スノウとの出会い リオ視点
リオ視点
この世界に来て一年以上が過ぎた。僕たちはまだ、この深い森の奥しか知らない。
本当は、この快適な場所で、ずっと三人で過ごしていたい。けれど、この世界についてもっと知らなければ、いつか来るかもしれない危険から、大切な二人を守れない。
そう自分に言い聞かせ、僕たちは、マッドが地図で見つけた小さな村を目指して旅立つことにした。あと一時間も歩けば、この森を抜けられるはずだ。
歩きながら、僕は天界の待合室でのことを思い出していた。周りには、ぼんやりとした魂の光が数えきれないほど漂っていた。恐らく僕自身も、彼らと同じように、そこでさまよっていたのだろう。
様々な色をした玉のような光がふわふわと浮遊している。その中には、吐き気がするような甘ったるい匂いや、きつい香水のような匂い、そして汚物のような不快な匂いを放つものまであった。本当に気持ちが悪くて、僕はそんな嫌な光の玉を避けるように、ただふわふわと漂っていた。
その時、目に飛び込んできたのは、信じられないほどに強く、そして美しい光だった。僕はその光に、まるで磁石に引き寄せられるように飛んでいった。強い光のすぐ隣には、小さくて白い、可愛らしい光の玉が、とても心地よさそうに輝いている。この二つの光からは、まるで自然の中にいるような、リラックスできる爽やかな香りと、草花のような素朴な香りがした。妙に安心できて、僕はその二つの光の側にずっと居たいと、あの時から強く願っていたんだ。
この世界に来て、マッドとキャロルに出会えた時、僕はどれほど安心したことだろう。人の形になった今でも、二人の側は、やっぱり居心地がとてもいい。だから、もう少しの間、いや、できればずっと、この旅路を三人で共に進んでいけたら嬉しいと、僕は心から願っている。
そんなことを思い出していると、キャロルが僕に話しかけてきた。
「ねえ、リオ。夕飯は魚が食べたいんだけど、お魚まだある?」
キャロルは魚が大好物だ。彼女がそう言うと、僕もマッドも、つい頬が緩んでしまう。
「あるよ。でも、川が近くにあれば、少し釣りをしたいな。マッド、近くに川はあるかな?」
僕が尋ねると、マッドが地図を確認した。
「俺も魚食べたいから、遠回りになるけど行ってみようか?30分ぐらい歩けば着くと思うから、今日はその辺りで野宿にしようか」
キャロルの魚好きのおかげで、僕の「釣り」スキルはどんどん上がっている。いつか海釣りもしたい、と言った時のキャロルの目は、本当に最高に可愛かった。僕にとってキャロルは、ずっと見守りたい大切な妹のような存在だ。そしてマッドは、僕の前を歩いてくれる道しるべ。同い年なのに、僕よりずっと頼りになる兄貴のような存在だ。
一時間で森を抜けられるはずが、今日もまた森の中で野宿になった。こうなると、目標の小さな村には、いつになったら着けるか分からない。
焼いた魚を食べながら、今後の予定を話し合っていると、マッドが地図を見ながら僕たちに声をかけてきた。
「ここから2時間くらい歩くと、鉱石が取れる洞窟があるみたいなんだ。少し強そうな魔物がいる気配がするけど、攻撃しなければ襲ってこない気がする。行ってみないか?」
鉱石と聞いた途端、キャロルは目を輝かせた。彼女の「採掘」スキルが、もう行く気満々だと伝えてくる。
翌朝、僕たちは昨日話していた洞窟に向かった。獣道で上り坂だったため、3時間ほどかかってようやく洞窟の入り口が見えてきた。僕とキャロルは近くの草むらに潜み、マッドが慎重に様子を見に行ってくれた。
しばらくすると、マッドが戻ってきて僕たちに説明してくれた。
「蛇の住処らしい。何もしなければ襲ってこないようだから、行ってみよう」
マッドの言葉通り、洞窟に入っても、蛇たちが襲ってくる気配は全くない。それどころか、僕たちに興味があるようで、何匹かの蛇が寄ってくる。不思議なことに、全く怖くはなかった。キャロルが、まるで彼らと会話するように、掘ってもいいかと尋ねている。すると、一番大きな白蛇が、まるで頷いたかのように見えた。キャロルが掘り始めたので、彼女にもそう見えたのだろう。
その時、僕の近くにいた小さな白蛇が、まるで話しかけるような仕草で、少し奥の洞窟に来るように促しているように感じた。僕はマッドとキャロルに視線で合図し、三人でその場所まで進んだ。キャロルが再び土を掘り始めると、そこから採掘できたのは、強く輝き、美しい光を放つ鉱石ばかりだった。マッドは「鑑定」スキルで調べてみたが、まだレベルが足りないのか、何も分からなかったらしい。それでも、その美しさは僕たちを魅了した。
30分ほど経ち、僕たちは蛇たちに深く礼を言って外に出ようとした。すると、先ほどの小さな白蛇が追いかけてきて、僕の肩まで登ってきた。首を傾げると、洞窟の奥から大きな白蛇が出てきて、僕の頭の中に直接、響くように話しかけてきた。
「その子は私の記憶を引き継ぎ、聖蛇となるでしょう。もう少し力をつけたら、貴方と共に生きていきたいと言っていますが、いかがしますか?その子にはまだ多くの力はありませんが、貴方と共に強くなっていくでしょう」
僕が小さな白蛇を見ると、まるで全てを訴えかけるかのように、じっと僕を見上げてくる。その真っ直ぐな瞳に、僕は心が震えるのを感じた。マッドとキャロルを見ると、二人は大きく頷いてくれた。
僕は、迷うことなく答えた。そして、白蛇にスノウと名付けた。スノウがもう少し大きくなったら、共に生きる約束をして、僕たちは洞窟を後にした。
「マッド、ここからだと、ルルソン村よりルルカラ村の方が近くない?」
僕はマッドに尋ねてみた。地図を見る限り、ルルカラ村の方が明らかに距離が短い。
「ああ、ルルカラ村の方が近い。でも、どうしてだろうな。俺は、どうしてもルルソン村に先に行きたいんだ。直感という訳ではないが、魂が強く、そこへ行くべきだと感じている」
マッドの言葉には、確信にも似た響きがあった。彼の「直感」が、彼の魂の奥底で何かに導かれていることを、僕は何となく理解できた。
「そう感じるのであれば、ルルソン村へ行こう。村まではあとどのぐらいかかるの?」
僕の問いに、マッドは地図を改めて確認する。
「寄り道しなければ10日くらいじゃないかな。リオ、魚はまだある?」
キャロルもそうだけど、マッドも魚好きなんだよね。まあ、僕もだけど。
「うーん、補充した方がいいと思うな。今度釣ったら、キャロルの時間停止の空間にも大量に入れようか?」
「そうだな。じゃあ2日ぐらいは釣りに費やすとして、余裕を見て2週間後の到着を目標にしようか」
「了解したわ」
キャロルも笑顔で答える。
「僕も賛成だよ」
僕たちはそんな話をしながら、順番に就寝した。夜空には満点の星が輝き、新たな旅への期待と、仲間との確かな絆を感じさせてくれる、静かな夜だった。