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馬を求めて 1

 ルルソン村に戻って五日ほど経った頃、マッドから「海のある街へ家族旅行に行こう」という話を聞いた。正確には旅行ではないらしいけれど、私たちにとっては初めての本格的な遠出だ。今からもう待ち遠しくてたまらない。いくつか条件を出されて、少し不安な気持ちもあるけれど、きっと三人で力を合わせれば何とかなるはずだと、皆で顔を見合わせた。

 

 まず、旅には馬が必要だ。でも、良い馬はとても高額だと聞いている。そこで、皆で力を合わせて野生馬を探しに行くことになった。目指すは、夕焼けが美しいと評判の山小屋だ。お母様は私たちだけで行くことを心配していたけれど、お父様が「大丈夫だ」と許してくれたので、少しほっとした。

 

 ミシェランで買った中古の馬車は、マッドの手によってさらに速く、快適に改良されたという。何よりも驚いたのは、馬車の中にトイレまで設置されたことだった。これには本当に感動した。今まで馬車での移動中、外の離れた場所で一人で用を足すのが、本当に怖くてたまらなかったのだ。これで、そんな心配もいらない。

 

 馬車の中のトイレは、空間魔法を使って拡張されているので、中も広々としている。さらに、魔道具が設置されているらしく、音も匂いも全くしない。本当に素晴らしい馬車だ。マッドは本当にすごい、と改めて思った。

 

 朝早くから、私はジータと一緒にお弁当を作った。七時には、いよいよ出発だ。御者はジルだけれど、マッドやリオもジルから御者の仕方を教わるらしい。私も帰りはぜひ教えてもらいたいと思っている。

 

 ボンドンとドナは、今回の旅の条件である「魔法学院の試験合格」に向けて、ジルに厳しく言い聞かせられていた。馬車の中で、二人は頭を抱えながらも、真剣に勉強に励んでいる。その姿は、少し滑稽で、でも頼もしかった。

 

 私は、朝早かったこともあって、うとうとしながら編み物をしていた。けれど、やはり途中で眠ってしまったらしく、目を覚ますと、もうお昼になっていた。この馬車は本当に快適で、しかもすごく速い。

 

「マッド、この馬車に、馬が休息できる空間を作ることはできないかな?そうすれば馬を交代させられるから、途中で一泊しなくてもよくない?」

 

 リオが突然、そんなことを言い出した。

 

「ああ、できなくはないが、俺たちのスキルは秘密にしたいからな。それなら、もう一つ馬用の馬車を作ってみるのはどうだろうか?」

 

 マッドがそう答えると、二人で馬車について熱心に語り始めた。私は再び編み物を再開する。あと一時間ぐらいで目的地に着くらしいから、それまでに編み物を仕上げてしまいたかった。


 山小屋に到着すると、懐かしい顔のインディとランランが出迎えてくれた。インディは前に会った時よりもかなり大きくなったけれど、ランランはそれほど大きくなっていない。だから、まだ抱っこもできそうだ。

 

 私はすぐにランランを抱き上げ、その小さな顔に自分の顔を擦り付けた。ランランの優しい匂いを嗅ぐ。なんて可愛らしいんだろう。この子がいてくれるだけで、心がとても癒される。

 

「ランラン、元気そうで嬉しいわ。相変わらず、とっても可愛いね」

 

 私がそう言うと、ランランは嬉しそうに話し始めた。

 

「キャロルも、とっても可愛いよ!それでね、インディがね……」

 

 ランランはインディととても仲良しで、いつも一緒に冒険をしているらしい。目をキラキラさせながら、冒険の話を嬉しそうに語ってくれた。

 

「この前ね、インディと二人で、村の近くにある古いお城の森に遊びに行ったのよ。そしたらね、村の人たちが『あそこには幽霊が出るから行っちゃだめだ!』って噂してるのを聞いたの。でも、インディが『ランラン、幽霊なんて怖くないぞ!真実を確かめに行こう!』って言うから、こっそり行ってみたの!」

 

 ランランは身を乗り出すようにして、まくし立てて語り続ける。

 

「お城の森は、昼間でもなんだか薄暗くて、ヒューヒューって風の音がするの。最初はちょっとドキドキしたんだけど、インディがそばにいてくれたから大丈夫だった!そしたらね、森の奥の方から、『うぅぅ~……』って変な声が聞こえてきたのよ!私、ちょっと怖くなっちゃったんだけど、インディは鼻をクンクンさせて、『ランラン、あれは幽霊じゃないぞ!何か別の生き物の匂いだ!』って言ったの。そしてね、そーっと声のする方へ行ってみたら、なんと、大きなイノシシが、木の枝に頭を突っ込んで抜けなくなってたんだよ!それで、苦しくて『うぅぅ~』って鳴いてたんだって!インディがそのイノシシを助けてあげたら、嬉しそうに『ブヒブヒ!』って言いながら、どこかへ走って行っちゃったんだ。ね、インディ、すごいでしょ!」

 

 ランランは胸を張ってインディを見上げた。インディは誇らしげに鼻を鳴らしている。私は思わず笑ってしまい、あまりにも可愛くて、私は再びランランの顔に自分の顔を擦り付けた。


 夕食の後、マッドがランランについてわかっていることを教えてくれた。

 

「ランランは、両親ともほとんど魔力がないらしいんだけど、なぜかランランにはたくさんの魔力があるみたいだ。それに、光と水の二属性持ちだから、回復魔法が得意になると思うよ」

 

「ランランって、すごいのね!」

 

 私が驚いてそう言うと、マッドは優しく笑いながら説明を続けてくれた。

 

「スキルは今あるのは一つだけで、『絶対防御』と表示されている。インディが言うには、防御できる範囲は今は狭いけど、これからどんどん広がるだろうって言ってたよ」

 

「すごいスキルね!やっぱりランランは聖獣なのね!」

 

「ああ、そうだな」

 

 マッドはそう言って、いつものように私の頭を優しく撫でてくれた。その手はとても温かかった。

 

「ねえマッド、インディはもっと大きくなるの?」

 

 私が尋ねると、マッドは遠くを見つめるように答えた。

 

「ああ、母親の黒豹よりも大きくなるだろうから、まだまだ成長するだろうな。俺たちが通う予定の魔法学院は、契約している魔獣や動物は連れて歩けるから問題はないはずだ。ただ、すごく目立つだろうな」

 

 そんな話をしていると、リオがやってきて、明日の予定を尋ねてきた。

 

「スノウが言うには、ここから少し南に行ったところに綺麗な水辺があるみたいなんだ。そこには野生馬がよく水を飲みに来るらしいよ。明日にでも行ってみない?」

 

「そうだな。明日の早朝にでも行ってみるか。安全そうな場所だったら、向こうで一泊してもいいだろう」

 

 マッドの言葉に、リオは嬉しそうに頷いた。

 

「それなら早めに寝ようかな!」

 

 そして、私たち三人は、明日の野生馬探しに備えて、早めに床に就いたのだった。


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