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始まりの森からの旅立ち

 それから、この森での日々は、あっという間に一年以上が過ぎ去っていた。

 

 マッドは、その「建築」スキルを遺憾なく発揮し、たった一人で二階建ての小さな家を見事に完成させた。木々の間にひっそりと佇むその家は、私たち三人の共同生活を、想像以上に快適なものにしてくれた。

 

 リオも負けていない。彼の「木工」スキルから生み出されるのは、使う者のことを考え抜かれた、温かみのあるテーブルや椅子、そして使い勝手の良い棚の数々だ。森の木々が、彼の指先で命を吹き込まれ、私たちの生活空間を彩っていった。

 

 そして私。魔物の皮を素材に「裁縫」スキルを駆使し、実用性とデザインを兼ね備えたバッグを作り上げた。さらに、森の蜘蛛から得られる糸を加工し、服や下着まで作れるようになった。天然の植物から抽出した染料で、色とりどりの布を生み出す。全てが、かなり良い出来栄えだと自負している。

 

 この森での生活は、ただ快適なだけではなかった。私の「土属性」魔法は、食材の栽培や、地下から水脈を探すのに大いに役立ち、日々レベルが上がっていくのを実感できた。もちろん、マッドやリオも同様だ。彼らの武術スキルや生産スキルは、目を見張るほどの速度で向上していった。

 

 今では、リオに作ってもらった頑丈な弓を手にすれば、角兎数匹程度なら一人でも余裕で仕留められるだろう。試したことはないが、きっと問題なくこなせるはずだ。この一年で、私たちは見違えるほど強くなった。

 

「名残惜しいけど、そろそろ行かないとな」

 

 マッドが、まるで自分に言い聞かせるように、静かに呟いた。彼の視線は、遠く、私たちがまだ見ぬ世界へと向けられている。

 

「この世界について、俺たちは知らな過ぎる。俺は、何か起こった時に、二人を、そして誰かを守れる頼りになる男になりたいんだ」

 

 彼の言葉に、私も頷かずにはいられなかった。

 

「そうよね……。ここがずっと安全とは限らないもの。行かないとダメだよね。それに私も、少しは自立できるようにならないといけないと思うし……」

 

 私の声には、まだ少し迷いが混じっていたかもしれない。

 

 マッドは、そんな私を優しく見つめると、いつものように私の頭を「ヨシヨシ」と撫でてきた。まるで幼い子供をあやすような、その仕草は、一年経っても変わらない。

 

「キャロルは今のままで充分役立っているよ。この先も、俺たちに頼って良いんだからな」

 

 その言葉に、胸の奥が温かくなる。

 

 リオが、にこやかに提案した。

 

「持って行けるものは、全て持っていこうよ。当然、マッドの作った家もだよ?」

 

 あんなに大きな家まで「収納」できるのだろうか?と訝しんだが、マッドはいとも簡単に収納するのを見て唖然としてしまった。

 

 私たちは10日後にここを出発し、マッドが強く惹かれているルルソン村へ向かうことに決めた。旅立つにあたり、お金がないことを考え、できる限りお金になりそうな薬草や木の実、キノコを採集し、倒せそうな魔物もできる限り狩った。

 

 幸いなことに、私たち三人が共通して持つ「空間魔法」のレベルも大幅に上がっており、時間停止機能もあるため、多くの物を収納することができる。ただ、同じ空間魔法でも、その使い勝手も、入る容量や収納できる物の大きさも、それぞれ異なっていることが分かった。

 

 私の場合は、入れたい物を指で指すだけで収納が可能だ。容量の割合は、時間停止機能が5割、時間遅延機能が2割、機能無しが3割となっているが、残念ながら、今のところ2メートルを超えるような大きな物は入れられない。

 

 リオは、入れたい物に直接触れないと収納できないが、その代わりに5メートル以上の大きな物も簡単に収納できる。彼の時間停止機能の容量は3割だが、なんと生きた魚を入れることが可能だという。マッドは、これはリオの「釣り」スキルが何かしらの影響を与えているのかもしれない、と分析していた。

 

 そしてマッド。彼は入れたい物を頭に浮かべるだけで収納できるという、最も直感的な使い方をする。ただ、時間停止機能の容量は1割程度と私たちより少ない。しかし、驚くべきことに、木を根っこから収納することも可能だというから驚きだ。これも、彼の「建築」スキルが影響しているのかもしれない。

 

 同じスキルでも、できることは人それぞれ違う。それは、他のスキルでも同じなのだろう。そういった情報も、今後旅をする上で得ていかなければならない。私たちはそう考えていた。

 

 この森は、私たち三人にとって、まさに故郷のような場所だった。初めて目覚めた場所であり、互いの存在を確認し、家族のような絆を育んだ大切な始まりの森だ。

 

 村に行けば、これまでのように三人一緒ではいられないかもしれない。狩りに出れば、どうしても私は二人の足を引っ張る。体力も、彼らほどないことは自覚している。それでも、もし許されるのなら、二人と一緒に生きていきたい。その為にも、できることを一つでも増やせるように、私はもっと頑張るつもりでいる。

 眩しいくらいに輝いている二人と、できるならずっと一緒にいたいから……。

 

 あっという間に10日が過ぎ、いよいよ出発の朝が来た。私たちは、1年以上を過ごしたこの森から、新たな旅路へと旅立っていく。

 

「またいつか戻って来ようね」

 

 私の言葉に、マッドとリオが優しい笑顔で応えてくれた。

 

「ああ、そうしよう」

 

「そうだね、必ず三人で来よう」

 

 リオが、自身の「偽装」スキルで整えたステータス情報を確認するよう促した。

 

「ステータス情報を偽装スキルで変えたからね!マッドもキャロルも問題ないか、きちんと確認してくれるかな?」

 

「ああ、確認した。俺は問題ない。キャロルのも見たけど、大丈夫そうだ。じゃあ、行こうか」

 

 マッドの確認に、私も頷く。

 

「ええ、行きましょう!」

 

「行こう!」

 

 こうして私たちは、1000年1月1日にこの世界に来て以来、1001年3月15日までを過ごしたこの森を後にした。この一年でスキルレベルが上がっただけでなく、新たなスキルも習得していた。

 

新たに獲得したスキル

* マッド(13歳): 「修復」と「防御」スキルを獲得。

* リオ(13歳): 「解体」と「罠」スキルを獲得。

* キャロル(12歳): 「採集」と「調達」スキルを獲得。


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