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下界での生活

「隠れよう」

 

 マッドの低い声に、私とリオは即座に木の陰に身を潜めた。声は聞き取れないが、遠目に見える7人の集団は、やはり何か揉めているようだった。緊迫した空気が、この距離でも伝わってくる。その中に、あの真っ黒でおぞましい気配が混じっていることに、私は本能的な恐怖を覚えた。リオもまた、顔をしかめている。

 

 10分ほど経っただろうか。五人組が動き出し、東の方向へと去っていく。残された二人は、彼らを見送ってから、西の方向へ向かって行った。どうやら、仲間割れをしたようだった。彼らが遠ざかるのを完全に確認すると、私たちはその場に座り込み、今後について三人で話し合うことにした。

 

「地図を出すね」

 

 リオが広げたのは、サンから渡された地図だ。私たち三人で見やすいように、真ん中に広げてくれる。

 

「さすがは魔法のある世界だな。今いる場所に赤い印が付いてる」

 

 マッドが感心したように呟いた。

 

「僕が思うに、五人組はミシェランを目指すことにしたんだろう。二人組は西に行ったけど、西の方はあまり細かく地図に載っていないから、時間を置いて東に戻るんじゃないかな」

 

 リオの分析に、マッドが頷く。

 

「揉めていたようだから、五人と距離を取るために一時的に西に行っただけだろうな。五人は東に向かったんだから、リオの言うようにミシェランが目的地だろう。他に大きな街は見当たらないしな」

 

「そうね、私も地図を見る限り、そう思うわ。ここからだと、ミシェラン領しか選択肢はないんじゃないかしら?」

 

 私の言葉に、マッドは指先で地図の小さな点を示した。

 

「大きな街はミシェラン領しかないけど、その先にも小さな村があるみたいだ。俺は、この村にどうしようもなく惹かれるんだ」

 

 彼の指が差したのは、「ルルソン村」と書かれた場所だった。その言葉には、単なる願望ではない、何か深い理由があるように感じられた。

 

「俺たち三人は、あの待合室のような場所で一緒にいたけど、あれって偶然じゃないよな?」

 

 マッドの問いかけに、リオがすぐに反応した。

 

「そうだね。僕は最初に座っていたところで、隣にいた男性からねっとりとまとわりつくような不快な気配を感じて、すぐに離れたんだ。言っておくけど、二人の近くはとても落ち着いたよ。あの時の不快感は、さっきの集団の中にいた誰かからも感じた」

 

 彼の言葉に、私は強く頷いた。あの真っ黒な塊の気配は、私だけが感じたものではなかった。そして、それが今、あの集団の中にいたのだ。

 

「分かるわ。私も二人が近くにいると、凄く落ち着いてよく眠れたもの」

 

「眠くはならなかったけど、気持ちは分かるよ。身体がまだなかったから、余計にそう感じたのかもしれないな」

 

 マッドがそう言うと、リオが言葉を継ぐ。

 

「そうだね。だけど天界にいた時に不快に感じた人物は、ここでも何となく分かるみたいなんだ。さっきの人たちを見た時、同じように不快に感じた人もいたからね」

 

「俺たちは相性も良さそうだし、しばらくは一緒に行動するってことで問題ないか?」

 

 マッドの提案に、私は迷わず答えた。

 

「私は、出来れば一緒に行動してほしいです!」

 

 リオもすぐに賛成の意を示した。

 

「僕もだよ。少なくとも安全な場所に辿り着くまでは、一緒に行動したいな」

 

 マッドは満足げに頷いた。


「じゃあ、決まりだな。今日は日が沈む前に、寝られる場所を探しておかないか?色々と決めておきたいし、話せる範囲で貰った魔法とかも共有した方がいいと思うんだ」

 

「ええ、私は賛成!」

 

「僕も賛成だよ!」

 

 私たちはまず、川で喉の渇きを癒した。透き通った水を両手ですくい上げて飲むと、身体の隅々まで染み渡るように感じられる。その後、食べられそうな木の実を探し、マッドとリオは狩りに出かけた。何かあった時のために、お互いの声が届く範囲内に留まっている。

 

