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奴隷市 2

 3番の奴隷の男性はムッサリ、53歳。52歳の妻ジータと14歳の孫ジルがいる。ムッサリのスキルは執事、領主補助だ。

 

 犯罪奴隷になった理由は、娘さんの医療費を主人から借りたが、なぜか知らない間に横領したことにされてしまったらしい。全く覚えがないのに、証拠にされた書類のサインは確かに自分の物で、どうしようもなかったとか。結局娘さんは亡くなり、悲しむ間もなく今の状況になってしまったようだ。

 

 妻の名はジータで、スキルは家庭料理。犯罪理由は、夫の横領に手を貸したことだ。14歳の孫の名はジル。スキルは執事、御者、事務処理だ。彼は犯罪奴隷ではなく、身内の罪を軽減するために奴隷になったという。とても優秀なので、かなりの高値がつけられる予定らしく、王都にある父親の奴隷商会にいるらしい。まだ店に出していないはずなので、購入意思があればすぐに連絡を取ってみると店主は言ってくれた。

 

 お父様とお母様はすぐに購入の意思を示し、連絡するようにお願いをしてくれた。店主はすぐに魔道具を使い、王都の父親の店へ連絡してくれたようだ。ムッサリさんとジータさんの購入はすでに決めているので、後日ミシェランのブライトン邸まで送り届けてくれるとのことだった。


 もうすぐ混む時間帯になるので、奴隷市の会場を出て商店街へ向かった。木で作られた手作りの商品がたくさん陳列されていて、見ているだけでも充分楽しめる。

 

 お腹が空いたので少し早いが、海鮮料理店へ行き夕食をとることにした。個室に案内されて席に着くと、すぐに料理が運ばれてきた。本で見たエビだろうか?見たことのない食材がたくさん出てきて、ワクワクしてしまう。一口食べてみると、初めての食感だが、とても美味しかった。

 

「父さん、ここから海は近いの?」

 

 リオの質問には、マッドが答えた。

 

「近くはないな。もしかしたら近くに魔法陣があるのかもしれない」

 

「魔法陣を描ける人は多いの?」

 

 私が聞くと、お父様が答えてくれた。

 

「大量な魔力量と、自身が描いた正確な魔法陣がそれぞれ必要になる。スキル持ちでなければ簡単に描ける物ではない。ちなみに王都でも正確に描ける者は二人しかいないぞ」

 

「魔法学院と王都との魔法陣は、その二人のどちらかが描いたの?」

 

 リオが聞くと、今度はお母様が答えてくれた。

 

「いいえ、もう亡くなってしまったけど、以前の魔法学院長だと思うわ。王都には強力な結界がいくつも張り巡らされているから、今の彼らには無理なはずだもの。ちなみに王都に魔法陣を描く場合は、必ず国の許可が必要になるから覚えておいてね」

 

 マッドは少し残念そうな顔をしている。せっかく興味を持っていたのに、描けないと知ってがっかりしているのかな。


 お腹が膨れた頃に、マーカスさんが、まるで太陽が歩いてくるかのように、一人の女の子を連れてやってきた。話に聞いていたマリーさんなのだろう。

 

「叔父様、叔母様、お久しぶりです!マッド、リオ、キャロル、初めまして!三人の話は父から色々聞いていますわ。仲良くして下さると嬉しいです!」

 

 ハキハキとした声で、弾けるような笑顔。明るくて、はっきりと話す姿は、マリアンとはまた違う魅力があり、とても好感が持てる。マリアンは一見、綺麗で愛らしく穏やかな雰囲気だが、実際は自分の意志をしっかりと持った女性だった。マリーは、溌溂とした真っ直ぐな感じで、裏表がなさそうだ。表向きの性格は違うけれど、中身はよく似ているのではないかと、私は感じた。

 

 にっこりとマリーは笑い、席に座るや否や、話し出した。その話し方は、まるで淀みなく流れる川のようだった。

 

「私は貴族学校に行くわよ!魔法学院に興味があるのは事実だけど、あそこでは私の良さが生かされないもの。父とはここに来る道中、きっちりと話をしたわ。叔父様、叔母様、ご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした。せっかくなので社会勉強として、明日は私も奴隷市にご一緒させて頂きますので、どうぞよろしくお願いします!」

 

 マリーさんがそう言うと、マーカスさんが少し困ったように言ってきた。

 

「カルロ、マリーに『先走るな』と怒られてしまったよ。明日はマリーの夢のための奴隷を二人探すことになったんだ。力になってやってくれ」

 

「ああ、元々そのつもりだったから問題はないぞ。ただ、子供たちは明日行くところがあるので、ついては行けないからな」

 

「マリーの夢のための奴隷ってことは、農作業のできる人?」

 

 お母様がマリーに質問をすると、マリーは自信に満ちた笑顔で答えた。

 

「ええ、そうです!学校に通うようになると野菜の世話ができなくなってしまうから、任せられる人が前々から欲しかったんです。将来は大農場を作りたいと思っているので、今から準備していこうと考えています!」

 

 その言葉に、お父様が面白そうに尋ねた。

 

「婿は決まったのかい?」

 

 するとマーカスさんが、少し控えめに話してきた。

 

「まだだ。学校に行くまでには決めておきたいんだがな。ミシェラン領主の次男坊からは申し込みが来ているが……」

 

「父さん、ミシェランの次男ってことは、父さんの甥ですか?」

 

 マッドが聞くと、お父様が話し出した。

 

「ああ、そうだな。俺は兄とはあまり仲が良くないんだ。だから甥に会ったのは数回しかない。少しばかりわがままとは聞いているが、本当のところは俺も知らないんだ」

 

 するとマリーが、まるで冗談を言うかのように、しかしきっぱりと言い放った。

 

「叔父様には申し訳ないけれど、私は彼を婿にもらうぐらいなら、犬を婿にもらった方がいいわ!」

 

「おいおい、マリー!いくらなんでも犬は辞めよう!せめてリオにしておけ!」

 

 マーカスさんの言葉に、お父様が慌てて割って入った。

 

「おいおい、そんなことをしたら、また兄がすごい剣幕で我が家に押し入ってくるだろう!冗談でもやめてくれ!」

 

 マリーさんは楽しそうに笑いながら、さらに追い打ちをかける。

 

「あら、私はリオなら喜んで承諾するわ。叔父様と叔母様を『お父様、お母様』と呼べるなんて最高に嬉しいもの。リオは私ではだめかしら?」

 

 リオは目を丸くして、困ったように頭をかいた。

 

「僕がマリーと婚約することで、父さんが気苦労するなら辞退させてもらうよ!」

 

 そんな冗談めいた会話を交わすうちに、私たちとマリーはすっかり打ち解けた。マリーは本当に飾らない人だ。

 

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