楽しそうに言うと、ドナも同意した。
「キャロル様もそう思いますか?個性的な手作りの品が多いから面白いですよね」
確かにここは小さな店が密集していて、フリーマーケットを連想させる。初めて商売を始める俺たちには、良い場所に思えた。ダンジョンや魔の森に近いため、客層は冒険者が中心になるだろうが、学院にも近いので学生向けの商品も売れそうだ。そして何より、土地の面積が小さいから土地代が安い。魔法学院の生徒がこの土地を購入することも多いので、この時期にはいつも空きが数ヶ所できるらしい。各自が好きな店舗を持つというのも面白いかもしれないと、俺はふと思った。
リオ、キャロル、マリアに聞いてみると、三人とも賛成してくれた。
「面白そうだね。僕は賛成だよ」リオ。
「私もやってみたいわ」キャロル。
「考えるだけでも楽しそうね」マリア。
三人とも賛成してくれたので、ジルたちにも聞いてみることにした。
「生産スキルは持っていませんが、ぜひやってみたいですね」
ジルはそう言うと、自信ありげに笑った。もうすでに構想を練っているようだった。
「僕は生産スキルを持っているので、それを活かして頑張ります」
ボンドンも賛成のようだ。
「レティとドナはどうだ?」
「私には少し難しいですね。帳簿管理や在庫管理には自信がありますが、商売となるとあまり自信がありません」
レティは完璧に仕事をこなすが、確かに商売には向いてなさそうだ。
「マッド様、私も無理です。体を動かすのは得意だけど、頭は使えません」
ドナが言うと、皆が頷いた。
「一人にさせるのは危険ですので、俺がドナと組みます」
ジルが提案した。
「えーー、私はキャロル様と組みたいです。ジルと組んだら毎日こき使われます!」
ドナが文句を言うと、皆から笑いが漏れた。ジルとドナはいつも通りのやり取りだ。
「それなら私はボンドンと組みましょう。トップの売上を叩き出してみせますわ」
レティが宣言した。
「いや、僕は一人でのんびりとやりたいんだけど……」
ボンドンはレティには逆らえないだろう。俺は「ボンドン、頑張れ」としか言えなかった。
翌日、6店舗分がまとまって購入できる場所がないかを役所に尋ねると、担当の者が教えてくれた。
「少し端になりますがこの辺りでしたら可能です。ただ一本小さな道に入りますので、店を出しても目立たない為に誰も購入した事がない場所です」
逆にそれも俺たちには合っているように思えたので、そこに迷わず決めた。立地が良くないため土地代もさらに安かったので、その辺り一帯を全て購入することにした。かなりの広さがある。
各自が売りたいものを相談し、役所に届け出た。それぞれが自分の得意分野や興味を活かした店を選んだようだ。
* マッドの店: 中古の武器、砥石、ピッケル
* リオの店: 魚料理(干物中心)、木でできた武器、釣り竿
* キャロルの店: 回復薬、解毒薬、傷薬、薬膳料理
* マリアの店: おにぎり、惣菜
* ボンドンとレティの店: 素朴な家具屋
* ジルとドナの店: 素材の売り買い
リオとキャロルは最近になって新しいスキルが表示された。
* リオ: 魚料理
* キャロル: 薬膳料理
二人が普段からよく作っていた料理だが、スキルが表示されてからはさらに美味しくなったので、間違いなく売れるだろう。
使用目的の変更は1ヶ月前に申請すれば何度でも可能だというので、残りの土地に関しては牧場と家屋として登録を済ませておいた。
契約後、俺たちは馬車に乗り、温泉のある土地へ向かった。今日はそこにテントを張り、寝る予定だ。
そして、久しぶりに俺はキャロルの隣で寝ることにした。キャロルは最近になって俺をようやく意識するようになったと思う。真っ赤な顔をしたキャロルが可愛くて、ついついからかいたくなってしまう。
だが、すでにキャロルは夢の中のようだ。俺は、すやすやと眠るキャロルの口元に軽くキスをしてから、安堵の息を吐いて目を閉じた。彼女の温かい寝息を感じながら、俺も深い眠りへと落ちていった。




