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綺麗な夕焼け

 養子に向けての挨拶のため、私たちはミシェランへ行くことになった。

 

 お父様の馬車はマーカスさんの馬車ほど速くはないので、どこかで一泊しなければならない。どうするのか尋ねてみると、お母様が楽しそうに教えてくれた。

 

「夕焼けがとても綺麗に見える場所があるから、そこで一泊するつもりよ。危険はほとんどないから大丈夫。楽しみにしていてね」

 

 道中に危険のない場所なんてあるのだろうか?そんなことをぼんやり考えていると、お父様が話を続けた。

 

「近くに川もあるから釣りもできるぞ。夕飯は魚を焼いて食べてもいいな」

 

「父さん、釣りなら僕に任せてよ。僕も楽しみだ!」

 

 そう言ったリオの目は、キラキラと輝いていて、見ている私も嬉しくなった。

 

 当日、まだ薄暗い早朝に、お父様の馬車で私たちは出発した。以前乗ったミシェラン行きの乗り合い馬車よりも、ずっと速い速度で進んでいく。

 

 お父様の馬は魔馬ではないけれど、魔馬の血がほんの少しだけ入っているせいか、普通の馬より速いらしい。御者の言うこともよく聞くので、お父様も馬車の中で私たちと会話を楽しんでいる。

 

 お昼に一時間ほど休憩を取り、再び半日ほど走ったところで、お父様は馬車を止めさせた。彼が何かを呟くと、目の前にすーっと馬車が通れる道が現れ、その道に沿って馬車が動き出した。馬車が通り過ぎると、道はまた、元の草むらのように消えていく。初めて見る魔法を見て、思わず「わぁ!」と声を上げそうになった。

 

 そして二十分ほど走ると、小さな山小屋が見えてきた。

 

 馬車を降りると、五十代ぐらいのご夫婦が温かく出迎えてくれた。それに、モフモフした五匹の犬たちが、しっぽを勢いよくブンブンと振って、お父様とお母様に駆け寄り、嬉しそうに手を舐め回している。

 

 すごく可愛い!私も触りたい!

 そう思っていると、お母様が私の気持ちを見透かしたように呼んでくれた。

 

「キャロル、触りたいんでしょう?こっちにいらっしゃい」

 

 最近のお母様は、まるで私の心を読むかのように気持ちを察してくれるから、なんだかとっても恥ずかしい。でも今は、とにかくモフモフしたくてたまらない。そっと触らせてもらうと、ふわふわしていて暖かくて、本当に可愛くて、なかなか手が離せなかった。

 

 ご夫婦はブレンさんとハルさんという名前で、お父様の実家であるミシェラン侯爵家で三十年勤めた後、お父様にお仕えするようになったそうだ。今はここで馬や犬の育成、それから薬草の栽培をしてくれている。

 

 この辺りはブライトン侯爵家の私有地になっていて、魔道具で結界が張り巡らされているから危険は少ないらしい。ご夫婦も見かけによらず、かなり鍛えているし、犬や馬もそこらの野盗や魔獣より強いそうだ。

 

 やがて、夕焼けが見える最高の場所で、お茶の準備をしてくれた。デザートは新鮮な卵を使ったプリン。口の中でとろとろと溶けていくような甘さが、本当に美味しかった。

 

 お茶を飲みながら動物たちの話をしていると、お父様がブレンさんに尋ねた。

 

「手紙で依頼していた件はどうだろうか?」

 

「馬はまだ分かりませんね。この辺りに魔馬がいるのは分かっているんですが、何しろ人を見かけるとすぐにどこかへ行ってしまいますから。ですが、元気な子犬が五匹も生まれましたよ。みんな可愛くていい子たちです。それと、三日前に重傷を負った黒豹を保護したのですが、全く食事をとらなくて困っているんです。お腹に子もいるようで……。もしかしたらカルロ坊ちゃんになら、少しは気を許すかもしれませんので、一度見てやってください」

 

「そうか、後で見させてもらおう」

 

「カルロは昔から動物に懐かれるのよ。理由は全く分からないんだけどね」

 

 お母様が不思議そうに、少し笑いながらそう言った。

 

「父さんは、その動物たちをどうするの?」

 

 リオの質問に、お父様は丁寧に答えてくれた。

 

「ルルソン村やルルカラ村は年寄りや子供が多いから、どうしても守りが手薄になるだろう。今は門番のワンス爺さんを中心とした元凄腕冒険者がいるからいいが、今後はどうなるか分からない。契約した魔獣は契約者の言うことしか聞かないが、動物たちはそんなことはない。しっかりと訓練をすれば村を守ることに役立つと思うんだ。将来のためにいろいろ準備をするのも、領主の大事な仕事だからな」

 

「なぜ魔馬を探しているの?やっぱり魔馬の方がいいの?」

 

 リオが次々と疑問を投げかける。

 

「魔馬を捕まえようと思っているわけではないんだ。可能であれば、種馬になってもらおうと思ってな……。まあ、もう少しお前たちが大きくなってから話そう」

 

「うん、だいたい分かったからもういいよ」

 

 マッドは納得したようだ。

 

 そんな会話をしていると、陽もゆっくりと沈みかけ、空の色が刻一刻と変化していく。

 

「わぁ……物凄く綺麗!」

 

 私は両手で口元を押さえて、その光景に息をのんだ。地平線は、まばゆい黄金の光を放ち、空全体は、見る見るうちに薔薇色に染まっていく。一つ一つの雲が、まるで光の粒をまとっているようだ。空いっぱいに広がるそのパノラマは、言葉では言い表せないほどだった。今日一日の終わりを告げながら、明日への希望を灯すような、そんな優しい夕焼け。この、心震えるような景色を、私はきっと、永遠に忘れない。


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