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奴隷商店

 私たちは朝早くから奴隷商店に来ている。

 

 店主であるお姉さんは、昨日の夜に王都へ帰ってきたようだ。店主が言うには、条件に合った娘は今はいないそうだ。なので私たちはすぐにお店を出て、行きたかったお店を回ることにした。

 

 王都の中心にある魔獣屋は規模は小さいが、珍しい魔獣が多くいた。カラフルな色をしたネズミに似た魔獣や、手のひらに乗るくらいの小さな猿のような魔獣などがいて、見ているだけで楽しめた。

 

 次に行ったのは植木屋だ。私とリオは育てやすいものをいくつか購入した。後は東方大陸での主食である米を試しに買って帰ることになり、育て方については後で図書館で探してみることにした。昼過ぎにはジルとボンドンがやってくるので、一旦屋敷に戻ることになった。

 

 昼食を食べ終えた頃に二人が到着した。二人が礼儀正しい挨拶をしてくれたので、私たちも自己紹介をした。

 

 私は二人に座るように言い、昼食を運んでくると、二人は驚いた顔をした。あれ?食事は済ませてきたのかしら?私が不思議な顔をしていると、マッドは私の頭を撫でて言った。

 

「俺たちの接し方はそれでいいと思う。だから何の問題もないよ」

 

 お父様もお母様も頷いてくれていた。

 

 お祖父様が何やら二人に話しをしている。

 

「ジルもボンドンも少し鍛えた方がいいだろう。武芸の達人がルルソン村にはいるから習うといい。それから馬にも乗れないといけないからな、覚えることはたくさんあるぞ」

 

 リオがそれを聞いてお祖父様に言った。

 

「お祖父様、僕たちも馬に乗れませんので、覚えたいです」

 

「馬はいいぞ、ミシェランに戻ったら馬を贈ってやろう」

 

「いえ、馬は自分たちで何とかしますので大丈夫です。乗り方だけどこかで習わなければいけませんので、紹介してもらえると嬉しいです」

 

 マッドがお祖父様の贈り物をあっさりと断った。

 

 横ではお父様とお母様が笑っていた。


 そんな時、お父様宛に伝書鳩が送られてきた。お父様がメッセージを読むと、私に話しかけてきた。

 

「奴隷商店の店主からだ。つい先ほどキャロルに合いそうな子が、自分を売りに来たらしい。手続きには早くても三日はかかるから、連絡は改めてくれるそうだ。キャロルはどうしたい?」

 

「自分を売るってどういうことですか?」

 

 私が聞くと、お祖父様が教えてくれた。

 

「王都では珍しいことではないんだよ。手っ取り早くお金を稼ぐにはそれが一番早いからね。理由は分からないが、すぐに大金が必要になったんだろう。十五歳以上の若い女性の場合は身体を売ることでも稼げるが、未成年ではまともな店では雇ってもらえないからな。仕方なく奴隷商に行ったんだろう」

 

 お祖父様の話を聞きながら、私は胸が締め付けられるような思いがした。自分は本当に運が良かったのだと、改めて強く実感する。もしあの時、マッドやリオに出会っていなければ、私も同じように絶望の淵に立たされていたかもしれない。彼らと、そして温かいお父様やお母様、お祖父様との出会いが、私を暗闇から救い出してくれた。

 

 今、こうして毎日笑顔でいられるのは、彼らという心強い味方がそばにいてくれるおかげだ。

 

「私は会ってみたいです」

 

 お父様にそう告げた。私はその娘をこの温かい家族の輪の中へと包み込んであげたい。そして、もう二度と悲しい思いをさせないよう、一緒に笑って、明るい未来を築きたい。そんな純粋な気持ちが、私の心を満たしていった。


 次の日はお父様とお母様は用事があり、出かけられた。ジルとボンドンはお屋敷で礼儀作法を習っている。お祖父様が一緒にいろいろなお店に連れて行ってくれたので、楽しむことができた。中でも王都の本屋は圧巻で、数々の専門書が置いてあり、まるで図書館のようだった。

 

 私は古代語の本を数冊と外国の宝飾図鑑などを手に持ち、どれを買おうかと迷っている。リオも魚図鑑やら海について書かれた本を数冊持ち、悩んでいた。マッドは既に何冊かは読んでしまったようだが、手には十冊以上持っている。

 

 お祖父様はそんな私たちを見て、呆れ返っているようだ。

 お祖父様がマッドに声をかけた。

 

「マッド、そんなに本が好きか?いいだろう、手に持っている本は私が全て購入しよう」

 

 マッドが少し考えた後に話し出した。

 

「ありがとうございます。でも違う本でもいいでしょうか?既に何冊かは読んでしまいましたので……」

 

 結局、お祖父様は私たちに本をたくさん買ってくれた。

 

 お祖父様はなぜかとても嬉しそうだった。

 

 帰り際にお祖父様は私に話しかけてくる。

 

「キャロル、宝飾品に興味があるなら買ってやるぞ」

 

「お祖父様、私は宝飾品に興味はありますが、買って欲しいとは思っていません。宝飾品の博物館とかあれば見てみたいですが……王都にありますか?」

 

「そういうのはないな。あるとすれば王宮の宝物庫だろうな」

 

「宝物庫なんて絶対に入りたくありません」

 

 マッドもリオも笑っていた。

 

「お祖父様、お孫さんたちにお土産とかはいいんですか?」

 

「あの子たちは私が王都に来ていることも知らないだろうからな、必要ないだろう」

 

 リオが聞くと、お祖父様はそう言った。

 

 もしかしたらお孫さんたちとの交流はあまりないのかもしれない。

 

 三日過ぎても奴隷商店からは連絡がなかったが、翌朝にやっと伝書鳩がやってきた。

 

「正式な手続きが済んだそうだ。今から行ってみるか?」

 

 お父様にそう言われて、私たちはすぐに向かった。奴隷商店へ着き、部屋に案内されて少し待っていると、店主であるお姉さんが入ってきて説明をしてくれた。

 

「今回の奴隷は借金奴隷になりますので、九百万リラとかなり高額です。彼女は親の借金返済のために自ら奴隷になった娘です。親と言っても血は繋がっておらず、あまりいい扱いではなかったようですが、本人はとても明るくて素直な娘だと私は思いました。スキルは身体強化などを持っていますので、鍛えれば護衛としても活躍できるのではないかと思います。会ってみますか?」

 

 お母様もお父様も頷いてくれた。私はとても会いたいと思った。会って抱きしめてあげたいし、一緒に笑って暮らしたいと強く思った。

 

「会いたいです」

 

 私がそう言うと、店主はすぐに連れてきてくれた。

 

 彼女が部屋に現れた瞬間、彼女の周りには眩しいほどの光が溢れているのが見えた。それはまるで、雲一つない青空の下で燦々と輝く太陽のような、清々しく、どこまでも広がっていくような温かいオレンジ色だった。健やかで、力強く、そして何よりも生命力に満ち溢れたオーラ。その温かさに触れた瞬間、私の心は喜びで満たされた。この子はきっと、どんな困難にも負けない強さを持っている。苦しい過去があったとしても、その内には揺るぎない希望の光を宿しているのだ。私は確信した。ドナもまた、私たちにとってかけがえのない家族になるだろうと。

 

* 名前: ドナ

* 年齢: 13歳

* 属性: 火属性

* スキル: 屈強、拳、身体強化、腕力

* 性格: タフ

 

 この日、かけがえのない家族がまた一人増えた。

 

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