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子犬と黒豹

 朝食は薬草入りスープと焼きたてのパンだった。

 

 薬草入りスープは、一口飲むと身体がじんわりと温まり、本当に美味しかった。何が入っているのかは分からなかったけれど、濃い緑色をしているのに、思ったよりもあっさりとしていて、口当たりもとても良かった。

 

 今日は夕方の4時頃に出発するので、時間に余裕がある。

 

 出発まで好きなことをしていいと言われ、私はドキドキしながら、お父様に「ワンちゃんたちと遊びたい」とお願いしてみた。

 

「キャロルは動物が好きなんだね。ご飯を食べ終わったら子犬を見に行くかい?」

 

 リオとマッドも「見たい!」と言ってくれたので、みんなで行くことになった。

 子犬たちを驚かせないように、静かに小屋のドアを開けて中に入っていく。そこには、母犬の周りに、まだ生まれて間もない三匹の子犬が、小さな体を寄せ合ってスヤスヤと眠っていた。本当に小さくて、まるで手のひらに乗るくらいのネズミみたいだ。その小さな命が、あまりにも可愛くて、私の心はキュンとなった。この子たちは二日前に生まれたばかりなので、今日は見るだけだ。じっと見つめていると、その中の一匹が、まるで私の視線に気づいたかのように、ふわりと目を開けた。茶色と白が混ざった、ふわふわの毛並み。三匹の中で一番小さくて、細い子犬だった。

 

 その小さなつぶらな瞳と、私の目が合った瞬間。まるで時間が止まったように感じた。子犬は、よろよろと、おぼつかない小さな足で、私の方へとゆっくりと近づいてきた。そして、ちょこんと小さな尻尾を、一生懸命振っている。その姿があまりにも愛おしくて、私の胸は、温かいものでいっぱいになった。

 

 ブレンさんが、私の気持ちを察したように優しく言ってくれた。

 

「お嬢様、よかったら少しだけ抱いてみますか?」

 

 私は大きく頷き、震える手でそっと子犬を抱かせてもらった。想像していたよりも小さくて、ずっしりとしていて、抱きやすかった。小さな体が私の腕の中で温かくて、ふわふわで、ずっとこのまま抱きしめていたいと思った。この子犬との出会いは、きっと私の宝物になるだろう。

 

 マッドは、そんな私をいつものように優しい目で見つめながら、私の頭をそっと撫でてくれた。

 

 別の小屋に行くと、今度は先ほどよりも大きな子犬が二匹いたが、母犬らしき姿はなかった。この子たちは十四日前に小屋の近くの草むらにいたらしく、しばらく遠くから見守っていたものの、母犬が来る気配がないので保護したそうだ。子犬というより、まるで子狼といった感じだった。

 

 黒っぽい子狼と金色っぽい子狼で、既にとてもしっかりと動き回っている。野生なので、あまり無闇に近づかないように言われた。

 

「カルロ坊ちゃん、この子たちの母犬が現れなければ、ここで面倒を見たいと思っています。この子たちはきっと村の役に立つと思いますよ」

 

 ブレンさんがこの子たちの今後についてお父様に話をすると、お父様は少しだけ考えて頷いた。

 

「ああ、いい子そうな子たちだ。野生の狼は人には懐かないと言うが、この子たちはまだ子供だから大丈夫かもしれない。大変だと思うが、よろしく頼むよ」

 

 そしてお父様は黒豹についてマッドに話し始めた。

 

「マッド、怪我をしている黒豹を一度見てもらえないか?かなり弱っているが、昨日は少しだけ食事ができたんだ」

 

 マッドは頷き、お父様と小屋を出て、黒豹に会いに行った。

 

「あまり大勢で行くと警戒しますから、お二人にお任せしましょう」

 

 ブレンさんが私とリオに言った。

 

 私はその後、お母様と一緒にワンちゃんたちと遊んだり、昼ごはんの準備を手伝ったりして過ごした。リオはずっと釣りを楽しんでいたようだ。

 

 昼ごはんの時間になっても、お父様とマッドは現れなかったので、ブレンさんに尋ねてみた。

 

「今の黒豹の状態では自力での出産は無理ですから、腹を切って赤ちゃんを取り出すことにしたそうです。腹から赤ちゃんを取り出せば、薬を使った治療もできるようになるので、助かる見込みも出てくるそうですよ。カルロ坊ちゃんは動物の治療に詳しいから大丈夫です」

 

 お母様が続けて私とリオに説明してくれた。

 

「カルロは貴族学校で動物や魔獣について研究をしていたのよ。その時に怪我をした動物の治療もしたし、出産にも何度も立ち会っているから、きっと大丈夫よ。それでマッドは助手としてカルロを手伝うことになったの。だから、今日も泊まることになるわ」

 

 黒豹と赤ちゃんの無事を祈る以外に、今の私にできることはなかった。

 私はリオといつも通りに過ごし、夜になると、昨日同様に美しい星々が夜空に輝いていた。

 

 夜空には、赤っぽい色や黄色っぽい色など、様々な色の星がまるで宝石箱のように散りばめられていて美しい。

 

 そんなことを思いながら星を眺めていると、リオが話しかけてきた。

 

「キャロル、もう寝る時間だよ。黒豹は父さんとマッドに任せて、僕たちは寝よう。明日になれば手伝うことも出てくるだろうから、寝ておいた方がいい」

 

 そう言われてベッドに入るけれど、なかなか眠れなかった。それでも、いつの間にか寝てしまったようで、目を覚ましたら朝だった。

 

 朝ごはんの席に行くと、マッドがいた。慌ててマッドに飛びつき、「おはよう!」と声を掛けるとおはようと返してくれた。明るく笑っているので、きっと大丈夫だったんだろう。良かった、本当に良かった。

 

「キャロル、黒豹はまだ弱っているけれど、これから少しずつ回復すると思うよ。それに赤ちゃんは少し小さいけど、とても元気で何の問題もない。父さんは疲れてさっき寝に行ったところだ。俺もキャロルの顔を見たから、今から寝てくるよ」

 

「うん、マッド、お疲れ様。頑張ったね」

 

 私はいつもマッドがしてくれるように、彼の頭を優しく撫でた。


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