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グラン伯爵代理とエイドの闇 マッド視点

マッド視点

 

 ミシェランの図書館の見習い司書、エイドについて話がある、と父さんに呼ばれた。父さんは以前、エイドの父親であるピエール・グラン伯爵代理を夜会で密かに鑑定したはずだ。その件だろうとすぐに察し、書斎へと足を向けた。

 

 書斎に入ると、父さんは既に席についていた。俺も促されるまま向かい側の椅子に腰を下ろす。父さんの表情は、普段の穏やかさの中に、深い憂いを帯びていた。

 

「マッド、座ってくれ。エイドの父ピエールだが、鑑定したら犯罪歴に『複数人の殺人、殺人未遂』と表示されていた。想像はしていたが、正直驚いたよ。だが、鑑定だけでは決定的な証拠にはならないからな、今はどうすることもできない。マーカスには既に報告しているし、ミシェラン侯爵である父にも話はした」

 

 父さんの言葉に、俺は息をのんだ。まさかそこまでとは……。

 

「お祖父様も鑑定はされたんですか?」

 

 俺が尋ねると、父さんは深く頷いた。

 

「ああ、してもらったよ。父さんの見立ても俺と同じだった。むしろ、『ここまで腐りきった人間も珍しい』とまで言っていた」

 

 やはり思った通り、エイドの父であるピエールは、とんでもない悪人だったようだ。

 

「それと、グラン伯爵の正当な跡継ぎであるご子息は、現在病で伏せっているようだ」

 

 父さんの言葉に、俺の胸に嫌な予感がよぎる。

 

「それってまさか……ピエールが毒を盛っている可能性も……」

 

 俺がそう言うと、父さんはゆっくりと頷いてから、静かに言った。

 

「証拠はないからまだ何とも言えないが、マーカスが今、内密に調査をしている。進展があれば連絡をくれるだろう」

 

 ご子息を殺そうと手を下していたとしても、証拠がなければどうしようもできない。この世界の理不尽さに、思わず拳を握りしめる。

 

「ご子息を殺そうと手を下していたとしても、証拠が無ければどうしようも出来ないんですね」

 

 俺がそう呟くと、父さんは遠い目をして言った。

 

「ああ。だが、ああいう奴らは必ず報いが来るものだ。悪行の数々は、いずれ自分に跳ね返ってくる」

 

 その言葉に、わずかながら希望を感じた。


 それから数週間後、俺は再び父さんに呼ばれた。どうやらエイドの件に進展があったようだ。俺は期待と緊張を胸に書斎へ向かった。

「マーカスのお手柄で、ご子息に毒を飲ませていた使用人が捕まった。その使用人はピエールに脅され、逆らえば家族を皆殺しにすると言われ、無理やり毒を盛らされていたそうだ。供述から、グラン伯爵代理ピエールとエイドの犯行がすべて明るみに出た。エイドはピエールの指示で毒の調達や、使用人の見張り役を務めていたようだ。それに、亡くなられたグラン伯爵夫妻の殺害もピエールの犯行だと裏付ける証拠が見つかった。二人は処罰を受ける」

 

 俺は驚きと同時に、安堵の息をついた。ようやく、悪人が裁かれる。

 

「奴隷になったんですか?」

 

 俺が尋ねると、父さんは首を振った。

 

「ピエールは、グラン伯爵夫妻を殺害しただけでなく、跡継ぎであるご子息を殺そうと、毒を定期的に飲ませた。これは我が国の法律では最高位の罪、死罪だ。彼の悪行はあまりにも甚大で、誰もが死罪を妥当と判断した。だが、エイドに関しては、まだ若く、父親からの脅迫という状況も考慮され、奴隷となり、鉱山島へ移送されることになった」

 

「鉱山島?」

 

 俺は初めて聞く名前に首を傾げた。

 

「ああ。ドレスデン国の王家が所有する大きな鉱山は五ヶ所ある。その内の一つが島にあり、鉱山島と呼ばれている。鉱山島はミシェランから馬車で十日、さらに船で五日かかる。実は来年の三月には、俺とミランはそこへ視察に行くことが決まっているんだ」

 

 その言葉を聞いて海が思い浮かんだ。

 

「ブレイブス港街から船に乗るんですよね?視察の邪魔はしませんので、俺たちも行ってもいいですか?俺たちは、ずっと海に行ってみたいと思っていたんです」

 

 目を輝かせながらそう懇願すると、父さんは目を細めて嬉しそうに言った。

 

「そう言えば、リオもそう言っていたな。まあ、あそこまでは道中もそれほど危険ではないし、途中にある村や町を見るのも勉強になるだろう」

 

 俺が満面の笑みを浮かべると、父さんも愉快そうに言葉を続けた。

 

「しかし、お前たちからお願いされるのは初めてだな。連れていく条件は三つだ。一つ、魔法学院の試験に全員合格すること。二つ、全員が騎乗できるようになること。そして最後に、現地での宿泊代やお小遣いは、親に全てを負担させることだ」

 

 俺は少し考えた。ボンドンは大丈夫だろうか?馬に乗ることに関しては、少し不安がある。でも、彼ならきっと乗り越えてくれるはずだ。

 

「分かりました、それでお願いします!具体的な日程が決まったら教えてください!」

 

「ああ、承知した」

 

 俺はすぐにリオとキャロルに伝えた。二人は飛び上がるほど喜んでいた。その後に条件を告げると、リオとキャロルが声を揃えて言った。

「ボンドンは大丈夫かな?」

 

「ボンドンは大丈夫かしら?」

 

 やはり、ボンドンのことが気になっているようだ。まずはボンドンの馬を何とかしなければならない。良い馬を用意できれば、もしかしたら何とかなるかもしれないと思ったからだ。

 

 ジルとドナは、ミシェランからルルソン村に戻る際に連れて来た二頭で問題ない。二頭とも非常に良い馬だし、何より二人にとても懐いている。

 

 そういえば、俺たちにも専用の馬はいない。魔法学院に入るまでには購入する予定だったが、この機会に早めなければいけない。だが、良い馬はかなり高い。可能であれば、野生の馬と契約したいところだ。

 

 そして俺たちは、野生馬を求めて夕焼けの綺麗な山小屋に行くことにした。ちょうど山小屋には、魔法陣を描きに行くつもりでいたので、一石二鳥だった。

 

 馬車は以前、中古で購入した馬車をさらに改造したので、かなり速くなったと思う。揺れも最小限だし、何より中は広くて快適だ。

 

 大人数で乗るタイプの乗合馬車なので、広いのは当たり前なんだが、空間魔法を使いトイレを設置したのも大きい。これでトイレ休憩を気にせず済むので安心だ。見た目がボロいのも、俺は気に入っている。目立たない方が、何かと都合が良いだろう。

 

 準備もできたし、明日は夕焼けの綺麗な山小屋へ出発だ。

 

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