新たな命と聖なる絆 マッド視点
マッド視点
生まれたばかりの黒豹の子は、とても元気だ。母親の黒豹よりも、少しだけ藍色っぽい毛並をしている。その毛並みに光が当たると、まるで夜空に溶け込むような深い色合いが、さらに際立って見えた。しかし、この子を鑑定すると、なぜか「魔獣」と表示される。母親の黒豹は、間違いなく動物なのに……。不思議に思って、父さんに聞いてみた。
「そうなのか。だったら、この子の父親はおそらく魔獣だろうな。実は、動物と魔獣の違いははっきりしていないんだ。一般的には、攻撃的なのが魔獣と言われている。魔獣は見境なく攻撃してくるが、動物は自分より強い相手には攻撃せず逃げていく。あとは外見や魔力量、スキルによって分けられるかな。鑑定ができない者は、そうやって判断しているんだ。動物同士でも魔獣が生まれることはあるが、ごく稀だ。外見はもちろん、性質や魔力量、スキルは遺伝するからな。だから、この子の父親はおそらく魔獣だろう」
この子の属性は雷で、スキルもいくつかある。「闇討ち」「最速」「威嚇」。どれも、この小さな体からは想像できないくらい、強そうなスキルばかりだ。父さんに話すと、母親が回復したら森に帰した方がいいと言う。黒豹の魔獣となると、いくら子供でも人の手で育てるのは難しいらしい。少し残念だけど、それがこの子のためなのだろう。
父さんに休むように言われ、俺は少しだけ仮眠をとった。まだ母親の黒豹の容態が良くないから、父さんは黒豹が落ち着くまで見守るようだ。二時間ほど眠ってしまい、目が覚めたら父さんも座ったまま寝ていた。
どうやら黒豹も落ち着いてきたようだ。俺は優しく黒豹に語りかけた。「頑張ったな。赤ちゃんも元気だぞ」。そう言って水を差し出すと、黒豹は安心したかのように、少し水を飲んで再び眠った。その穏やかな寝息を聞いて、ようやく肩の力が抜けるのを感じた。
朝になり、父さんは黒豹も赤ちゃんももう問題ないと判断し、俺に「ベッドでゆっくり休め」と言うと、自分も寝に行った。俺は、キャロルがきっと心配しているだろうと思い、彼女に会ってから寝ようと食堂に向かった。
朝ごはんの席につくと、キャロルがまるで子犬のように、勢いよく俺に駆け寄ってきた。その足取りは少し寝不足気味で、やっぱり俺と父さんのことを心配してくれていたんだと、胸が温かくなった。
俺はいつものようにキャロルの頭を撫でてやろうとした。しかし、俺よりも早く、キャロルの小さな手が俺の頭にそっと触れた。
「頑張ったね、お疲れ様」
その言葉を聞いた瞬間、張り詰めていた心が、ふわりと軽くなるのを感じた。ああ、俺はまだ、こんなにも気が張っていたのか。キャロルの温かい手と、心からの労いの言葉が、まるで魔法のように俺の心を解きほぐしてくれた。その温かさが、じんわりと頭皮から全身に広がるようだった。俺は、キャロルの小さな手を、そっと自分の手で包み込んだ。
目が覚めたのは夜の8時過ぎだった。どうしても黒豹の赤ちゃんが気になり、小屋まで見に行った。黒豹の赤ちゃんは、母親の隣で、穏やかにスヤスヤと寝息を立てていた。
どうやら問題はないようだ。安堵して戻ろうとすると、黒豹の赤ちゃんが、まるで俺の気配に気づいたかのように、ふわりと目を開けた。そして、小さな体を起こし、大きなあくびをしている。本当に可愛らしい奴だ。じっと眺めていると、よちよちと俺の近くにやってきて、つぶらな瞳でじっと俺を見つめてくる。まるで睨めっこをしているようだ。
その時、俺の頭の中に、はっきりと声が響いた。
「ありがとう、オレと母さんを助けてくれて本当にありがとう。オレはしばらく母さんといたいから、今は一緒に行けないけど、もう少し大きくなったら必ず側に行くから待っててほしい。マッドの父さんには、もう話を通してあるから大丈夫だ」
はっきりと意思を持ったその声に、俺は思わず笑みがこぼれた。こいつ、まるで人間みたいに話すじゃないか。しかも、もう父さんと話がついているとは、さすが聖獣の子だ。
俺は、その小さな命に言い返した。
「分かったよ。甘えられる時に、たくさん甘えておけ。お前の名前は何て言うんだ?」
「母さんが、マッドに決めてもらえって言うから、まだないよ。マッドが考えて」
その純粋な願いに、俺の心は温かくなった。
「分かったよ。朝までに考えておくけど、何か希望はあるか?」
「かっこいい名前がいい」
俺はしばらく起きて本を読んでいたが、再び眠くなってきたのでベッドに入った。こんなに深く眠るのは久しぶりだ。自分では気づいていなかったが、かなり疲れていたようだ。
目を覚まして、久しぶりに全員揃っての食事だった。
食事が終わり、お茶を飲みながら、今日の日程について父さんが話し始めた。
「出発だが、明日の朝5時に出れば、ミシェランに夜6時過ぎに着く。今日出発することもできるが、俺としてはみんなとここで遊びたいんだが、どうだろうか?」
その後、リオは父さんと楽しそうに釣りに出かけた。
母さんとキャロルは「クッキーを作る!」と張り切っている。その様子を見ていると、なんだか微笑ましい。
そんな二人にも黒豹の赤ちゃんの話をすると、母さんはニヤニヤしながら話し始めた。
「カルロから話は聞いたわ。カルロったら、聖獣と会話ができたのが本当に嬉しかったみたいで、私に何度も同じ話をしてたわよ。本当に動物が好きなのよね。黒豹の魔獣は危険だけど、契約者がいれば何の問題もないわ。まあ、かなり目立つけど、どうにかなると思うわ。それで名前は決めたのかしら?」
母さんの話が終わると、今度はキャロルが目をキラキラさせて話し出す。この二人は、日に日に似ていくようだ。どこから見ても、本当の親子のようだ。
「あのね、マッド。赤ちゃんは藍色の毛並だって聞いたわ。ラピスの弟になるのね!会うのが楽しみだわ!」
キャロルの言葉に、俺の心はますます弾んだ。俺は黒豹の子のところへ行った。すやすやとよく寝ている。本当に可愛らしいな。そっと撫でてやると、ピクッと体を動かした。俺の肩には、いつものようにラピスが乗っている。
ラピスは俺に直接話しかけてはこないけれど、なんとなく思っていることはわかる。まるで俺の家族の一員みたいに、そこにいてくれる。
しばらくすると、黒豹の赤ちゃんが目を覚まし、俺の頭の中に澄んだ声で話しかけてきた。
「マッド、おはよう。オレの名前、決まった?」
俺は、その小さな命に、誇らしげに答えた。
「こいつはラピスで、お前の先輩であり兄貴だ。名前だが、インディでどうだろう」
そう言うと、インディは嬉しそうに、小さな体で大きく頷いた。
そして、俺にとって大切な家族、大切な仲間が、また一人、増えたのだ。