 しばらくすると、彼らが角のある兎を捕まえて戻ってきた。マッドは持っていたナイフで慣れた手つきで解体を始める。彼の持つ「解体」スキルのおかげか、流れるような無駄のない動きだった。リオは、そんなマッドの作業を真似るように頑張っていて、二人はとても仲良く作業を進めている。

 

 私はその間、木の枝をいくつか拾い集め、火を起こそうと奮闘した。乾いた小枝に石を打ち付けて火花を散らし、息を吹き込む。すると、小さな火がゆらりと燃え上がり、やがて勢いよく燃え盛った。

 

「うわー!できたー!」

 

 思いのほか上手く火が起こせたことに感動し、思わず大声で叫んでしまった。

 

「おめでとう、キャロル!」

 

「やったね!キャロル!」

 

 二人が駆け寄ってきて、温かい言葉をかけてくれる。彼らの笑顔に、なんだか照れ臭くなってしまった。きっと私の顔、今真っ赤だろうな。恥ずかしい……。

 

 日が暮れる前に、私たちは焚き火を囲んでそれぞれのスキルを確認し、共有することにした。

 

マッドのステータス

* 年齢: 12歳 8月生

* 属性: 風属性 魔力特大

* 加護: 男神アマスの加護

* 特殊スキル: 直感(進むべき場所や存在を察知する)

* 生活系スキル: 空間、鑑定、修理、解体、地図、気配察知、速読

* 生産専門スキル: 建築

* 戦闘スキル: 大剣、体術

 

マッドはまさに頼りがいのある、何でもこなせるリーダータイプだ。特に彼の「直感」は、私たちを危険から守り、時には運命の糸を辿るように導いてくれるに違いない。

 

リオのステータス

* 年齢: 12歳 9月生

* 属性: 氷属性 魔力特大

* 加護: 女神イシスの加護

* 特殊スキル: 真偽判定(他者の嘘や隠された意図を見抜く)

* 生活系スキル: 空間、偽装(ステイタス情報の改変)、釣り、採集

* 生産専門スキル: 木工

* 戦闘スキル: ナイフ、体術、俊敏

 

リオは陽気で話し上手な美少年だ。彼の「真偽判定」は嘘を見抜き、私たちを危険から守ってくれるだろう。

 

キャロル(私)のステータス

* 年齢: 11歳 12月生

* 属性: 土属性 魔力特大

* 加護: 女神イシスの加護

* 特殊スキル: 幸運(良い結果を引き寄せ、困難な状況を切り開く)

* 生活系スキル: 空間、生活、採掘、遠見、気功

* 生産専門スキル: 裁縫、細工

* 戦闘スキル: 弓

 

私のスキルは、マッドやリオのような直接的な戦闘系とは少し違うけれど、「裁縫」や「細工」といった物作りができるのは嬉しい。そして「幸運」は、これから何かと助けてくれる、と漠然とだが確信めいたものを感じた。

 

 二人が隣にいてくれる安心感は、何物にも代えがたい。

 

 その日は色々とあったため、私たち3人共クタクタだった。早めに寝る順番を決めて、私たちは深い眠りについた。

 

 翌朝、リオは素早く釣竿を作成し、川へと釣りに出かけた。マッドは狩りへ。私は木の枝や木の実を集めるついでに、地面を掘り起こして採掘をしたりした。マッドの話では、地図を見る限り、この辺りには強い魔物も不審な人もいないらしい。その言葉に、私たちは少し緊張を解き、それぞれが好きなように、しかし互いの気配を感じられる範囲で過ごした。

 

 それぞれが持ち寄った食材で、少し遅い朝食を取る。新鮮な肉と魚、それに木の実。素朴な食事だったが、楽しい会話のおかげで、ご飯はとっても美味しかった。マッドもリオも、まるで昔からの友人のように話しやすい。

 

「釣りをしたいから、夕食も魚にしない?」

 

 リオがそう言うと、マッドが提案をしてきた。

 

「あのさ、相談なんだけど、しばらくここに滞在しないか?これは直感とかではなく、俺の願望なんだけど。どうかな?」

 

 彼の言葉に、私とリオは顔を見合わせた。今日一日だけでも、やりたいことや試したいことがたくさんできた。それに、もっとマッドやリオと一緒にいたい。この二人と過ごす時間は、何よりも心地よかった。

 

 私とリオは大喜びで、すぐにマッドの提案に賛成した。


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