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馬を求めて 2

 早朝、私たちは南の方にある、きらめく水辺へと向かった。

 

 ドナは朝から信じられないほど元気で、楽しそうに歌を口ずさんでいる。それも、ただ歌うだけじゃない。「今日の朝ごはんはおいしいねー!」「キャロル様、今日も最高ーイエーい!」なんて、思ったことをそのまま歌詞にして、まるで得意げな吟遊詩人のように歌い上げている。

 

 その歌声は、まだ眠くて半分夢心地のままマッドに手を繋いでもらいながら歩いていた私にも、はっきりと聞こえてきた。同じように眠そうなのはリオだ。彼はいつものことだけれど、本当に朝に弱い。その背中を、ボンドンが「頑張って、リオ様!」と一生懸命押しているのが、なんだか滑稽だった。

 

 迷うことなく先頭を歩いているのはジルだ。彼は昨日のうちにマッドとリオと打ち合わせをして、道順をほぼ完璧に頭に入れたらしい。今日はインディもランランも一緒に来てくれている。彼らにとっては、まるで楽しい散歩のようなものなのだろう。インディが軽やかに森の中を駆け、ランランがその周りをちょこまかと跳ね回る姿を見ていると、自然と心が和む。

 

 一時間ほど歩くと、息をのむような幻想的な景色が目に飛び込んできた。木々に囲まれた透き通った水辺に、朝陽が降り注ぎ、キラキラと宝石のように輝いている。その美しさに、私の眠気は一瞬で吹き飛んだ。この光景を、心の中にしっかりと刻み込みたかった。

 

 この美しい場所で、私たちは休憩を取ることにした。しばらくすると、焦茶色の馬がこちらをじっと眺めているのをマッドが先に気づいた。マッドが言うには、あれはインディたちと仲の良い魔馬らしい。

 

「インディ、ランラン、遊んできてもいいぞ」

 

 マッドがそう言うと、インディとランランは嬉しそうに焦茶色の魔馬の方へ駆け寄っていった。まるで旧友に再会したかのように、彼らは楽しそうに鼻を寄せ合っている。

 

「魔馬って、種馬になった魔馬のことかな?」

  

 リオが聞くと、マッドは少し考えてから答えた。

 

「違うと思うぞ。種馬になったのは真っ黒な魔馬だったと言っていたからな。この辺りには魔馬の他に、ハーフも多そうだから、俺たちの相性の良い馬が見つかるかもしれない」

 

 それを聞いたドナが、不思議そうにマッドに尋ねた。

 

「マッド様は、先ほどの焦茶色の魔馬ではだめなんですか?」

 

「いや、だめってわけじゃないんだ。ただ、魔馬は契約者以外の言うことは聞かないと言われているからな。俺としては、ここにいる六人、つまり俺たち全員の言うことを聞いてくれる馬が良いんだ」

 

 そんな話をしていた時、一頭の野生の馬が水を飲みにやってきた。普通は人がいれば近づいてこないものだが、この馬は私たちを全く気にしないようだ。野生馬かどうかは私には分からないけれど、濃いグレーで少し大きめな、堂々とした美しい馬だった。マッドは、その馬にゆっくりと話しかけ始めた。彼の声は、まるで優しく語りかけるように、穏やかだった。

 

「おいで、お前は賢い馬なんだな。もう少しだけここで休憩させてもらってもいいか?」

 

 馬が良いと言っているのか、嫌だと言っているのか、私には全く分からない。けれど、そのグレーの馬は、まるでマッドの言葉を理解したかのように、彼に近づいてきて、静かに頭を下げた。その様子に、私はただただ驚くばかりだった。

 

 マッドが馬の頭を優しく撫でていると思ったら、次の瞬間にはひらりと馬に飛び乗っていた。その動作は、まるで最初からそうするつもりだったかのように、何の迷いもなかった。

 

「少し走ってくるよ。しばらくここで待っててくれ」

 

 マッドが言うと、リオが呆れたような声で返事をした。

 

「了解。って、速いな!」

 

 マッドは馬に乗って駆け出し、あっという間に視界から消えてしまった。ものすごい速さだ。残された私たちは、ただその速さに呆然と立ち尽くしていた。

 

「ねえ、リオ、どういうこと?契約したの?」

 

 私が尋ねると、リオは腕を組み、真剣な顔で「分からない」と一言呟いた。彼がここまで分からないと言うのは珍しい。

 

 少し小腹が空いたので、私たちは早めの昼食にすることにした。素晴らしい景色を見ながら食べる、新鮮な卵と牛乳を使ったパンケーキは、この上なく美味しかった。こんな開放的な場所で食べる食事は、特別な味がする。

 

 昼食の間も、ジルは周辺を熱心に調査してメモを取っている。さすがはジルだ、と感心しながら眺めていると、ドナが突然私に話しかけてきた。

 

