魔法学院の試験
今日は、待ちに待った魔法学院の入学試験の日だ。
私たちは特例として魔法陣の使用を許可され、すでに全ての試験を終えていた。事前に提出した書類審査と水晶玉検査を通過した者だけが試験会場へ進み、筆記試験と実技試験に臨む。合否はその日のうちに発表され、上位10名には何らかの奨学金が与えられるという。
結果は私たちの期待を上回るものだった。
全員が優秀な成績で合格し、マッドとマリアは学費全額免除、私、リオ、ジル、レティは半額免除、そしてボンドンとドナも一部免除となり、それぞれが素晴らしい結果を手に入れた。
試験後、私たちは学院から馬車で2時間の距離にあるヒュムスカ街へ向かうことになった。そこで3泊する予定だ。この滞在中に学院へ通うための土地を購入し、もし可能であればヒュムスカ街にも小さな店舗を構え、商売を始めたいと考えている。
入学手続きはジルとレティが代表して進めることになっており、今日中には目処が立つだろうと二人は話していた。レティはまるでジルの女性版のように何でも完璧にこなす優秀な人物だ。きっと土地の購入手続きも、この二人が担当することになるだろう。
ドナの御者としての腕前は見事だった。揺れもなく、通常は2時間かかる道のりを、まるで空を飛んでいるかのような速さで駆け抜け、私たちはあっという間にヒュムスカ街に到着した。皆、そのスピード感に興奮を隠せない様子だった。
ヒュムスカ街はミシュランほど大きくはないが、街の通りは冒険者や学生でごった返していた。彼らが交わす賑やかな声や、屋台から漂う香ばしい匂いが、街全体の活気を物語っていた。この街の特徴は、近くにダンジョンと魔法学院があるため、住民のほとんどが学生か冒険者であることだ。そのため、貴族が利用するような高級店は少なく、宿や飲食店も比較的安価なようだ。
私たちが泊まる宿は、朝食付きで一部屋7000リラ。本当は4部屋取りたかったのだが空きがなく、2部屋しか確保できなかった。試験時期は毎年混み合うらしく、この時期は特に宿が取りにくいとのこと。結果、ボンドンとジルは馬車で寝ることになり、女性陣は一部屋のそれぞれのベッドに二人ずつ寝ることになった。
街に到着すると、ボンドンとドナはすぐに役所へ向かった。ジルから資料集めなど、できることを進めておくように指示されていたようだ。マリアは「あの二人で大丈夫かしら?」と心配していたが、今回は時間がないため、ジルも彼らに頼らざるを得なかったのだろう。私も正直、少し心配だった。マリアと私がついて行こうとしたが、マッドとリオに「苦手でも自分たちの仕事だ」と諭され、断念した。
残った私たち4人は街を見て回った。冒険者向けの店が多く、置いてある商品の性能も価格も様々だった。例えば、ある店では回復薬が1000リラなのに、隣の店では同じ物が1500リラで売られている。それなのに、値段の高い隣の店の回復薬の方がよく売れているのだ。マッドに尋ねると、「同じように見えても性能が少し違うんだ。冒険者は命に関わる物だから、評判を聞いて慎重に買い物をするんだろう」と教えてくれた。商売とは奥が深いと改めて感じた。
屋台で食べ物を購入し、私たちは馬車に戻った。馬車置き場の牧場が待ち合わせ場所になっている。しばらくすると、ジルとレティが現れた。入学手続きは予想以上に早く完了したそうで、学院近くの土地に関する資料集めや面倒な手続きについても調べてくれていた。さらに、候補になりそうな土地の下見まで行ってくれたらしい。有能な人物が二人いると、倍速どころか三倍速で物事が進むようだ。
マッドとリオは真剣に話を聞き、土地の候補を二つに絞ったようだ。一つは学院から馬車で20分の場所にある肥沃な土地で、広さも十分にある。もう一つは学院から40分かかるが、ヒュムスカ街に近いため不便ではない。土地は狭いが、温泉を引けるらしい。この土地を購入するなら、隣接した土地も購入した方が良いが、その場合は予定よりもかなり費用がかかってしまうとのこと。馬もいるため、広い土地でなければ困るだろうと、私たちは最初の候補地に傾きかけた。しかし、温泉には私も非常に興味があった。
ボンドンとドナが戻ってきたのは夜の8時を過ぎていた。お腹を空かせているようなので、まずは残りの屋台料理を食べてもらってから話を聞くことにした。
ジルはドナたちが役所から持ち帰った資料を真剣な表情で見て頷いている。それから、ジルはマッドに資料を見せながら説明を始めた。
そして、静けさの中、ボンドンが切り出したのは、幽霊屋敷の話だった。彼の言葉に、皆の視線が集中した。
「1年ほど前、中心街に建つ屋敷で惨殺事件があったそうです。中心地からも近く、かなり広い土地なので、そんな事件があった後もすぐに売れたそうなんですが、幽霊が出たと言ってすぐに手放されたそうです。それからは立て続けに同じ理由で売りに出されて、今では誰も買おうとしないんだとか。一度更地にしようとしたらしいんですが、解体しようとすると建物の中から鳴き声が聞こえてくるらしく、恐ろしくて断念したみたいです。そんな理由があるので、現在の売値は更地代金込みで100万リラだそうです」
「私たちはその幽霊屋敷を先ほど見てきました。街中から一本細い道に入ったところに建つ、大きなボロい屋敷でしたよ。1年前はこれほどボロくはなかったようですが、これも幽霊のせいだと噂になっています。とにかく街の景観を損なうので、早く何とかしたいらしいです」と、ドナが補足した。
「モドキの反応はどうだった?」ジルが問いかけると、ドナはハッとしたように頭を抱えた。「あっ、そういえば聞いてない……」
それを聞いたジルはいつものように頭を抱えていた。




