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失意からの光 ミラン視点

ミラン(カルロの妻であり王妹)視点

 

 結婚当初、カルロと私は互いに魔力量が多かったため、子供ができにくいだろうとは思っていた。しかし、まさか全く授からないとは考えてもいなかった。思いのほか早くに子を授かり、周囲からも祝福されたが、喜びも束の間、流産してしまった。その子をこの腕で抱きしめることは、永遠に叶わなかった。

 

 流産した後、「もう二度と子はできないでしょう」という医師の言葉が、冷たい刃のように私の心を貫いた。その瞬間、私の世界は音を立てて崩れ落ちた。絶望という名の深い淵に突き落とされ、全身から力が抜け落ちていくのを感じた。目の前は真っ暗で、何を考えても、どんな光も届かない。私は次第に屋敷から出なくなり、ほとんど誰とも話さなくなった。窓の外の明るい日差しでさえ、私にはただの残酷な光景にしか映らなかった。

 

 カルロはそんな私を気遣い、優しく接してくれたが、私の気持ちが晴れることはなかった。それからは、彼に離縁や妾の話を持ちかけては、とめどなく溢れる涙を流していた。泣いてもどうにもならないのに、涙が止まらなかったのだ。今思い出せば、カルロに対してどれほど酷いことを口走り、彼を深く傷つけてしまったか、胸が締め付けられる思いだ。

 

 あれから10年以上が過ぎ、今は養子の選定を進めている。侯爵である以上、跡取りを決め、領民に迷惑をかけることのないよう、しっかりと引き継がなければならないからだ。

 

 最近、カルロはルルソン村に来た子供たちを、ひどく気にしているようだった。冒険者クエストでミシェランへ行く途中で彼らが襲撃に遭った時には、カルロはひどく取り乱していた。あんなに動揺した彼の姿は、結婚してから一度も見たことがなかった。

 

 私も子供たちのことが気になり、少しだけ調べてみた。カルロとの接点はルルソン村に来てからで、隠し子ではないようだ。正直言って、隠し子でも何でも構わないから、カルロの実の子が欲しかった。彼は素晴らしい才能の持ち主で、領民にも優しく、仕事もよくできる。そんな優れた人格者の子を後世に残せないのは、まるで罪のように思えたのだ。

 

 夜中の2時前だっただろうか。突然、カラスが物凄い勢いで窓を叩き、屋敷中が大騒ぎになった。その大きな鳴き声で屋敷中の者が起き上がり、カルロがすぐに窓を開けて対応した。カラスが持っていた小さな紙を見た途端、カルロは数人の兵を連れて勢いよく馬で駆けていった。あの時の彼の顔は、真っ青だった。

 

 何が起こったのか私には全く分からず、残された紙を拾うと「襲撃者 襲われている 応援求む リオ」と書かれていた。子供たちが襲われている?どうして?不安と恐怖で心臓が震えた。

 

 カルロが戻ってきたのは早朝だった。ひどく疲れているようだったが、少し思案するような仕草をした後、私に話し始めた。3人の子供たちの才能、聖獣、ミシェランでの事件、そして神の使い……。カルロが知る全てを、彼はひとつずつ丁寧に教えてくれた。彼の言葉は、まるで乾いた大地に水が染み渡るように、私の心に深く響いた。

 

 私は、以前見た夢と、ミシェランで見たあの鞄や木箱が、なぜだか鮮明に脳裏に蘇ってきた。

 

「私も、その天使たちに会ってみたいわ」

 

 私の口から、素直な言葉がこぼれ落ちた。

 

 子供たちを迎える準備をするのは、とても楽しかった。まだ何も決まっていないのに、子供部屋の家具や壁紙まで考えている自分が可笑しかった。まるで、枯れていた感情が、一気に色を取り戻していくような感覚だった。

 

 準備を進めていると、カルロが養子の件を話してきた。彼はどこか気まずそうにしていたが、彼の気持ちは痛いほど理解しているつもりだ。

 

 そして夕方、待ちに待った天使たちが、聖獣や鳥を連れて屋敷にやってきた。あの時のカラスも一緒で、何だか勝ち誇ったような様子なのがとても可愛かった。

 

 最後に馬車から降りてきたマッドを見た時、私の全身を電流が走るような衝撃が貫いた。息が止まり、心臓が大きく脈打つ。マッドは、出会った頃のカルロに似た顔立ちをしているだけではなかった。彼の瞳は、私の家系の色そのものだったのだ。この世にこれほどまでに鮮やかな深い青が存在するだろうか。吸い込まれるようなその瞳に、私の血が騒いだ。

 

 さらに、彼が話す言葉の選び方、ちょっとした仕草、ふとした時の癖までが、カルロに驚くほどそっくりだった。それはもう、偶然では済まされないレベルだった。まるで、長年探し求めていたパズルの最後のピースが、目の前にはめ込まれたような感覚。どうして他人だと思えようか。この子は、紛れもなく私の血を引いているのではないか。

 

 私は流産した時、子供は男の子だったと聞いていた。それ以来、ずっとその子を頭の中で想像し、空想の中で育ててきた。その想像していた子が、今、目の前に立っているのだ。

 

 涙が溢れて止まらなくなり、私はそっと席をはずして気を沈めた。すると、カルロが静かに側にやってきた。

 

「俺もあの子を最初に見た時、驚いたんだ。それもあって、ずっと気にかけていたんだ。養子の件をあの子たちに伝えてもいいだろうか?」

 

 良いも何もない。こちらからお願いをしたいくらいだ。

 マッドだけでなく、リオやキャロルも天使そのもので、なぜだか頭から離れなかった。私はずっと、自分のスキルがよく分からなかった。子供もいないのに「母なる力」などというスキルがあってどうするのか、「国母にでもなれとでも言うのか」と、ずっと神に問いかけていたのだ。

 

 だが、あの子たちに会って全てが腑に落ちた。神が私に何をさせたかったのか、今ならはっきりと理解できる。

 

 私は、あの子たちを命を懸けて必ず守り、幸せにしてみせると、心の中で強く誓った。

 

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