「キャロル様、私も周辺を確認してきますね!」

 

 その言葉に、私は思わず聞き返した。

 

「えっ?ドナが?何しに行くの?」

 

 するとドナは、少し得意げに、しかし照れたような顔で答えた。

 

「もちろん、用を足しにです!」

 

 その瞬間、リオとボンドンが大声で笑い出した。ドナは顔を少し赤くして、恥ずかしそうに下を向いている。ああ、ドナ、ごめんね……。私の不用意な質問が、彼女を困らせてしまった。でも、なんだか微笑ましい光景だった。

 

 三十分ほどして、マッドが戻ってきた。彼の隣には、先ほどのグレーの馬。そして、その横には、少し小さめの、薄茶色の可愛らしい馬が寄り添うように歩いている。その馬を見た瞬間、私の心はキュンと音を立てた。なんて愛らしいんだろう。

 

「キャロル、この馬に乗ってみてごらん」

 

 マッドは、その薄茶色の馬を指差して、私の目を見て優しく言った。彼の声は、いつもよりもずっと柔らかく、まるで私だけのためにあるかのように響いた。私は、その優しい眼差しに少し照れながらも、薄茶色の馬に乗せてもらった。マッドがそっと背中に手を添えてくれる。

 

 グレーの馬が走り出すと、薄茶色の可愛らしい馬も、まるで私を乗せていることを喜んでいるかのように、軽やかに走り出した。ものすごく速いけれど、安定感があって、風を切る爽快感がたまらない。それに、自然の中を駆けるのは本当に楽しいし、この馬に乗っていれば、馬に乗りながら弓まで弾けそうな気がした。私とマッドは、二十分ほど走り、再び水辺に戻ってきた。

 

 馬から降りて、私は薄茶色の馬の首筋を撫でながら、心からのお礼を言った。すると、その馬は先ほどのグレーの馬のように、静かに頭を下げた。ん?ん?何かを言っているみたいだけれど、やっぱり私にはよく分からない。

 

「キャロル、名前をつけてあげると喜ぶと思うよ」

 

 マッドが、私の髪を優しく撫でながらそう言った。彼の指が私の髪を梳く感触が、心地よい。私は少し考えてみた。この子の優しい茶色にぴったりの名前。

 

「マローネ」

 

 私がそう言うと、マローネは再び、まるで同意するように頭を下げた。マッドは、満足そうに微笑みながら教えてくれた。灰色の大きめの馬はグリフィスと名付けたらしい。

 

「この子たちは魔馬とのハーフで、どうやらつがいのようだ。慣れてくれば、グリフィスとの間で意思疎通もできるようになると思うし、俺やキャロルとの相性もいいみたいだ」

 

「私たちと契約してくれるの!?」

 

 私が興奮気味に尋ねると、二頭はまるで頷くかのように、再び頭を下げた。可愛すぎる!こんなにも素晴らしい馬たちが、私とマッドの元に来てくれるなんて!

 

「良かったな、キャロル!おめでとう!」

 

 リオが、心底嬉しそうな顔で私に言った。しかし、すぐに彼はマッドの方を向いて、少し不満げな顔で続けた。

 

「それでマッド、僕の馬はどこ?」

 

 マッドは一瞬、きょとんとした顔をしてから、少し考えて答えた。

 

「リオの馬は、ここにはいないようだ」

 

 その言葉に、リオはガックリと肩を落とした。

 

「マッドは、キャロルにだけは本当に甘いんだから……!」

 

リオがぶつぶつと文句を言うと、ドナが当然とばかりに口を挟んだ。

 

「リオ様、そんなの当たり前じゃないですか!」

 

 それに続いて、ボンドンがリオを慰めるように言った。

 

「リオ様には、僕がいますから大丈夫です!」

 

 その言葉には、誰も何も答えなかった。リオは、ボンドンの言葉に、さらに肩を落とすのだった。

 

 そろそろ戻ろうかと帰る準備を始めると、インディとランランが、先ほどの焦茶色の馬と一緒に戻ってきた。マッドとインディが何やら会話をしているようだ。

 

「リオ、この馬に乗れるか?」

 

 マッドがリオに尋ねると、リオはニヤリと意味深な笑みを浮かべ、焦茶色の馬に話しかけた。

 

「こんにちは。僕が乗ってもいいかな?」

 

 焦茶色の馬は、リオの言葉に少し考え込むような仕草を見せてから、ゆっくりと首を横に振った。

 

「……マッドの言うように、ここには僕の馬はいないようだ」

 

 リオは、再び肩を落とした。その様子に、私たちは思わず笑ってしまった。彼らしい、どこかコミカルなやり取りだ。

 

 そうして私たち一行は、それぞれの馬との出会いを夢見ながら、元気に山小屋へと戻ったのだった。

 

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